クリスマスプレゼント

 ───────その後。俺は顔をアザだらけにしながら出勤した。俺の顔を見た田中さんは思わず声を上げた。

 

「どうしたんだその顔!?」

「あー色々ありまして……」

「まさか、姦姦蛇螺が関係してるのか!?」

「いえ、階段から転んだだけです」

 

 田中さんは顔を曇らせながら俺を見つめる。

 

 まさか寝起きドッキリをしかけてお化け達に袋叩きにされたと言っても信じて貰えないだろう。

 

 俺は田中さんに心配させないようにブサイクな顔でニコリと笑った。

 

「実は……エッチな本を読みながら階段を降りてたら足を滑らせただけです。あは、あはははは……」

 

 だが、田中さんは俺を悲しそうな目で見つめる。

 

 そんな目で見ないでぇっ!

 

 すると、田中さんは鞄から封筒を取り出して俺に手渡した。

 

「まぁ、過ぎたことは忘れよう。これは私からのクリスマスプレゼントだ」

「え?プレゼント?開けても良いですか?」

「勿論さ」

 

 封筒の中身を開けて見ると、どこかのホテルの宿泊券が入っていた。俺は慌てて突き返す。

 

「めちゃくちゃ高そうなホテルじゃないですか!貰えませんよ!」

「いや、いいんだ。息子も世話になったからな、これくらいしか出来ないが受け取ってくれ」

「そういえば、息子さんはあれからどうですか?」

「息子なら戻って来て今は元気にしてるよ。君が余程怖かったのか、あれから真面目に学校へも行くようになったよ」

「そうなんですか、良かったですね!」

「だから安心してこの宿泊券を受け取って欲しい」

 

 田中さんはそう言って俺に再び渡して来た。根負けした俺は、宿泊券を受け取った。

 

「ありがとうございます。ちなみにここ何処のホテルですか?」

 

 俺は再び高価な宿泊券を取り出し、田中さんに尋ねた。

 

「そこかい?アメリカの、○○州の幽霊ホテルで有名な○○ホテルさ。一部のマニアには大人気らしいよ?」

「え?アメ、アメリカ!?」

 

 思わず宿泊券を二度見する。

 

「え、でもめちゃくちゃ遠いですよ!?一日二日じゃ帰って来れませんって!仕事だってあるのに」

 

 俺が現実的な事を田中さんに言うと、田中さんは鼻息を荒らげながら言った。

 

「なぁに、福島くんにはここの商業施設の応援やら息子のことで世話になったんだ。福島くんのシフトは私がなんとかするよ」

 

 なんとかしてくれるなら、行ってもいいかなぁ?

 

「分かりました。行ってきます!」

「所で、福島くん英語は堪能なのかい? 通訳さんも雇おうか?」

 

 と、田中さんが首を傾げながら尋ねて来た。だが、俺は首を横に振った。

 

「あっ、大丈夫ですよ。俺、英検1級持ってるんで」

「1級!?最高難易度じゃないか!!凄いね君!?」

「えへへ、んじゃ来週の金曜日に出発でもいいですかね?」

「ああ、構わないよ。シフトを調整しておくから」

「分かりました!」

 

 ───────勤務後、俺はルンルン気分で自宅に帰り、キャリーケースに必要な物を詰め込んでいた。上機嫌な俺にはーちゃんがドアの隙間から声を掛けて来た。

 

「龍星さん、上機嫌でどうしたんですか?」

「お、はーちゃん。実は来週アメリカに行く事になったんだよね」

「あ、アメリカ……米国ですよね?」

「うん、そうそう。そういえばメリーと花ちゃんは?まだ今朝のこと怒ってる?」

 

 俺が振り返ってはーちゃんに尋ねると、

 

「あ、あの……「顔も見たくない」「しばらく口も聞かん」と言って部屋に閉じこもってます」

「そっかぁ。他は?」

「隙間女さんは「別にパンツ見られたくらいだし?」と言って普通に茶の間に居ますよ?お菊さんとくねくねさんも一緒です」

「だーりんは?」

「姦姦蛇螺さんはまだ裏の林にいるんじゃないですかね?「ほらな?奴はこういう奴なんだ」とは言ってましたけど」

 

 お化けにも色んな考えを持つ奴がいるんだな。100パーセント俺が悪いんだけども。後で声を掛けて見るか。

 

 そして俺ははーちゃんの目を見つめた。

 

「で?はーちゃんはいつまでそこにいるの?入って来たら?」

「いやぁ……それはちょっと……」

 

 はーちゃんはドアをゆっくり閉め始める。だが俺はドアに手をかけて閉めるのを止めた。

 

「悪かったって、そんなに避けないでよ」

「い、いえ、ちょっと今はそっとしといて下さい……」

 

 あの誰よりも優しいはーちゃんまで拒否するの!?

 

 俺とはーちゃんでドアの引っ張り合う。

 

「分かった、お詫びになんか高級なやつお供えするから!」

「物なんかで釣らないで下さいっ!私はそんな安い女じゃありません!」

 

 力負けしてドアをバンと閉められてしまった。直ぐにドアを開けるとはーちゃんは姿を消していた。

 

 逃げられたか……。

 

 仕方ないのでその足でメリーと花ちゃんの部屋を訪れた。俺は恐る恐るドアをノックする。

 

「メリー?花ちゃーん?」

 

 返事がない、ただの独り言の様だ。

 

 仕方ないので自分の部屋に戻ろうとした。

 

 その時。

 

 ドアの隙間からメモが現れた。メモを拾ってみると、「何しに来た?」と記されていた。

 

「何しに来たって、謝りに来たんだけど?」

 

 そう言うとまたメモが出て来た。メモには「謝って済むなら霊媒師はいらん」と書かれていた。

 

 余程ご立腹のご様子で……。

 

 俺は深く溜息を吐きながら、

 

「悪かった。ごめんね、ちょっとやり過ぎたよ。俺来週アメリカに行く事になったんだけど、一緒に行く?幽霊ホテルらしいんだけど?」

 

 申し訳なさそうに言うと、またメモが出て来た。3枚目のメモには「アンタなんかと誰が行くの?バカなの?行くなら勝手に行け! 向こうで呪われてくたばれ!」と記されていた。

 

 この2人は飛びつくと思ってたのだが、1人で行くしかないか……。

 

 俺は再び戻って荷物をまとめ始めた。

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