安心してください!

 固まったアクロバティックサラサラこと『サッちゃん』は俺に指を差して言い放つ。

 

「え、え?トイレ……え?今、出してるの?」

「いや?今出たところ」

「ん、んじゃほら、スボン上げなよ。待っててあげるから」

 

 サッちゃんは俺の方を向かずにそっぽを向いて言ってくる。俺は首を傾げた。

 

 目玉ないのになんで分かるんだろう?

 

 俺は水を流して立ち上がりながらサッちゃんに尋ねた。

 

「ねぇねぇ、目ん玉ないのになんで見えるの?もしかして心の目で見てるの?」

「こ、こんな目をしてても見えてるのよ!早くズボン上げてよ!」

 

 サッちゃんは俺と一定の距離を保ちながら俺に言ってくる。だが俺はサッちゃんが怯んだ瞬間を見逃さなかった。YouTub○で軽快な音楽を流しながらサッちゃんに言い放つ。

 

「安心してください!  履いてませんよ!」

「安心できるわけねぇだろ!」

 

 サッちゃんは激昂しながら騒ぎ出した。仕方なく俺はズボンを上げる。

 

「ノリが悪いなぁ。ほら、今度は大丈夫だから」

「ほ、本当よね?そ、そっち向くわよ?」

 

 サッちゃんがゆっくり俺の方を向くと下半身に視線を向ける。チャックの間からは俺のカミツキガメがこんにちはしていた。

 

「出てる出てる!変なのが出てるから!」

「やらないか」

「うるせぇよ!何をだよ!何もやらねぇよ!」

「遠慮しないで」

 

 俺がチャック全開のまま近付くとサッちゃんは汚物を見るような目で、俺から離れるが、俺はサッちゃんをトイレ内でぐるぐると追い回す。

 

「いやいやいや、無理無理無理」

「そんな照れなくていいんだよ?」

「照れてねぇよ、気持ち悪いわねぇっ!」

「よしてくれ、そんなに褒めても何も出ないよ?」

「ねぇ?どこで褒めた?どこで褒めてた!?耳付いてるわよね?」

 

 余程不気味だったのか、サッちゃんは全力で威嚇して来た。トイレの臭いが気になる為俺は外に出ようとドアに手を掛けた。だが、心霊現象でよくあるパターンのドアが【開かない現象】が起こっていた。

 

 嫌よ嫌よも好きのうちってか?

 

 俺は鼻息をふんふんと鳴らしながら振り返る。

 

「口では嫌って言っても、心は求めてるんじゃないのかい?」

「…………は?  いや、あんた何言って──────」

「なんだかんだ言ってもそうやってパンツ見せ付けてるじゃないか」

 

 サッちゃんは中腰になっているのが疲れて体育座りをしていたのだが、足を広げた状態だった。俺に指摘されたサッちゃんは咄嗟に足を閉じる。

 

「ち、違うわよっ!私はちょっと気が緩んでただけよ!」

「赤と白の縞模様」

「言わないでよ!  それより鼻息なんとかしてくれる!?」

 

 俺は鼻息を荒らげながら頭に指で角を作り牛の真似をしていた。牛の真似といってもイメージはスペインの猛牛をイメージしている。サッちゃんは今にも突進して来そうな俺を指差す。

 

「ちょっと、牛みたいになんで荒ぶってんの?こ、来ないで!」

「モオオオオオオオ!!」

 

 俺はサッちゃんの静止を聞かずに猛牛の様に突進していく。サッちゃんは悲鳴を上げながら慌てて避ける。

 

「やめてよこんな狭い所で!そ、それに!多目的トイレはこんな事に使っちゃ行けないのよ!?」

「モオオオオオオオ!!」

「話を聞けぇぇっ!」

 

 サッちゃんは躱す。俺は壁に激突して鼻血を出す。その隙にサッちゃんは逃げようとドアに手を掛けるが扉が開かなくなっていた。

 

「なんで開かないのよ!開けて!開けてぇぇっ!牛が牛が襲ってくる!」

「モオオオオオオオ!!」

 

 余程怖いのか、サッちゃんはぐしゃぐしゃに泣き出す。だが、突然ドアが開かれた。サッちゃんは外へ逃げ出すと俺はそのまま突進する。

 

 ぼふんっ!

 

「きゃぁぁぁぁっ!」

 

 俺は物凄い勢いで誰かとぶつかった。柔らかい物に挟まれた俺が顔を上げると押し倒されたはーちゃんがいた。

 

「はーちゃん!?すぅっ!」

「あいたた…………龍星さん、大丈夫ですか!?」

「お、おう。大丈夫大丈夫すぅっ!」

「あ、あの…………谷間で深呼吸しないで下さい、息が熱いです」

「お構いなく」

「あっちょっと龍星さん!?」

「あんたいい加減にしなさいよっ!変態っ!」

 

 俺はサッちゃんに頭を叩かれた。ようやく落ち着きを取り戻した俺とサッちゃんは助けに来てくれたはーちゃんと一緒に場所を変えた。俺はベンチに座りはーちゃんとサッちゃんは簡単に挨拶を済ませて地面に正座という形になった。俺は偉そうにコーヒーを飲んでサッちゃんの実態を聞き始めた。

 

「なるほど、んじゃサッちゃんも元は人間なんだな。男に騙されてそのショックで投身自殺をしたと?」

「ええそうよ。ってなんであんた偉そうにしてんの?」

 

 サッちゃんは供えられたコーヒーを飲みながら言う。だが俺は、あっけらかんとした態度で返す。

 

「男に騙されたくらいで死ぬなよ、人生これからだろ?」

 

 俺に言われたサッちゃんはギロッと俺を見る。

 

「あんたに何が分かるって言うの?あんたに私の気持ちが分かるっての?」

「まぁね、俺も振られた経験があるからね。多少は分かるさ」

 

 俺はYouT○beで音楽を再生させながらサッちゃんとはーちゃんに近付いた。

 

「昔の男に騙されたってって?なら、サッちゃんに質問です!例えば、女の子だって、毎日同じ味のラーメンを食べる続けると思う?まぁ、中には居るだろう。けど、たまに……。別のラーメン、食べたくない?男はラーメンと同じ!醤油味の様な純情な男もいれば、味噌みたいに濃厚な愛情を注いでくれる男もいる。他にも味わった事がない未知な味がある。だって、日本に何店舗店があると思うんだい? 35億店舗」

「いや、そんなにないでしょ!?せいぜい1万〜2万くらいでしょ!?」

 

 サッちゃんに普通に返されてしまった。

 

「とにかく!他にも男はいるだろって事だよ!」

「余計なお世話よ!こんな醜くなった顔でどうしようって言うの?」

 

 サッちゃんは目玉がない状態で俺に顔を近付ける。俺はポケットから目玉グミを取り出した。

 

「目玉ないならコレ使って見る?」

「あっ、コレテレビで見ました!メリーさんが気になってましたよ?」

「え、何これ…………?」

 

 開封して目玉グミを2つサッちゃんの手の上に乗せた。サッちゃんは疑っているのか、警戒しながらグミを見つめる。

 

「アクサラさん、龍星さんを信じて見て下さい。大丈夫ですから」

「八尺さんが言うなら…………」

 

 サッちゃんは意を決して目玉グミを眼窩に押し付けた。

 

「アラスタッタピィーヤ!!」

 

 俺が呪文を唱えた瞬間、サッちゃんはびっくりしたが直ぐに異変が起きた。

 

「嘘、グミが目玉になった!?」

「どうですか?違和感とかありますか?」

 

 はーちゃんが恐る恐る尋ねると、

 

「本物見たいね、動かせるわ」

「良かったですね!」

「まぁこれで少しは動きやすくなっただろ?また遊ぼうぜ!」

 

 俺は太陽の様にニカッと笑うとサッちゃんは頬を赤らめながらそっぽを向いた。

 

「べっ、べつに感謝なんかしないんだからね!あんたは私が殺してやるんだから!  首を洗って待ってなさい!」

 

 サッちゃんはそう言い残しながら暗闇に消えて行った。

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