警備員、取り憑かれる

 ───────そのから数日後、無事にハロウィンを終えた俺は平凡の日々を過ごしながら商業施設の仕事をこなしていた。そんなある日、仕事を終えてタイムカードを押そうとしたその時、警備部長の田中さんに声を掛けられた。

 

「お疲れ様、福島くん」

「あ、お疲れ様です!」

 

 俺がぺこっと頭を下げると、田中さんは壁に立てかけていたギターを手にする。

 

「福島くん、ギターに興味はあるかな?」

「ギターですか? ええまあ、一応弾けますけど?」

「なら良かった。実は息子が使ってたのだが、息子は自立してしまったのだがね?捨てるにはもったいなくて引き取り手を探していたんだよ。ネットで売ろうともしたんだけど、どうせなら信用出来る人に引き取ってくれる人がいいなと思ってね?福島くん、どうかな?」

 

 そう言いながら警備部長は俺にギターを見せてくる。

 

 邪魔だから押し付けてるのでは?

 

 一瞬そう思ったが、警備部長の折角のご好意なので俺は遠慮なく受け取った。

 

「分かりました。俺が責任もって引き取りますよ」

「ありがとう。んじゃ、お疲れ」

「お疲れ様でした」

 

 ジャラ〜ン♪と弾きながらお辞儀をして施設を後にした。今日はギターを持ってる為、今日気分転換に別の帰り道を帰ることにした。その帰る途中、ギターストラップを掛けながら弾き語りをする歌手のように道路を歩きながらギターを見つめる。

 

「ギターなんて久しぶりだなぁ、ちょっと練習したいな」

 

 たまたま通りかかったお寺に目が行った。まだ夕方だったからか、鉄のゲートが開いていた。

 

 ちょっと寄って行こうか。

 

 そう考えた俺は、そのお寺の中に入って行った。

 

「この辺なら…………大丈夫かな?怒られないかな?お寺だからお坊さんが居るだろうし、怒られたくないからなぁ。この辺なら…………いや、やっぱりちょっと許可貰ってからの方がいいな」

 

 そう考えた俺は、そのお寺の中を歩来はじめる。お寺の名前は○○寺と書かれていた。すると、ほうきで掃除をしていたお坊さんがいた。俺はお坊さんに声を掛ける。

 

「すいません、ちょっとこの辺で少しだけギターの練習していいですか?」

「はいはい、ギターでしたら構いませんよ?」

「ありがとうございます。ほんの数十分ですから」

「はい、構いません」

 

 よし、許可は貰った。

 

 お坊さんがお寺の中に戻って行く。そして、俺は1人でギターを弾き始めた。

 

「あめあめふれふれ、父さんが、知らない女と出ていった♪ピッチピッチチャップチャップらんらんらん♪」

 

 即興で歌い出した。すると、

 

「お前さん、随分面白い歌を歌うんだねぇ」

 

 え?

 

 1人だった筈なのに後ろから声を掛けられた。俺はゆっくり振り返ると、お菊さんの様な着物を着た女の人が立っていた。だが、その人は顔を半分髪で隠していた。

 

 この感じ、幽霊…………かな?

 

 俺はいつも出会す幽霊達とは違う感覚を感じた。だが、女の幽霊はお構い無しに近付いて来る。

 

「どうしたんだい?あたいが見えるんだろう?  もっと弾いておくれよ。ここに1人で退屈だったんだ」

 

 女の幽霊は俺が見えると分かった途端、俺の腰掛けていた椅子隣に座り出す。俺はいつもと違う感覚に違和感を感じた為、女の幽霊から距離を置く。

 

「そんな怖がらなくてもいいじゃないか。別に取って食ったりしないよ」

「あ、はい…………」

「ほら、もっと弾いておくれ」

「えーと、えーと…………どんなのがいいですか?」

「なんでもいいよ。さっきの続きがいいねぇ」

 

 さっきの続き!?アレ替え歌なんだけど。

 

 俺は少し考えて、先程の【あめあめふれふれ】の替え歌を歌い出した。

 

「あめあめふれふれ、母さんは、帰らぬ父さん待っている♪ピッチピッチチャップチャップらんらんらん♪」

 

 女の幽霊は気に入ったのか、手を叩いて喜んでいた。

 

「いい歌だねぇ。気に入ったよ」

「あ、ありがとうございます」

「もっと弾いておくれよ」

 

 欲しがりさんだなぁ。まぁ、供養と考えればいいか。

 

「あ、いや…………結構難しいんで、また今度で良いですか?色々練習して来ますから」

 

 俺が申し訳なさそうに言うと、女の幽霊は少し悲しそうな顔をする。

 

「そう…………なら、仕方ないね。あたしはここにいるからまた来ておくれよ」

「はい。必ず来ますよ!約束します」

「約束だよ?なら、指切りげんまんしよう」

 

 女の幽霊と指切りげんまんをして女の幽霊に見送られながら俺はお寺を後にした。妙に疲れを感じながら家に辿り着き、ギターを片手に玄関に入るとお菊さんが近付いて来た。

 

「ただいま〜」

「おかりなさいませ、随分遅いお帰りですね。お忙しいのですか?」

「いや、ちょっとギターの練習してたんだよ」

「ぎたー?その琵琶の様なものですか?」

「うん、ちょっと疲れたから休ませて…………」

 

 お菊さんにそう言って通り過ぎようとした瞬間、お菊さんに腕を掴まれた。お菊さんの顔を見ると、ただらなぬ剣幕をしていた。

 

「ちょっと、龍星さん?どなたかと御一緒でしたか?」

「え?なんで分かったの?」

「ちょっとこちらに来て下さい!花子さん!八尺さん!メリーさん!すきまさん!くねくねさん!早く来て下さい!大変ですよぉぉっ!!」

 

 お菊さんは俺の腕を引っ張りながら茶の間に連れて来る。騒ぎを聞き付けたお化け達が集まり出した。

 

「なんの騒ぎ〜?」

「どうしたんですか?」

「なになに?新商品の何か買ってきたの!?」

「なんじゃ?何事じゃ?」

「なんだ!?どうした!?」

 

 集まったのを確認したお菊さんは俺を座らせると、お菊さんは俺の隣に座った途端、

 

「龍星さんが、龍星さんが、取り憑かれております!」

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