エピローグ
人面犬を取り押さえるとメリー達も立ち直り、拘束された人面犬を囲みながらメリーが事情を話し始めた。事の始まりは俺が研修1ヶ月程経ったある日、みんなでゴロゴロしている時に外から犬の鳴き声が聞こえて来たらしい。不思議に思ったはーちゃんが外の様子を伺おうとした瞬間人面犬が突然入って来たという。何度も追い出そうとしたが人面犬がすばしっこくて捕まえられず今日まで苦戦を強いられたという。
3ヶ月も追いかけていれば部屋もここまで荒れる訳か。
俺はお菊さんのお茶を3ヶ月ぶりに啜りながら、
「まぁ事情は分かった。で?なんでおじさん落ち込んでたの?」
「マスコットポジションが危ういからだっ!」
「いや無理あるでしょ!?」
「おい、人間。飯をくれ」
捕まってるクセに未だに反省の色を見せない人面犬。俺は近くにあった新聞紙をボールのように丸めて人面犬に投げた。すると人面犬は、
「うおっ!ボールだっ!ボール!!」
「この辺は犬っぽいよねぇ」
「うむ。顔さえ普通だったらなんともないのだがな」
「ハッハッハ!ボールボール!!」
「あー気持ち悪い!!龍星さっさと追い出してよ!」
怒りをあらわにするすーちゃんをまぁまぁと宥める。俺は新聞紙に興奮している人面犬に声をかける。
「まず色々聞きたい事があるんだけど、1個だけ確認させてくれる? なんでそんな人間みたいな顔になってんの?」
「ボール!ボールだっ!ハッハッハ!!」
「ねぇ?聞いてる?」
「くぅーん!くぅーん!」
このはバター犬めっ!!
俺の言葉に聞く耳を立てないのに腹が立った。俺は無言でハエたたきでスパンと頭を叩いた。それを見たメリー達が慌てて止める。
「ちょちょちょ!いくらなんでもやり過ぎだって!」
「り、龍星さん暴力はいけませんよ!」
「あんたが腹立ててどうすんのよ!」
「いいぞ!あんちゃん!やったれ!やったれ!」
「おじさま、龍星さんを焚き付けないで下さいっ!」
コイツは妖怪、可愛らしい動物じゃないからセーフ。
俺ははーちゃんに抑えられると、人面犬は頭を擦りながら答えた。
「いってぇ…………俺か?俺は元々人間だったんだよ。リストラされちまうし、妻と子供にも逃げられるし、最後の最後には痴漢して捕まるし生きる気力を失っちまってそのまま電車に飛び込んだんだよ。けどやりたい事残してるし、近くに犬の死体があったからここでいいかなぁって………んで、このザマよ」
「いや、自業自得じゃんそれ」
メリーは軽蔑する目で人面犬を見つめる。
なるほど、この世にその辺の幽霊と同じで未練があるのか。
「やり残した事ってちなみに何がしたいの?出来ることなら協力するけど?」
「若い女のスカート覗くこと」
俺は再びハエたたきを手に取った。
「怒らないで!相手にする事ないわよこんなクズ!やり残した事がスカート覗くことってそりゃ奥さんも子供も逃げ出すわよ!」
「俺となんかキャラ被ってるしな?」
「あんたはどこに対抗意識燃やしてんのよ!相手人間じゃあるまいし!」
「それで、どうするんじゃ?龍星」
花ちゃんに尋ねられた俺は腕組みをして考え込む。
そういえば、なんでここが分かったのだろうか?
「おい、人面犬」
「なんだよ?」
「なんでこの家が分かったの?」
質問に答えさせる為に人面犬の紐を解くと、人面犬は大人しくお座りをして答えた。
「え?匂い、それと気配だな」
「え?そんな事出来んの?」
「おう、幽霊探し当てるなんて朝飯前よ。伊達に30年以上彷徨ってねぇからな!」
すげぇ、コイツ麻薬犬見たいに幽霊探せんのか。
「けど俺もなんとなく分かるし、別にいいかな?」
「えっ!?」
「そうですよね、龍星さんいれば大丈夫ですよね?」
「はぁ!?」
「立場ないじゃん」
だが人面犬は負けずに更に話し出した。
「こっ、こう見えて生前競馬が得意だったんだ!ラジオかテレビ貸してくれたら生活費稼ぐ」
「それおじさんと被ってるから」
メリーが小さいおじさんを指さすと、小さいおじさんは勝ち誇った顔をしながら人面犬を見下ろしていた。
「悪いな人面犬、その仕事はおじさんの仕事だ」
「くっ…………!!掃除なら」
「それはわたしの仕事ですから取らないで下さいまし!」
「ぐぅっ!!番犬!番犬なら」
「それはおくまがやってるから、で?他になんかあんの?」
悩んだ人面犬は苦し紛れに、
「て、手品出来ます!」
「そんな状態で何ができると言うのだ?」
「鳩、鳩出せますっ!鳩っ!」
「鳩なんてどこに隠してるんじゃ?、だったら今すぐ出してみろ」
「……………………」
「が、ん、ば、れ」
八方塞がりになって追い詰められ、遂にはくねくねに撫でられながら同情される始末。そして、人面犬はついに。
「お願いします!ここに住まわせて下さいっ!ペット枠を、ペット枠を俺に下さいっ!皆さんの心を癒させて下さいっ!!迷える子羊を飼う広い心を育んで下さいっ!」
「今度は万策尽きて情に訴えかけて来たんですけど!?」
「いつの間にか私たちの器が試されてるんですが…………」
「どうするの龍星?コイツ飼うの?」
「え?俺が決めるの?」
「ここの主はお主だからの、龍星が決めればいい」
確かにペットは欲しかったけど…………ただ。
「うーん、俺は飼っても良いけどさ?ほら、他の人に見えない訳でしょ?はい、飼いました。 散歩します。 けど、見えない人から見たら何もいないのに犬小屋立ててたり、街中リード引きずってたりしたら心を病んでる変な人よ?可哀想な目で見られちゃうじゃん」
「そ、そう言われれば…………そうですよね」
「だろ?って訳で多数決取りたいと思いまーす」
そう言って俺は皆を見渡せる様に座り直し、皆に尋ねた。人面犬は生唾を飲む。
「では聞きます。人面犬を飼ってもいいよってやつ」
そう言った途端、誰も手を挙げなかった。
「反対」
って言った瞬間皆ピーンと綺麗に手を高く伸ばしていた。おくまですら髪の毛を伸ばしてアピールをしている。
ということは…………。
「満場一致で反対とされました」
「異議なし」
「異議なーし」
「いぎ、なし」
「異議なしです」
「異議なしね」
「異議あり!!なんでだよ!俺だよ?人面犬なんだよ?ちょっと有名人な人面犬さんなんだよ!?俺を飼ったらアレだよ?あんたも有名人だよ?つーかあんた手を上げろよ!なんで挙げてねぇんだよ!!」
性懲りも無く諦めない人面犬。
強かだなコイツ。
「けど、有名人ならここにいっぱいいるもん」
「ど、どうしてもダメか!?」
「多数決で決まったでしょ、いい加減諦めなさい」
メリーが人面犬に言い放つと、人面犬は開き直ったのか突然騒ぎ出した。
「はぁーっ!?なんなんだ!?近頃の若い衆は!?どいつもこいつも冷たくしやがって、動物を大事しろって母ちゃんに言われなかったか!?んん!?」
「途端に口悪くなったわねコイツ」
「うるせぇ小娘ども!」
「なんですって!?」
「メリー、捕まえてボコボコにしてやりましょ!」
すーちゃんとメリーが人面犬を捕まえようとすると、人面犬は窓へ飛び上がった。
「もうこんな所こねぇよ、死ねカス!覚えてろよお前ら!絶対借りを返しに来るからな!!」
人面犬は負け犬の遠吠えの様に捨て台詞を吐きながら外に飛び出し、森の中へと消えて行った。
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