ちょっと酸っぱいマフラー

 熱い接吻をかまそうとしたその時、

 

「や、やめ、やめろぉっ!!」

 

 突然、マフラーの女の体が動きだして俺をドンと突き飛ばし、首を強奪して行った。突き飛ばれた俺は、尻もちをついた。

 

「あたた…………。待って待って!首取れてんのになんで動けんの!?」

 

 首を取り返したマフラーの女は首を再び胴体にくっつけて再びマフラーを巻き始めた。

 

「わ、わ、わ、私はゆ、ゆ、幽霊だから」

「幽霊ってそんな事も出来んのかよっ!アレじゃん。ゲームとかに出てくるなんだっけ、えーっと…………そうそうデュラハンだ!自分の首を持って歩いてるモンスターのデュラハンだ!!」

「でゅ、でゅ、でゅらはん?」

 

 マフラーの女が首を傾げると、

 

「デュラハン分かんないの!?ちょっと首貸してくれる?」

「え、え、ま、また、き、キス、す、す、す、するんじゃ?」

「しないしない、ちょっとマフラーを取ってと」

 

 俺はマフラーの女を宥めながらマフラーをシュルシュルと外して行く。どういう仕組みになっているのか、マフラーを外すと首が取れるらしい。俺はマフラーの女の首を手に取って、

 

「んじゃ、こうボールを脇で持つ様にして  そうそう」

 

 マフラーの女は自分の首をサッカーボールを脇に挟む様にすると、

 

「はいっ、デュラハンの完成」

「い、い、意味が分からない。ま、マフラー、かえ、して」

 

 そう言いながら近付いて来たが、俺はスっと距離をとった。そのままマフラーの女のマフラーを鼻に近付けて、

 

「すぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「ま、ま、マフラーを、かか、か嗅がないで!!」

「これちゃんと洗ってる?ちょっと酸っぱいよ?」

「や、や、や、やめ、やめて!」

 

 マフラーの女は必死にマフラーを取り返そうとするが、俺はひょいひょいとかわして、スーツケースからファ○リーズを取り出した。そのままマフラーにシュッシュッと吹き掛けた。

 

「スンスン…………これで大丈夫。  はいどーぞ」

 

 吹き掛けたマフラーを返した。

 

 汗臭いマフラーなんて可哀想だしね。

 

「え、あ、ありがとう」

 

 マフラーの女はマフラーを返して貰い、再びマフラーを巻き直した。マフラーの女はマフラーの匂いを嗅ぐ。

 

「い、い、い、いい、匂い…………ひひひひひひひひひ」

「だろ?お気に入りなんだよね、この香り」

「あ、ありがとう。ひ、ひひひひひひひひひ」

 

 マフラーの女も匂いが気に入ったのか、不気味に笑う。そんな中、俺はちゃぶ台を組み立てお茶の用意をした。

 

「まぁ、おふざけもここまでにしておこうか。座ってくれ」

「う、うん。お、お、おか、お構いなく」

 

 お茶をズズっと啜った俺はこの街に警備員の研修に来た事を簡単に説明し、真剣な顔つきになってマフラー女に訪ねた。

 

「ってな訳だマフラーちゃん、単刀直入に聞こう。君の他にもこの街には幽霊や妖怪はいるのかな?」

「え、え?、い、いる事はい、いるけど、き、聞いてどうするの?」

 

 マフラーの女は手で扇ぎながら首を傾げる。

 

「何故かって?トラブルに巻き込まれたくないから今のうちに聞いておいて近付かないようにする為さ。毎回出会してしまうからね」

「な、なる、なるほどねひ、ひひひひひひひひ」

 

 どこに笑うツボがあったのか、不気味に微笑む。

 

 笑うってことは、ヤバい奴が他にもいる様だ。

 

「い、い、いるっちゃいるけど……」

「何人くらいいるの?」

 

 マフラーの女は両手の指を使ってどんどん数えて行く。

 

「そんなにいるの!?やだなぁ、怖いなぁ〜」

 

 ズズっとお茶を啜ると、今度はマフラー女が不気味な笑みから深刻な顔付きになって口を開いた。

 

「お、女の、幽霊や妖怪より、お、男の幽霊の方があ、危ない」

「え?そうなの?女の幽霊の方が怖いイメージあるけど?」

「そ、そんなのへ、偏見だよひひひひひひひひ」

 

 そう言えばシシノケもオスだったな。これはいい事を聞いた。

 

 俺はメモを取り出し、今まで言われた妖怪や幽霊達の名前をメモをして行く。

 

「で?この街に潜んでるんでしょ?どこにいるの?」

「し、知らない。わ、私と、同じで、あちこち歩いてる、から」

「マジか…………参ったな」

 

 はーちゃん達のように徘徊するタイプの妖怪ならどこにいるか分かんねぇな。

 

「ちなみになんだけど、マフラーちゃんは人間に悪さとかしてないんだよね?」

「し、しないよ!」

「ホントか〜?ネットで調べればわかる事なんだからな?」

 

 俺はマフラーの女に啖呵を切りながらスマホを検索するが、赤いマフラーの女の情報が確認されなかった。

 

「なんだ、ホントに悪さしてないじゃないか」

「だ、だからいっ、言ったじゃ、じゃない!」

「悪さしてたらお仕置にパンツぶんどってやろうと思ったのに」

「き、君って、ひひひひ、き、気持ち悪い、ねひひひひひひひひ」

 

 不気味に微笑む子に言われたくないな。

 

「幽霊や妖怪に気持ち悪いって言われても悔しくないもんねー!」

「き、君の方がこ、怖いね…………そろそろ、か、帰るね」

 

 マフラーの女が冷めたお茶の生気を一気に飲み干して立ち上がった。

 

「なんだ、もう帰るの?」

「こ、これ以上、い、いたら、み、身の危険を、か、感じる」

「人聞きの悪い事を言うね、俺がマフラーちゃんを押し倒すとでも?」

「さ、さっき、キ、キキス、し、しようとしたじゃん」

 

 マフラーちゃんは胸元を両手で覆いながら俺から距離をとった。だが、俺は何食わぬ顔でマフラーちゃんの湯呑みに目を向ける。マフラーちゃんはハッとした顔をして慌てて湯呑みに手を伸ばしたが、

 

「おーっと、そうはさせないよ」

「あっ!!」

 

 俺は直ぐにマフラーちゃんの湯呑みに手を取った。生気を吸われたお茶を見つめて、

 

「んふぅ、どこに口つけたのぉ?ここぉ?ここかな?」

「ひっ!!や、やめて!」

 

 マフラーちゃんが涙目になりながら俺を止めようとするが、俺は聞く耳を持たずに舌をレロレロと高速に動かしながら、

 

「舐めちゃおっかなぁ〜。はぁはぁ、レロレロレロレロ」

「き、気持ち、悪い……か、帰る!」

 

 マフラーちゃんはそう言い放つと、マフラーちゃんは慌てて玄関から飛び出して行った。一人取り残された俺は、

 

「なにもそんな逃げなくたっていいのに…………レロレロレロレロ」

 

 俺はマフラーちゃんが使った湯呑みを妖怪の様にベロベロと舐めまわした。

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