シシノケ

 光を当てて口から変な触手を出している謎の生物をよく観察してみる事にした。

 

 体毛が生えているという事は、ナメクジやカタツムリ系の妖怪じゃなさそうだ。

 

「オミャーオミャー」

 

 じっくり観察していると、謎の生物は口からさらに触手を出して来た。触手は俺を触って確認するようにウネウネと手足を触ると、スっと触手を引っ込めた。

 

 これは……もしかして。

 

 俺は触手で縛られたお化け達を見て確信し、謎の生物に指をさした。

 

「お前、もしかしてオスなのか?」

 

 そういった途端、お化け達が騒ぎ出した。

 

「えっ!?龍星さん、なんで分かるんですか?」

「いや、最初はコイツを人喰いの化け物かと思ったんだけど、全く食う気ないだろ?」

 

 縛られたはーちゃんはそう言われると、謎の生物の方に顔を向けると。

 

「オミャ〜」

 

 謎の生物ははーちゃんのスカートを捲ろうと触手を這わせる。はーちゃんは必死にスカートを押さえ始めた。

 

「ちょ、ちょっと!やめてくださいっ!!」

「なっ?コイツ女の子が好きなだけだよ。だからコイツはオスってわけ」

「な?じゃないわよ!早く助けなさいよっ!!」

 

 その隣りにはすーちゃんが縛られながらもブランコのように揺れ始めた。すると、謎の生物もすーちゃんが気に入らなかったのか、触手を伸ばして。

 

 ペチン!

 

 すーちゃんの横っ面を引っぱたいた。

 

「いったぁっ!!」

「ギャーギャー騒ぐからだろ?」

「そんな事言ったって生臭いんだもの仕方ないじゃないったぁっ!」

 

 喚く度に触手で引っぱたかれていた。

 

「隙間女。喚くと引っぱたかれるぞ、大人しくしておれ」

「いったぁい…………」

「参ったわねぇ…………女好きが2人もいるなんて」

「なぁ、龍星?そろそろ助けてはくれんか?」

 

 花ちゃんが瞳をうるうるさせながら俺に懇願して来た。

 

 確かに、触手プレイにもそろそろ飽きて来たところ。

 

 俺はポケットからスマホを取り出して電波を探し始め、電話を掛け始めた。

 

 プルルルルル、プルルルルル

 

《しもしもー?》

 

「あー、口裂け女?今大丈夫?」

 

 俺は口裂け女電話を掛けた。他に強そうなお化けが口裂け女ぐらいしか考えつかなかったからだ。

 

《大丈夫だけど?どうしたの?》

 

「いや〜じつは今変な化け物に絡まれちゃってさ?○○県の○○キャンプ場にいるんだけど今すぐ来れないかな?」

 

 俺がスマホ越しに言うと、

 

《○○キャンプ場!?え待って、今私駅にいるんだけど!?》

 

 知ったことか。

 

「良いから来いよ、あんたら100メートル3秒で走れて60キロの速度の出てる車に追いつけるんだろ?あんたなら10分くらいで来れるって」

 

《行けると思うけど…………余程ヤバい奴がいるのね?》

 

「ああ、ヤバい奴がいるよ。助けてくれ」

 

 俺が真剣な顔付きで言うと、

 

《分かったわ、直ぐ行くから待ってて》

 

「ありがとう。待ってるよ」

 

 スマホの通話を終わらせると、

 

「待って!?あと10分も生臭いの我慢しなきゃないの!?」

「龍星さん、なんとかなりませんか!?」

「もう生臭いのはいやじゃーー!」

「止めて!もう打たないで!大人しくするからぁっ!!」

 

 上がうるさいなぁ。少年漫画の主人公じゃないんだ、俺がバトルシーンなんかできる訳がないだろ。

 

 俺はウネウネと蠢く触手を切り株に座りながら10分待つ事にした。

 

 10分後…………。

 

「生臭いよぉ〜」

「頭に血が登りそうですぅ」

「うぷっ、気持ち悪くなって来た」

 

 謎の生物の粘液まみれになったお化け達を眺めていると、突然突風が吹き始めた。俺は閉じた目を開けると、そこにはいつの間にか大きめの肩パッド付きスーツを着た女が立っていた。

 

 やれやれ、ようやく来たか。

 

「遅かったじゃないか、口裂け女」

「ごめんなさいね?着替えるの時間かかっちゃって」

 

 山にそのカッコはどうかと思うけどな?

 

 そんな事を思っていると、口裂け女はショルダーバックから大きなハサミを取り出した。

 

「コイツは【シシノケ】っていう太古の妖怪みたいなものよ」

「シシノケ?ナメクジじゃないの?」

「さぁ?詳しい話は分からないわ。調べて見たら?」

 

 俺はスマホを取り出してシシノケを検索して見た。

 

 シシノケ、自然の多い県で目撃されるという謎の生物。目撃者の証言によると、筒状の胴体に黒い穴が空いただけの顔に触角が3本生えていて、その先に目のような物が生えているという。

 

 俺はその情報と目の前の謎の生物を交互に見た。

 

「まんまだな。妖怪なのか新種の生物なのかは知らないけど」

「まずどうする?コイツを殺せばいいのかしら?」

 

 口裂け女は大きなハサミをシャキンシャキンと動かしながら肩越しに俺に聞いてきた。俺は首を横に振った。

 

「いや、殺すのは流石に可哀想だよ。ちょっと懲らしめるだけでいいよ」

「分かったわ」

 

 口裂け女がゆっくりシシノケに向かって歩き始めると、シシノケも口裂け女を捕まえようと触手を伸ばした。だが、口裂け女は一瞬で触手をかわして拘束されたはーちゃん達の触手をハサミで切った。

 

「オ゛ミ゛ャャャャ!!」

 

 シシノケは切られて痛かったのか、断末魔をあげた。自由になったはーちゃん達はゆっくりと立ち上がった。

 

「生臭い…………」

「よくもやってくれたわね」

「覚悟はいいかのぉ?」

「100倍にして返してあげる」

「ゆ、ゆ、る、さ、ない」

 

 お化け達の逆鱗に触れたのか、口裂け女と共に手をゴキゴキとならしながらシシノケに近付いて行った。

 

 あ、コレはマズイ。

 

 俺は慌ててお化け達の前に両手を広げて立ち塞がる。

 

「もういい、もういい!やめろ!殺す気か!?」

「退きなさい、龍星。コイツはあたしらを怒らせたのよ?」

「殺しはしませんよ。ちょっとお仕置きするだけです」

「八尺の言う通りじゃ、だから退いてろ」

「退きなさい、あんたも怪我するわよ?」

 

 俺の静止を無視して5人は歩き始める。

 

 婦長とカッシーまで居たら大変な事になるだろうな…………。

 

 シシノケは身の危険を察知したのか、口から触手を再び伸ばし始めた。だが、はーちゃん、すーちゃん、くねちゃんが掴み、メリーと花ちゃんが同時にトゥーキックをする。

 

「さぁ、悪い子にはお仕置きしなきゃね?」

 

 口裂け女がハサミをシャキンシャキンと鳴らす。シシノケは勝てないと分かったのか、体をくの字にペコペコと動かし始めた。

 

 反省したのかな?

 

「もういいだろ?やめてやれよ」

「オミャー…………」

 

 お化け達が怖くなったのか、シシノケは触手を使って俺を盾にした。

 

「ほら、怖がってるだろ?もういいじゃん」

「龍星を盾にした?。ったく、仕方ないわね…………」

「ほら、お前も離せよ。もう大丈夫だから」

 

 シシノケに肩越しにそう言うと、シシノケはゆっくりと触手を離した。俺は振り返った。

 

「お前、オスなんだろ?数少ない男友達が欲しかったから今後は友達にならないか?」

 

 俺が握手を求めると、シシノケは目をキョロキョロさせて一本の触手を俺の手に絡めて来た。

 

「今夜の事は内緒にしてあげるから今後キャンプ場のお客さんをイタズラするなよ?もし、ネットでお前の事が書かれていたら…………」

 

 俺の後ろで口裂け女やはーちゃん達が手をゴキゴキと鳴らす。

 

「お仕置きだけじゃ済まなくなるからな?」

「オミャー」

「分かればよろしい。んじゃな?」

「オミャー」

 

 シシノケはクイッと頭を下げる様にしてから、ゆっくりと山の奥へと向かって進んで行った。

 

「さて、俺達もテントに戻ろうか」

「そうね、口裂け女も来たことだし、飲み直しましょ」

「まず生臭いのをなんとかしないとな」

「温泉どこかにあるんじゃない?」

「いいわね!温泉、パーッとやろうじゃない!」

「お、風呂入りたい」

「はいはい、後で調べて置くよ」

 

 粘液まみれになった俺達は、ベチャベチャとならしながらキャンプ場に戻って行った。

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