呪いの日本人形
お菊さんから距離を置かれた俺は気を取り直し、お菊さんの案内してもらいながら新居に入って行った。俺達はまじまじと家の中を見渡した。
流石はお菊さん、掃除は出来てるな。
ホコリ1つ落ちていない部屋に荷物を入れ始めると、俺はある気配を感じ取った。
「あれ?なんだろう、この感じ。誰かいるのかな?」
「え?……確かに、感じますね」
「ホントだ〜、なんだろう?なんかあたしと似てない?」
「言われて見れば、メリーと似た霊力を感じるのぅ?」
「はぁ?皆何言ってんだよ。おじさん何も感じないぞ?」
「お菊さん、他にも誰かいるの?」
俺がお菊さんに尋ねると、お菊さんが首を横に振った。
「いえ、居ないはずですよ?皆様だけですが……」
「なんだろう、幽霊じゃないのか……んじゃなんだ?こっちかな?」
俺は導かれるように家の奥に進むと、古めかしい押し入れに辿り着いた。ちなみに俺の目には、禍々しい黒いオーラの様な物が見えていた。
こりゃ明らかにやべぇ。
「龍星さん、これは……」
「明らかにヤバイやつよコレ」
「久しぶりに感じる霊力じゃのう」
「おじさん、怖いから茶の間で待ってるからな?」
「お菊さん、ここは掃除したの?」
「あっ、いえ……ここは後回しにしてたので……」
お菊さんすら気付かなかったのか、ならはーちゃん達に反応してるって事か……。
「よし、開けるぞ」
意を決して俺が押し入れの襖を思い切り開けると……。
「うわぁ……【日本人形】だ」
俺の前には赤い着物に身を包み、長い髪を綺麗に揃え、白い肌の人形が立っていた。俺は手に取って見ると……。
「うわっ!おもっ!」
「相当念が篭ってますね」
俺が重そうにしているのを見たはーちゃんがまじまじと見つめ、喋り出した。
確かに、よく言われるのは「呪いの日本人形」とかだな。おかっぱ頭の市松人形の髪の毛がニョキニョキっとロン毛になったり、顔が隠れて床に引きずるくらい長くなってしまったり、そんなイメージがある。噂では人間の髪を使ってるからとかどうとか……。
「んじゃ、放っておけば髪めっちゃ伸びんのかな?」
「伸びると思いますよ?」
「可愛いらしい人形じゃん、遊んであげると供養できるって言うわよ?」
「わしも似た様なの持っておったぞ?」
「お菊さんよく気づかなかったね」
「ご、ごめんなさい!夢中で掃除してたものですから」
ペコペコと謝るお菊さんを慰め、俺は床に日本人形を置いた。
ちょっと昔のホラー番組では表情も変える人形も居たような気がするな。
「うーん、遊んでやれって言ってもさ?女の子みたいな遊び知らないんだけど?」
「なんじゃ龍星、人形遊びを知らんのか?」
「いやこんな人形は持ってねぇよ。仮面ライダー的なのは持ってたけど」
「持ってたんじゃん。それと同じ様に遊べばいいのよ」
「龍星さん、頑張ってください!」
「ご主人様、ご武運を!」
遊びなのに激励してくるはーちゃんとお菊さん。俺はとりあえず思いついた事を試して見た。
「いらっしゃいませ〜何をお探しですか〜?(裏声)」
「「「ぶっ!!」」」
「笑っちゃダメですよ!龍星さん真面目にやってるんですから!」
「だってなにあの声、めっちゃ気持ち悪いんだけど!?」
「笑うなと言われると余計笑ってしまうわ」
なんかヒソヒソと後ろから聞こえて来た。
「笑うんじゃないよ!こっちは真剣なんだよ!」
よく見ると日本人形も必死に笑いを堪えてるように見えた。
「てめぇっ!遊んでもらってんのに笑ってんじゃねぇよ!」
そう言うと、人形の顔が余計ニヤニヤとして来た。
あったまきた!
俺は立ち上がって引越しのダンボールを開けて漁り始めた。
「龍星さん?どうしたんですか?」
「また何しようとしてんのよ」
「何を思いついたのかのぉ?」
「あの茶色箱はなんですか?」
お化け共が首を傾げてるのを他所に俺は水性ペンを取り出し、日本人形をガシッと掴んだ。
「この野郎、この家の主が誰か教えてやる!」
カキカキ
俺は日本人形の顔に落書きをし始めた。それを見たお化け共は。
「ちょっ!龍星さん!?」
「あんた何やってんのよ!?やめなさいよ!」
「物を大事にしろと親から言われておらんのか!?」
「あわわ!大変です!お人形さんの顔が……!!」
「ちょっとなんて事すんのよ!?雑にも程があるでしょ!?」
「なんか余計人形っぽくなりましたね」
「昔学校で見た気がするのぉ」
「腹話術の人形じゃね?それをイメージしたんだけど?」
「それが逆に輪をかけて不快なのよ!」
「人を馬鹿にするからこうなるんだ、見ろ!嬉しそうにして……」
チラッと日本人形の顔を見てみると、「お前、マジで殺してやろうか」って言う様な形相をしていた。
ここまで表情が変わるとちょっと怖いな。
「悪かったよ、これ水で拭き取れるペンだから直ぐに落ちるから悪かったって」
そう言ってウェットティッシュで日本人形の顔を拭き取ると、綺麗に落書きは落ちた。日本人形も感じ取ったのか、表情も元に戻った。
さて、この喜怒哀楽が激しい人形どーしたもんかな。
始末に困った俺は腕組みをしながら考え込んだ。
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