ポツンと事故物件
翌日、俺は幽霊達を置いて、○〇県のとある不動産屋さんにやって来ており、担当の店員さんと話していた。
「敷金礼金なしの貸家は……ある事はあるんですが……」
「おばけが出る、そういう事ですね?」
「っ!?」
店員は「何故それを!?」と言わんばかりな顔をする。
不動産は【事故物件、ワケあり物件】などがある場合、伝える義務がある。俺はそこを狙ったワケで、
「こっちの出せる金額は20万前後です、どこかありませんか?」
「ちょ、ちょっとお待ちください。店長と相談して参ります」
そう言って店員は店の奥に引っ込み、店長らしき人物と話し始める。
めんどくさい客でごめんなさいねぇ……。けど、事故物件が売れるんだ、win-winだろう。
すると、店員は自信が無さそうな顔をして戻って来た。
「お待たせしてしまって大変申し訳ありませんでした。店長は「売れるなら構わない」と言うので、一件ご紹介します」
店員がファイルを開き、一枚の紹介物件の資料を取り出した。
売買物件
物件種別 4SDK
床面積 227m²
建設年 1988
【心理的瑕疵有り】・私道負担:なし・セブ〇イレブン〇〇店まで徒歩約30分、〇〇駅まで徒歩約20分。古井戸あり。
資料を見てみると、周辺には民家はなく、森に囲まれポツンと記されていた。
「この様な貸家なら可能です。お家賃は」
「あの、その前に、【心理的瑕疵有】と言ってましたが、どの辺がなんですか?」
「ええ、それはこの古井戸に問題があるそうです。地主が何度も取り壊しを行おうとしたのですが、幾度も事故に遭われたそうで……」
ほう、なかなか強者がいるようじゃないか。
「なるほど、それで肝心のお家賃はおいくらですか?」
「ええ、税金関係も含めまして……月5万でどうでしょうか」
「高い」
「えっ!?一軒家ですよ!?」
店員は2度見をしながら俺に言ってくる。
だが高い、負けてたまるか。
「なら、これはどうでしょう。1ヶ月間無事に何事も無かったら、家賃半分にして下さい」
「えっ!?……それは……ちょっと……」
「半分にしてくれたら今日契約しますよ」
「まだ見ても居ませんよ!?良いんですか!?」
「契約してから見て帰りますから大丈夫です。どうします?」
俺はふんすっと鼻息を荒げ、譲らなかった。
すると、店員は。
「わかりました。地主さんに相談して見ますのでちょっとお待ちください」
そう言って店員は受話器をとってどこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、私、〇〇不動産の者ですが、お世話になっております。あのですね、○○の物件にお客様がいらっしゃいまして……ええ、そうです。それでご提示されているお家賃を半分にして欲しいと……はい、はい。分かりました。ありがとうございます。失礼します」
ガチャッと受話器を置くと店員は。
「地主さんは借りてくれると言うのであれば任せると言うので、2万5000円でご契約という形でよろしいでしょうか?」
ほう、地主さんは余程手放したいらしいな。無茶な要求を呑んだよ。
「分かりました。契約しましょう」
「ありがとうございます!ではこちらに……」
─────────────────────
契約後、俺は店員さんの案内により、契約した事故物件を見に行く事にした。車から降りると店員さんは……。
「私はちょっとここまででご勘弁を」
「良いですよ。ここからは俺一人で行きますから」
「では、合鍵を渡しますので……」
俺は店員さんから合鍵を渡され、そのまま歩いて玄関に立つと……。
ガタガタ!!
「おん?」
家の裏から物音がした。俺はそのまま音の方へ向かって歩くと……。風呂場らしき場所の窓が見えた。
なんだろう、気配を感じる。女か?
風呂場の窓の磨りガラスを覗いてみると、人影が写った。
「おい、誰か居るのか?」
人影に声を掛けると。
「あっ、すいません!今お風呂に入ってますので!!」
「あっ!ごめんなさいっ!出直しますね!」
俺は振り返って玄関に戻ろうと。
「っておい!ここ俺ん家になったんだよ!てめぇ誰だっ!!」
バンッと窓を叩くと。
「えっ!?ちょっ、あの……ごめんなさいっ!」
ドタバタしながら窓の向こうにいた奴は気配を消した。
逃げられたか……。
俺は玄関に戻り、合鍵を使って中に入る。中は綺麗に掃除されており、古さを感じなかった。
「家には何も感じないな、さっきの気配も消えてる……。古井戸にいる奴がいたのか?」
しばらく家を探索すると、2階の窓から古井戸が見えた。
「アレか……さっきの風呂場に居たやつはあそこから来たっぽいな」
そのまま2階を降りて玄関を出て、古井戸に足を運んだ。その古井戸はしばらく使われていなかったのか、あちこち苔が生えており、蓋もボロボロに朽ちていた。
ふむ、なかなか雰囲気がある古井戸だな。サイキックな幽霊が出て来そうだ。
「さて、探索も済んだ事だし、帰るか」
後ろを振り返り、帰ろうとしたその時……。
ピタピタ……。
「ん?」
古井戸の方から何か這うような音が聞こえて来た。
「さっき風呂場にいた奴だな?出て来い!」
俺が古井戸に向かって声を掛けると中から声が聞こえて来た。
「あっあの……、さっきの方ですよね?」
「ああ、そうだよ。ここは今日から俺の家になった。争いは避けたい、出来れば出てってくれないか?」
声の主にそう言うと。
「あっ、あの、出るのでちょっと待ってくださいね!”お皿”持ってるのでちょっと……」
お皿?えっ、なんでそこで皿使ってんの?
しばらく待つと、白と黒の縞模様の薄い着物を来た幽霊が”9枚のお皿”を落としそうにしながら重ねて上がって来た。どうやって登って来たのか分からないが、余程慌てて来たのか、着物ははだけており、たわわな胸が見えそうになっていた。
「はっ、はじめまして……わたくし、【お菊】って言います」
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