フリーター、家を失う

 小さいおじさんが住み始めて1ヶ月が過ぎた。バイトから帰ると、小さいおじさんが運動する為にハムスターの回し車を使ってランニングをしていた。

 

「ほっほっほっ」

「おじさん、お腹ポヨンポヨンだね」

 

 小さいおじさんがメリーさんにバカにされていた。

 

「うるせえっ!この歳になるとな、脂肪が落ちにくいんだよっ!」

「おじさん妖怪でしょ?歳なんて取らなくない?」

「それもそうですよね?私達も怨霊で年取りませんし」

「まっまぁ……そうじゃの……」

 

 3対1で言いくるまれており、俺に助けを求めた。

 

「あんちゃん!コイツらなんとかしてくれよっ!毎日毎日小言が鬱陶しくてたまんねぇよ!家主ならビシッと言ってやれ!」

「やだよ、めんどくさい。うるさいからちょっと静かにして」

 

 俺が軽くあしらうと小さいおじさんは……。

 

「なんだ!その態度はっ!おじさんだっていい加減怒るぞ!?」

「怒ってどーすんだよ、居候の分際で」

「ぐっ!?」

「ぐっ!?じゃないわよ、毎日毎日ラジオ付けて新聞見るだけじゃない!」

「なんだとっ!?お前らだって毎日毎日ゴロゴロしてるじゃねぇかっ!おじさんはな、この前のレースで3000円稼いだんだからなっ!金を稼げない小娘が生意気言うんじゃねぇっ!!」

 

 小さいおじさんはゲージの檻をガシャガシャして騒ぎ立てる。対するメリーさんは目の前まで近付いて、ふーっと息を吹いて小さいおじさんを吹っ飛ばした。小さいおじさんは爪楊枝を片手に応戦し始めた。

 

 なんだこの争いは。

 

「コノヤロウ!働かねぇ小娘がっ!だったら少しは稼いで来てみろ!」

「幽霊だもん、稼げるわけないでしょ!?」

「ほうら見ろ!稼げねぇなら黙って人形やってろ!!」

「なんですってぇっ!!」

 

 メリーさんがキレた瞬間。強力なポルターガイスト現象を起こし、部屋をめちゃくちゃにし始めた。俺は慌ててメリーさんを止めた。

 

「何やってんだ馬鹿野郎!」

「離してよっ!って、あんたどこ触ってんのよっ!!」

「あの、龍星さん。止めるなら胸はちょっと……」

「どさくさに紛れてどこを触ってるおるのじゃお主は」

 

 どこって……胸だが?

 

 俺は無言でモミモミと揉みしだく。

 

「ちょっとあんた!離してよ!変態っ!」

「暴れんなってば!これ以上騒いだらアパート追い出されるぞ!!」

「やめてっ!早く手を離して!!」

 

 俺を振り払おうと暴れ始め、バタバタドスドスと歩き回る。それを見たはーちゃんと花ちゃんも止めに加わった。

 

「メリーさん!暴れちゃダメですよ!」

「やめんかメリー!!暴れるでないっ!!」

 

 ピンポーン。

 

 突如、部屋の呼び鈴が鳴り響いた。その瞬間、俺達は同時にビタっと立ち止まる。

 

「大人しくしてろよ?」

 

 俺の指示により、全員は自分で口を塞ぎ、大人しくし始めた。俺は呼吸を整えてドアを開けた。

 

「はーい……」

 

 俺の目の前には、鬼の様な顔をした大家さんが立っていた。

 

「大家さん、あの……何か?」

「福島さん、もう勘弁なりませんよ!他の部屋の方々から苦情が出てるんです。明日、この部屋を出てって下さい!!」

「えっ……」

 

 部屋にいた怨霊達は目を点にする。

 

 これはヤベぇっ!!

 

「待って下さいっ!いくらなんでも明日は勘弁して下さいっ!」

「いいえ、もうダメです。今まで福島さんの事を大目に見てきましたがこれ以上我慢出来ません!!明日、出てって下さい」

 

 不味い、これは非常に不味い。

 

「これってあたし達が悪いの?」

「どうでしょうか……」

「お主らそんな前から騒いでおったのか!?」

「おじさんはあの檻は渡さねぇからなっ!!」

 

 後ろからはヒソヒソと自分は関係ないと言わんばかりに主張し始める。俺はペコペコと大家さんに頭を下げる事しか出来なかった。

 

「すいません、明日ってのはホントに勘弁して下さい。せめて新しい家が見つかるまで待って貰えませんか?」

 

 大家さんにそう交渉すると、大家さんは困った顔をしながら……。

 

「っはぁ……分かりました。1ヶ月待ちます。ですが、新居が決まり次第引っ越して貰いますからね?」

「ありがとうございます」

「必ず1ヶ月後には出て行って貰いますよ!」

「はい、すいません……」

 

 大家さんは俺を睨み付けながら部屋を後にした……。ドアを閉めた途端、俺は慌ててタンスから通帳を取り出し、残高を確認した。

 

「えーっと……アパートを出る時の『退去費用』は……確か6万ちょっと、貯金が……全財産100万そこそこか……」

 

 俺は大きなため息を吐く。すると、怨霊共は近付いて来て声を掛けてくる。

 

「龍星さん。どうしたんですか?」

「出て行くんでしょ?貯金通帳なんか見てどうするの?」

「それと新しい新居を見つけなければなぁ……」

「はい、皆集合〜」

 

 俺の掛け声により、ちゃぶ台を囲む様に集まり出した。

 

「聞いてた通り、この部屋を出て行かなければならなくなりました」

「そうだね、まぁこんだけ騒いでたらそうなるよね」

「それで、龍星さん。これからどーするんですか?」

「新しい家がすぐ見つかるといいのじゃが……」

 

 確かにそうだ、残り少ない貯金で退去費用、敷金礼金、引っ越し費用を考えなければな……退去と引っ越しの費用は必ず払わなければならないし……せめて敷金礼金さえなんとかしなければ……。

 

 頭を抱えて悩んでいると、メリーさんがポツリと言った。

 

「そう言えばさ、『幽霊が出る家』って安いんだよね?」

 

 ん?

 

 メリーさんの言葉を聞いて俺は顔を上げる。

 

「そうだ!その手があったか!!」

「なんですか?何かいい案が浮かんだんですか?」

 

 俺はスマホを取り出して【敷金礼金なし、事故物件】と入力して検索を始めた。すると、何件も破格の値段で売りに出ていた。俺はニヤリと笑うと、花ちゃんは言い放つ。

 

「なっ、なんじゃその不気味な顔は……」

「ふっふっふっ……新しい家が決まったよ」

「随分早いね、もう見つかったの?」

「ああ、今度は誰にも迷惑かからない所にしような」

「おっ、兄ちゃん、なんかいい案があんのか?」

「まぁ、明日はバイトが休みだし、明日は新居を探しに行くってくる。デュフフフフフ……」

 

 いやらしい顔をしながら俺は笑い始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る