幽霊にセクハラしても罪にはならないですよね?

ボトルキャプテン

プロローグ

 俺の名前は福島龍星、ごく普通の街に産まれ、ごく普通に育った20歳のフリーター。今日は高校生から長く付き合っている彼女の舞子とデートをする為に早起きしたんだ。約束の時間まであと30分、遅刻しない様に早めに出掛けよう!

 

「よしっ!今日はこの服で行くかっ!久しぶりの舞子とデートだし、気合い入れて行くぞっ!」

 

 俺は顔をパンパンと叩いて気合いを入れて玄関に向かい、靴を履いて待ち合わせの場所に向かって行った。待ち合わせ場所は至って普通の駅。待ち合わせに向かうと、舞子が既に立って待っていた。俺は手を振って舞子に声を掛けた。

 

「舞子〜!」

 

 舞子は俺の声に気付いた。だが、いつもと様子がおかしかった。だが、俺は気付くことなく、俺は息を切らせながら舞子に話しかける。

 

「はっ、はっ、ごめん!早く来たつもりだったんだけど、舞子の方が早かったんだね!」

「………うん」

「予定より早いけど、行こっか!」

 

 俺は駅に向おうと歩き始めると……。

 

「待って龍星……」

「ん?どうしたの?」


 呼び止められた俺は振り返ると、舞子はとても気まずそうにしており、何か言いたげそうな顔をしていた。

 

 なんかいつもと違う……具合でも悪いのかな……?

 

「もしかして体調悪い?、だったら今日は辞めておこうか?」

「ううん、そうじゃないの……」

「んじゃ、どうしたの?すごい暗い顔をしてるよ?何かあった?」

 

 俺は首を傾げなら舞子に尋ねると、舞子は重い口を開いた。

 

「私達……別れましょ……」

 

 え?今……なんて?

 

 突然の言葉に俺は言葉を失った。無意識に鼓動が高くなり、冷や汗を垂らし始めた俺は、舞子に尋ねた。

 

「あっあの……舞子?どうしたんだよ…なんで別れるなんて───」

「あのね、他に……好きな人が出来たの」

 

 は?

 

「えっ、何それ……意味わかんないんだけど……好きな人が出来たってなんだよそれ、つーか誰だよそいつ!」

 

 舞子の言葉により俺は怒りに震えた。思わずカッとしながら舞子を問いただすと、舞子は答えた。

 

「バイト先の先輩……もう、一緒に住むことにしたの」

「えっ……」

「それに……もう、私のお腹には……」

 

 舞子はそう言いながらお腹をさすり始める。全てを悟った俺は目の光を失い、ただただ立ち尽くしていた。

 

「だからもう、私の事は忘れてね……さようなら」

 

 そう言い残し、舞子は俺の前から去っていった。通勤ラッシュが始まっても俺は現実を受け入れられずにいた。

 

 ─────────────────────

 

 俺が動き出したのは別れを告げられてから1時間後だった。俺は、行く宛てもなく歩き続けた。とぼとぼ歩き続け、気付けば夕方になっていた。

 

「忘れたい……なんもかも忘れたい……あいつも……あいつの顔も……」

 

 ふと気付くと居酒屋の前に立っていた。どうやらいつの間にか俺は飲み屋街に来てしまっていたようだ。

 

 飲んで忘れよう、あんな女!

 

 俺は意を決してその居酒屋に入って行った。中はちらほら客が座っており、店員さんが慌ただしく店内を回っていた。店員は俺に気付いて声を掛けて来た。

 

「いらっしゃいませー!お一人ですか?」

「はい、1人です。ひとりぼっちですぅ!何か!?」

「あっはい……では、カウンター席にどうぞ……」

 

 顔を引き攣らせた店員さんはカウンター席に俺を案内する。俺はメニュー表を眺め、料理や酒を注文した。

 

「焼き鳥と……この店で1番強い酒のロックで」

「は、はーい……」

 

 焼き鳥と酒が運ばれて来ると、ムシャムシャガツガツグビクビとペース配分を考えずに俺は浴びるように酒を飲み続けた。

 

 3時間後……。

 

「ぢぐじょぉぉっ!ぢぐじょぉぉっ!世の中金と顔がよっ!」

「お客さん、飲みすぎですよ?」

「あ゛ぁ〜くそぉっ!」

 

 居酒屋の大将の静止を振りきりながらも俺は酒を飲み続けると、遂にボトル1本を空けてしまった。

 

「お客さん、もうやめときなって!何があったか知らねぇが、そんなに悩む必要ねぇよ。なっ?明日もあるんだから今日はもう帰んな?」

「うぅ〜すいませんん!お会計お願いじまず」

 

 フラフラになりながらも会計を済ませ、千鳥足になりながらも歩き始めた俺は酔いを覚ます為にビルの屋上まで行き夜風に当たり始めた。

 

「はぁ……風が気持ちいいなぁ……」

 

 下を覗くと……高さは5階くらいあった。そして、ふと考えた。

 

「あーあ、アニメやラノベの主人公ならこんな捨てられ方なんてしねぇのになぁ……」

 

 そんな事を呟いた俺は手摺りをよじ登って夜景を見渡し、ふと考えた。

 

「もう、生きる気失せたし……異世界にでも転生してもらってイケメンになって異世界に行ってハーレムでも築こうかな……」

 

 そう呟いた俺は再び下を覗く、車や通行人はちらほらいるが、落下しても巻き込む恐れは無いくらいだった。

 

 まだ酔ってるからか?全然恐怖を感じないな。飛び降りるなら酔ってるうちの方がいいな。

 

 そんな事を考えた俺は両手を広げて大声で叫び出す。

 

「異世界に!行ってきまぁぁぁぁす!」

 

 俺は……目をつぶってビルから飛び降りた。

 

 ─────────────────────

 

 飛び降りた後、頭から血を流しながら倒れた俺は悲鳴や驚く声が飛び交い、数人の通行人に見つけられて救急車に運ばれた。意識がボーッとする中、俺は救急車の中に運ばれて行った。

 

 これで異世界に行ける……転生特典は……イケメンがいいなぁ……。

 

 意識が薄れて行き、俺はゆっくりと目を瞑った。

 

 念願の異世界に……異世界に……俺は……!!

 

 意識が戻った俺は真っ白な天井を見詰めると、隣には看護婦さんが何かを書いていた。看護婦さんは視線に気付き、声を掛けてきた。

 

「気が付きましたか? どうですか? どこか痛む所はありますか?」

「あれ……ここは……」

「○○病院の病室です。福島さんは酔っ払ってビルから転落してしまったんですよ?奇跡的に脳震盪と頭に少し傷が出来ただけで問題はないそうです。あまり飲みすぎないようにして下さいね?」

 

 看護婦はそう言い残し、病室から出て行った。俺は上半身を起こし、窓の方を向いて状況を悟った。

 

 異世界に……行けませんでした。

 

 それからというもの、生きる気力を失った俺は抜け殻の様に入院生活を送り、歩けるまで回復した。医者が言うには、明後日には退院出来るらしい。それを聞いた俺は息の詰まる病室を出て屋上で新鮮な空気を吸って気分転換をしていた。

 

「ふぅ〜ようやく退院か……また仕事探さなきゃなぁ〜」

 

 手摺りに項垂れていると、俺は……視線に気付いた。視線の先に顔を向けると、長く黒い髪の白いワンピースを着た女性が立っていた。

 

 ここの病院に入院してる人かな……?それにしても可愛いなぁ……。

 

 俺は少しでも印象を良くする為に軽い会釈をした。だが、女性は無表情でこっちを見ているだけだった。

 

 あれ? キモかったかな……なんかあの人怖いからもう病室に戻ろっと。

 

 そう思った俺はそそくさとその場を後にした……。だが、女性もいつの間にかその場から立ち去っていた。

 

 ─────────────────────

 

 それから何事もなく退院した俺は、アパートに戻って来た夜、シャワーを浴び、髪を洗っているとある異変を感じ始めた。

 

「ん……?なんだろう……?なんか人の気配感じる……」

 

 俺は一人暮らしだし、舞子ともあれから顔を合わせていない。なら、この気配はなんだろうか?

 

 シャワーで泡を洗い流し、後ろを振り返るが誰も居なかった。

 

 気のせいかな……?それともまだ頭が治ってねぇのかな?

 

 そんな事を考えながらバスタオルで頭や体を拭きながら浴室から出てると、いつの間にかリビングが真っ暗になっていた。

 

「あれ?電気消したっけ?まぁいいや」

 

 パチン……パチン

 

 あれ?電気点かねぇ、停電かな?

 

 電気のスイッチを何度もいじって見たが、一向に電気は点かなかった。

 

「ったく、めんどくせぇなぁ……ん?」

 

 俺はベランダの方を向くと、人影が立っているのに気が付いた。それを見た瞬間、心臓がギュッと締め付けられた様にドクン音を立てた。

 

 え? 何あれ? 舞子? え?ドア鍵かけてたけど?どうやって入って来たの?何?ベランダ?ここ4階だよ?舞子って忍者だったの?

 

 俺は人影の正体は舞子だと思い、人影に声を掛けた。

 

「舞子……舞子か?戻って来てくれ──」

 

 近づいてテーブルに置いてあったスマホのライトで確認してみた所、相手は舞子ではなく……病院で見かけた女性だった。

 

 え?なんで……?

 

 俺は理解が追い付かず、思わずバスタオルを落としてしまい、生まれたままの姿になりつつ、しかもそのタイミングで部屋の電気が点き、互いの姿が丸見えになった。

 

「えっ…なんで!?あんた、屋上にいた人ですよね!?なんでここに居るんですか!?なんで俺の部屋知ってるんですか!?」

「…………」

 

 怯えながらも俺は女性に声を掛けるが一向に返事が帰って来ない。ここでようやく、俺は理解した。

 

 この人……絶対人間じゃない!!幽霊だっ!!

 

「おいっ!あんた!黙ってねぇでなんか言えよ!警察呼ぶぞっ!」

 

 全裸のまま女性の幽霊に近付くと、女性は一歩下がった。俺はその瞬間を見逃さなかった。

 

 今、絶対下がったよね?ん?しかも、顔……赤くね?

 

 女性の幽霊をよく観察して見ると……顔を真っ赤にしており、しかも少しプルプル震えていた。女性の幽霊の視線は俺の下半身に釘付けだった。

 

 これはもしかして……。

 

 俺はふと考えて、ワザと手と足を広げて相撲取りが四股を踏むように動くと女性は途端に手で顔を隠し始めた。幽霊のリアクションを見極めた俺は強気になり、更に幽霊に詰め寄った。

 

「なんだよ、こっち見ろよ……こっ、こっち、こっちを見ろぉぉぉっ!」

「!?」

 

 女性の幽霊は大声にビクッとして更に下がり始めた。女性の幽霊は明らかに怯えていた。勝機を見出した俺は勝負に出てワザとアレをブラブラさせながら近付くと……微かに声が聞こえて来た。

 

「やだ……こっち来ないで……!!」

 

「聞こえません、ハッキリ言ってください!何をどうやめて欲しいんですか!?ええっ!?」

 

 そして、俺は……。

 

「幽霊ばっちこおおおい!!」

 

 と大声で叫び出し、幽霊を捕まえようとした瞬間。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 幽霊は変質者を見た様な顔をしながら慌てて窓をすり抜けて姿を消して行った。

 

「ちっ、逃げられたか……」

 

 その時俺はある事に気が付いた。

 

「幽霊にセクハラしても罪にはならないですよね?」

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