Episode.18 課外学習(3)

 一日目の昼食の時間がもうすぐくるという頃、アイラ達三人はクライン達と再び合流していた。先程までの軽い調査の結果を踏まえて合同研究の対象を決めるために、六人揃ってテーブルを囲む。それぞれの目の前にはユウカが気を回して買ってきた飲み物が置いてあった。


「…それで、どうするの?ある程度目星はつけたけど、研究対象は一つだから…決めないと」


 アイラの問いかけに、クラインが胸を張る。


「それならもう決めてある。銃魚ビスフィスカーにしよう」


 銃魚は魔力を持つ魚で、帝国ではラハシャ湖にしか生息せず、目撃数は決して多いわけではない。


「でも、見つかるか…」


「見つけるんだよ。僕の得意魔法を忘れた?」


 問われて、小さく唸り声を上げながら考える。確か……


「…光」


「そう。君には及ばないけど、それなりに魔力もある。つまり……」


 彼が提示した『作戦』は、湖の中をクラインの魔法で照らしながら探索するもの。ありきたりといえばありきたりだが、水底を照らせるほどの魔法を使うにはそれなりの魔力が必要になる。誰でもできるわけではない作戦だった。


「クラインの魔力がもつならいいと思うけど……」


「もつよ。もたなくてもエデルの得意魔法は聖だ」


 言いながら振り返ったクラインの視線の先にいるのは、エデル・デイン。帝都の周辺を警護する役目を担ったデイン侯爵家の跡取り息子で、優しい性格と魔力の高さからそれなりに充実した交友関係を築いている人物だ。


「回復ありきの魔力操作は……」


「しない方がいい、分かっているよ…まあ、少しは気をつけるさ」


 エデルの苦言に分かっていると返しながらも、クラインの表情はどこか楽しそうだった。


「…それじゃあ、お昼のあとから…定期的に休憩することにして、見つけたら休憩の時に報告しよう」


 アイラの取りまとめで作戦会議は終わり、各々が水着の上から服を羽織る。テーブルの上を片付けると、翔馬車でラハシャ湖に着いた時目の前に見えた建物へと向かった。


「お昼、なんだろうね?美味しいといいなー!」


 リオンの元気な声に、ユウカと揃って頷く。美味しいものは心を癒してくれる。きっといつだってこれは変わらない。


「魚が出てきませんように…」


 数歩後ろを歩くエデルの口から聞こえた情けない祈りに笑いがこぼれる。


「エデル、魚嫌いなの?もし出てきたら私が食べてあげるね!」


 リオンの提案にありがとうと返したエデルの顔はほんのりと赤く色づいていた。


「おかえり、お昼ご飯はできてるよ」


 建物の中に入って少し歩いた場所にある食堂へ着くと、気前の良さそうな女性がキッチンからアイラ達を手招く。


「今日のお昼は森で捕れた羽兎の香草焼きだよ」


 手早い盛り付けで用意された食事を受け取り、せっかく研究を共にする仲なのだからとクラインに押し切られて六人でテーブルについた。


「いい香り〜!ね、ね、早く食べよう?」


 リオンに急かされて、小さく笑いながらナイフとフォークを取る。


「急がなくても、料理された羽兎は逃げないよ」


 全員食事の用意ができたのを見て、食欲を誘う香りを放つ焼き目のついた肉にナイフを通す。途端に溢れ出た肉汁に美味しさを確信して一口大に切ったそれを口に運ぶと、野生の羽兎に特有の臭みが少しも気にならないほどの旨味が口の中に広がった。


「んっ…おいひ……!」


 口いっぱいに肉を頬張ったリオンの目が輝く。そのままで話そうとする彼女にお行儀が悪いよと笑いながら、口の端についた肉汁を拭き取ってやる。これを食べ終わったら、少し陽だまりの中で休憩してから探索を始めよう。ぼんやりと午後の計画を考えながら、次の一切れを口に放り込んだ。

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