血毒~涙の花嫁~

桜花

一章 上位の強さ

第1話 予想外の展開

川井泉(かわい いずみ)


これは俺の名前だ。


女の子みたいな名前だが男である俺の名前だ。


よく「泉ちゃーん!」とバカにしてきた奴がいたな。


あいつは1回殴っとくべきだった。


だけど、俺はあの日ホントに女だったんじゃないかと思ってしまった。


1時間前


「泉ー!今日もゲーセンに寄って帰ろうぜ!」


俺をゲーセンに誘ったのは小学生の頃から同じクラスの前田遥人<<まえだ はると>>だった。


「あー、すまんな遥人。今日はオタクの日なんだよ」


「ちぇーっ」


遥人はつまらなさそうな顔をした。


「じゃ、まぁ、そういうことで!ばーい!」


「は?あ、おい!待て!」


遥人のことを無視して、全速力で廊下を走った。


階段をおりて、玄関を抜けて。


それは台風のように。


いつもの道もダッシュした。


じゃあ、今から質問タイムでもすっかな。


つっても1問だけですけど。


はーい、では質問がある方ー!


はい、じゃあそこの君。


はいはいはい、あーなるほどねー。


今回の質問は、"オタクの日"ってなんですか?


説明しよう。


オタクの日というのはホントにそのままの意味だ。


例えば俺で言うと…


俺は飛行機戦隊ジェットマンというアニメにハマっている。


もちろん推しはジェットマン。


このアニメは毎週木曜日、12時32分という中途半端な時間からある。


戦闘系のアニメなのは題名を見れば分かるだろう。


主人公のジェットマンと仲間が悪い奴らと戦うという王道的な内容だ。


だが、そこがいい。


分かってくれる奴はきっといるはずだ。


ここからが超オタクだ。


ジェットマンのハチマキをまいて、ジェットマンのクッションを抱いて、ジェットマンのうちわを持ってドーンとソファに座ってテレビと向かい合っている。


しかも、30分前から。


これが俺の"オタクの日"だ。


おっと、飛行機戦隊ジェットマンが始まるまで1時間を切ってしまった。


ということで、質問タイムは終わりー!


ってか、マジで急がねぇとー!


飛行機戦隊ジェットマンは綺麗な状態で見ないと、ジェットマンを汚してしまう。


ガチャ


自分の部屋のドアを開けた。


ちなみにただのボロアパートだ。


家賃が安かったからここにした。


って、そんな説明してる場合かー!


俺は部屋に入ってすぐお風呂場に向かいシャワーを浴びた。


1分で上がってきて、パジャマに着替えた。


勉強部屋からハチマキとうちわを持ってきて、ソファーにドーンと座った。


今何時だ?


テレビの横に置いてあるデジタル時計の時間を見た。


まだ、12時になってない。


あとは、お茶とお菓子が必要だったな。


キッチンにお茶とお菓子を取りに行った。


そして、ソファーの前にある机に綺麗に並べた。


よし、完璧だな。


俺はやっぱり出来る子だったんだ。


テレビを早めにつけた。


「飛行機戦隊ジェットマン次回…」


「あ、れ…?」


テレビの画面には飛行機戦隊ジェットマンが。


しかも、次回予告…?


これって、もう、終わってる。


あ、ウソだろ…?


俺は頭をフル回転させた。


そ、そうだったーーーー!!


今日はお笑い番組があるから他の番組はお休みしてるけど、飛行機戦隊ジェットマンは人気だから早めの時間帯にするんだった…。


俺は、出来ない子だったらしい…


非常に落ち込む。


こんなことは一度もなかったのに。


「I'm shock」


英語の使い方なんて今はどうでもいい。


辛い。


辛すぎる。


はぁー、アイスでも食べよ。


冷凍庫を開けた。


ない…


やっぱり俺って…


近くのコンビニまで行くことにした。


俺は飛行機戦隊ジェットマンのファン失格だ。


トボトボ下を向いて俺は歩いていた。


それが悪かった。


横断歩道を信号が赤になっていることな気づかず渡ってしまった。


キーーーッ


ドスッ


青い車が俺の体を吹き飛ばした。


俺、人生初宙を舞っている。


ド、ドスッ


道路に体と頭を打ち付けた。


あぁ、俺の中から赤いものがドロドロ出ているのが分かる。


力が抜けていく。


死に近づく感覚が分かる。


「大丈夫ですか!?」


声が遠のいて聞こえる。


そして、誰か見えるけど、視界がボヤけてる。


うーん、髪が長いような…


もしかして、青い車に乗ってた人かな?


ホントに俺なんかのせいで捕まったらすんません。


悪いのは全部俺なんです。


なんか人が集まって来たな…


視界は今さっきよりボヤけてるけど、まだ何とか分かる。


でももう性別の見分けすらつけられない。


髪の毛の長さも…


俺さ、もっとカッコよく死にたかった。


誰かを守って死ぬとかさ。


なんだよ、この死に方。


ボーッとしすぎて事故に遭うって…


男ならすぐに立ち直るべきだったよな。


ものすごく反省しています、神様。


力は抜けていってるし、来ている服がベチャベチャになっていく感覚もだんだん失われていってます。


多分死ぬんですよね?


はい、分かってます。


分かってますけど!


神様、俺やっぱり死にたくないです。


俺の気持ちがわかるならどうか地獄だけはやめてください。


だからって、大地獄とかそういう話じゃないっすからね?


天国行きでよろしくお願い致します。


俺は来世で頑張ることにします。


では、俺と関わった皆さん、特に遥人ありがとう。


あぁ、もっと遥人と遊びたかったな。


そして、俺は静かに目を閉じた。


俺、川井泉の人生はここで幕を閉じた…



はずだった…


「ここ、は…?」


知らない家にいた。


「ど、どちら様…?」


しっこちびっていいかなー?


こんな人間見たことないんですけどーー!!


いやいや、これはもう人間じゃなくて化け物だ。


その化け物と目が合った。


化け物はノシノシのゆっくり俺に近づいてきた。


「来るな来るな来るな!」


気持ち悪い、怖い、近寄ってくんな!!


逃げようと思っても腰が抜けていて、立てない。


ってか、なんで俺は座ってたんだろう。


って、そんなことはどうでもいいんだよ!


あと、君と俺の距離は30センチ。


え、何?


これは地獄か何かですか?


2回目の死とかそういう感じですか?


「ハ、ハハッ…」


冗談きついっすよ、神様ー。


なんか今日の俺、予想外の展開多すぎねぇ?


今日かどうかもよく分からんけど!(俺にとっては今日なだけで。)


でも、川井泉は知らなかった。


これが俺の人生を大きく変える出来事だってことを。

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