第10話 シェルターの暮らし


 ここには、様々な設備や生きる為に必要な生産プラントなどが集まっているかのようだった。

「ここにはいくつもの役割の場所が集まってるの、畑とか、家畜のいるところとか。あと、小さいけど商店もあるわ。食事はここの配給で食べるの。」

 説明通り、ここはまさにそういった施設の集まりだった。

 あちこちにコンテナが積み上げられているのは、恐らく中に物資が入っているのだろう。

テントがあり、そこでは何やらスープなど食事を配給していてその列に並ぶ人々。

あちこちには恐らく給水に必要な水を貯めるタンクらしきものもある。

その近くへフリーマーケットのように、屋台や布を敷いて商品を並べ、商売をする人々がいた。

 取り扱っている商品は、本や衣服に生活にランプやせっけんなど消耗品といったものだった。

 奥のスペースには何やらボードに文字を書いていて、子供達がそれを見ていて、青空教室のように勉強を教えているス場所もあり、物資を運ぶ人々、井戸端会議のように話す女性達もいた。

換気が悪いのか、住民達は咳ごんでいる者もいる。

 ここは清二の夢の中だからか清二自身には匂いも暑さも寒さも感じないが、どこか重い空気を感じる気がする


「ここより、もっと先に行けばおじさんが言ってた畑があるの」

 おそらくそれは清二のノートに書かれていたプラントだろう。

 このシェルターはそこで食料を得ているのだ。

 ユミラによると、プラントはこのシェルターでも最も重要な場所で、野菜や小麦を栽培していたり、家畜もおり、本当に牧場のようになっているそうだ。

生きる為に必要な食料はそこで育てているのだ。まさに生産プラントである。

先ほどの通路にあった観葉植物もそういった場所で作られていたのだろう。

「プラントでは大人が子供達に仕事を教えてるの」

 プラントでは子供達が大人に畑仕事を習っているらしい。

 このシェルター生活における必須である食料を作る場所ということで、その仕事は重大な役割なのだろう。



あらゆる設備が整っている、その広さの中には本当に大きなドームの中に「町」があるかのようだった。地下でありながら、ここは独立している町のようだ。ここでこの世界の人々は暮らしているのだろう。

「ここはね、みんなで協力しあって生きていくしかないの。物資もあまりないから、みんなで分け合ったりとか」

それを聞いて、清二はあのノートに書かれていた、世界観設定の部分をを思い出した。


「その世界の住民達は地下シェルターに住み、プラントで食料をえている」


 あれはまさにこのシェルターの生活様式のことだったのだろう。

 こうして地下でありながら、きちんと生活様式は整っている。

 地上が荒廃しているからには、こういった地下での生活を余儀なくされるのだろう。そうなると、地下でも生きていく設備は必要だ。

「水も食料も貴重で。物資もなかなかないの。なんとかみんなで分け合って、生活している感じ」

 物資が少ないということは、衣服もなかなか新しいものを入手できないのだろう。

 その為に住民は皆、何度も同じ服を着るしかなかった。なのでここの者達は衣装に関してはお世辞ながらもおしゃれをできるとは言えない。

そこらを行き来している人々を見ると。年老いた者や女性に子供が多い気がする。みんなユミラと同様乏しい衣服を身に着けていた。

しかし、ここにいる層がやたら年老いた者と女性と子供ばかりなのが気になる。

このシェルターには力仕事を任せられるような、若い男性はいないのだろうか、と気になった。

本来ならばこういった場所こそ男手が必要なのではないだろうか。

 ここにいる大人は、大人といっても若い層ではなく、中年かそれ以上の者が多いようにみえる。つまり二十代か三十代ほどの大人の姿が見えないのだ。

 ここにも子供がいるのなら、その親世代のものもいるはずなのだが。

普通はこういった場所だからこそ、子供を育てる若い親世代が必要なのではないだろうか。

「ここってさ、大人の人はどれくらいいるの?」

子供の年齢以上であり、中年までいかない青年くらいの大人がいないことを疑問に思い、そう聞いてみる

「大人は、まあまあいるわね。けれど、若くて体力のある人達は生存者や他のシェルターを探すって外に出て行ったっきり戻ってこなかったの。若い人は体力もあって長旅にも耐えられるからってことで希望を探して外へ行っちゃったわ」

そしてそのまま戻って来ることもなかったと。

若い者達こそ、こういった場所には力仕事をできるということで残すべきではないのか、とは思ったが、ここはそういう文化ではないようだ

だからこそ、力のある者は外に出て行って、そういった体力を使うこともできるのかも、とのことでここのシェルターの若い層は旅立っていったとのことだ。

「だからここは、あなたみたいに外から来た若い人は珍しいのよ」

 先ほど、子供達やここにいる住民が外から来た清二を歓迎していたのもそのためなのかもしれない。

 滅多に人が来ない場所だからこそ、外から来た人を見かけると嬉しい、と。

「ここを出て行った人達は、もう会えない気がして、みんなが外に行くって決めた時も行かないでってお願いしてもだめだった」

 ユミラは少し悲しそうな顔をした。

「やめてって言ってもここでこのまま同じ暮らしを続けるくらいなら、新しいことに挑戦したいとか、同じ場所に留まるより他の場所に行きたいとかそんな理由だったわ。私のお父さんもその中に入ってて、出て行ったけど戻ってこなかった。残された私とお母さんでずっと待ってたけど、私達がいくら待っても帰ってこなくて、お母さんは結局病気で死んだわ」

「……そうなんだ」

 悪いことを聞いてしまった、と清二は反省した。

「きっと地上は他の場所にもシェルターはあると思うけど、そうやって探しに行った人は帰ってこなかったし、結局他のシェルターがあるかどうかわからなくて。なかなか他所からお客さんが来ることも全然ないのよ」

 だから清二が来たとしても、珍しい生き残りというよりは、お客様という扱いになる。

「ここってさ、通信手段とか電波とかないの? それでこの世界の人達と連絡を取り合えるとか、外から情報を得るとか」

 この世界に電話やラジオといった他の場所から通信で繋がるといったものはないのだろうか? と。生活環境からしてインターネットというものはなさそうだが、それでも連絡を取り合える手段はないのかと。

「でんぱ? そんなものないわよ。 このシェルター以外の人なんてあなた以外来たことないもの」

 電波が何かわからない、という時点で聞いても無駄だった。

清二のことを珍しい来訪者といったのだから、それはこのシェルターでは外部との通信手段といったものもなく、ただ孤立していて他の場所がどういった状況になっているのかを知らないのだ。

 ここにはテレビやラジオに電話やインターネットといったこのシェルター以外での地上の世界を知る手段がない。

「そっか、変な事聞いてごめんね」

 とことんこの世界は荒廃しているのだと実感した。



 そして清二はユミラにシェルター内の様々な場所を案内してもらった。

 上の階にあったように、衣服や日用品など、物資を作る小さな工場、食品を加工する場所、住民が暮らす移住区にはもっと細かい施設があるということ、ここは実にこのシェルター内だけで成立している一つの町だった。


案内されている途中に、ふと天井を見上げると、天井にはところどころヒビが入っていた。

 それがまたこの場所が作られてから長い年月が経過していると思わされた。

 このシェルターがどれだけの耐震性があるのかはわからないが、それだけここが作ららて年数が経過しているのだろう。

(まさか天井が落ちて来たりしないよな)

 清二は少々不安になった。ここは清二にとっては夢の中なのでそういった事故で命を落とす心配はないだろうが、それでも緊張感を煽る。年数経過でここも劣化していて、いつかは住めなくなるのでは、という心配もある。

 ユミラにとっての生活空間であるここが危険そうだとは、彼女には言えない。

 自分の住んでいる場所に危険があると言ってしまえば、ここの住民達が不安になるだけだろう。

「ん? どうしたの?」

 天井を見上げる清二を見て、ユミラが気をかける。

「い、いやなんでもないんだ」

 清二はごまかした。

(天井に何があったって今までもこれでやってこれたんだからこれらも大丈夫だろ。)

そう言い聞かせて気にしないことにした。


 そのままユミラのシェルター内の案内は続いた。

 食料を保存する貯蔵庫、多くの文献を残すライブラリ、勉強をする教室、洗濯物など衣類を取り扱う日本で言うコインランドリーのような場所もあり、大浴場に近いシャワー室、重要な話し合いなどに使う会議室、怪我や病気の治療をする医務室、シェルター内の情報を提示する掲示板、ここでは生活ができるよう、一通りの施設は揃っていた。


 一通り、説明が終わると、ユミラは残ってる場所についての説明をした。


「あとは、私達には使えない場所があるのよ」

「使えないもの?」

「奥に『こんぴゅーたーるーむ』って場所があるんだって。文献によると、昔はそう呼ばれてたらしいわ」

「コンピューター……」

 インターネットも存在しないであろうこの世界にもそんなハイテクな機械があるのか、と清二は意外だと思った。

 こういった世界では、機械がなく、人々は昔の地球のような生活様式をしているように見えていたからだ。

 ここまで立派なシェルターがあれば、そういった機材はあってもおかしくない。

「でも、入ってもよくわからないものがあるだけで、誰にも使えないの。どこをどう動かせばいいのかもわからないし。それにかなり昔からあるみたいで、おじいちゃんやおばあちゃんよりも前の世代の人達が使ってたのかも、だって」

 この世界にも機械がある、そしてシェルター内にそんな部屋があるというのも意外だ。

 しかしユミラの台詞からするに、つまりここのシェルターに現在住んでいる今の世代のものたち には使い方がわからなくて放置しているという状態なのだろう。

(もしかして……)

 そのコンピューターとやらを使えば、この世界をより知れる情報源にならないのかと、思った。使い方がわからなくてここの住民が知らないだけで、それを使えばこの世界の他の場所とも連絡が取れるのでは、と。それならこの世界についてより詳しく知れる。

「ねえ、そのこんぴゅー……」

 言いかけたところで、清二の意識がふわりとした感覚があった。

「あ、あれ?」

視界がぐにゃりと曲がっていき、暗転する。


 そのまま身体から力が抜け落ちていく感覚がした。

 まるで、泥沼の底から浮き上がっていくように、身体が軽くなっていく。

 そして目の中で光がフラッシュした



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