SOL3
「ガラクタ生命研究所ぉ!? またノゾミはえらいもん見つけてきたなァ」
午前中で学校が終わり、帰りに立ち寄ったお好み焼き屋で、
俺たちはノゾミを真ん中にした横並びでカウンター席を陣取った。目の前の鉄板で威勢のいいおばちゃんが何枚ものお好み焼きを同時進行で焼いている。
「だいたいよォ、マトモなのか、ここは?」
リクは差し出されたアツアツのお好み焼きを、ほふほふっ、と頬張ってから、箸先をノゾミに向け問い詰めた。
「えーっ!? 連絡先のメアドだってちゃんとgo.jpだよ?」
「ンならいいけどさ。……で、ソラはどうすんの?」
「えっ? お
「ソラも大賛成だって!」
すかさずノゾミが割り込む。彼女がお好み焼きをぱくついてる隙に、リクは頭越しに俺にアイコンタクトを飛ばしてきた。
『どーせいつものアレだろ。ノゾミのナマ』
『そうそう』
顔を上げたノゾミは、もぐもぐと口を動かしながら左右をキョロキョロ。うん。横から見ると、まつげ長いのがよく分かる。
「……結局ノゾミが行きたいってわけね」
リクは、こういうのを察するのがとても早い。
「そ。ミッチーの発作」
俺はわざと大げさに肩をすくめ、鉄板のお好み焼きに箸をのばす。
「アッハッハ。いいよ。旅は道連れってやつだ。ただし、盆は忙しいから、お前らと遊ぶのはそれまでだな」
「じゃぁ、きまりね! わーい、1週間、楽しい旅になりそうだ」
と俄然はしゃぎだすノゾミ。
「そういや、ソラ。お前、進路希望表、出したか?」
「いや……今朝それで理科ムッチーに呼び出されてさ」
「何、お前また〈ハッカー〉って書いたの?」
「もち。ホワイトハッカーね」
それを聞いてすぐリクは「アッハッハ。こりゃ傑作だ」なんて豪快に机を叩いた。
「ソラさぁ、はやく白黒つけたほうがいいんじゃない?」
ノゾミが割り込む。いやいや、白黒って
「そういう問題じゃ
俺の言葉にリクがかぶせてくる。
「まぁ、白でも黒でもいいけどさ、パソコン触れないのは、まずいんじゃね?」
「そうなんだよ!」
「そうなんだよ、じゃねえよ。ワッハハ」
そう言うと、リクは俺とノゾミのコップに麦茶を注いだ。ガサツに見えて、こういう気づかいを欠かさないのが偉いよ。さすが坊さんだけのことはある。
「お前はどうなんだよ?」
コップの麦茶を飲み干してからリクに尋ねる。
「俺? そうさなぁ。……もう、諦めて坊主になることにするよ」
「マジで?」
リクの頭を眺める。明るい茶色のソフトモヒカンが今日はどこか寂しそうな感じもする。
「本気?」
そう言ってノゾミも心配そうにリクの顔を上目遣いで覗き込んだ。
「え? お前ら、勘違いしてないか? うちの宗派は髪型自由だぞ! そりゃあ、得度式のときは剃るけど、すぐ戻る!」
リクの家は江戸時代から続くお寺だ。姉が2人いるとかだが男子は彼だけなので、必然的に寺を継ぐことになる。
「お前、大学はどうすんだよ? それにバンドだって……」
「まぁ、心配すんな。なんせ俺は諦めが悪い。人型ロボットを作る夢も、武道館ワンマンライブも、どっちも諦めてない」
そう言ってリクはコップの麦茶をごくごく喉を鳴らしてイッキ飲みした。すると俺たちの間に漂い始めた暗雲を散らすようにノゾミが両手を振って入ってくる。
「ああー、もぉう! 2人、話がくらすぎぃ。そんな顔じゃ、明るい未来は逃げてくぞォ!」
「いいよなぁ、ミッチーは。なんか将来明るそう。ハハハ」
「なぁに言ってンの」
ぱちんの俺の額で彼女を細指が弾ける。やっぱり姉とかのつもりなのだろうね。
「ほら見て〈ガラクタ生命研究所〉。めっちゃ楽しそうっしょ!」
ノゾミがスマホを何度かタップしてから画面を見せつけてきた。
〈命がうまれる瞬間をあなたも体験!〉
〈JK2人がご案内♡〉
「なんかワクワクしない?」
ノゾミは少しも恥ずかしがらずに得意げな笑みを浮かべる。
「おいおい。これ、なんつーか、いかがわしいやつじゃないのか?」
とリクは少し困った表情。
「で、ミッチー、いつもの〈ナマ〉はどうしたの? 小惑星とか海底火山とか、あんまし生き物と関係なさそうだけど?」
「アハハ〜。わたしだって、ナマじゃないほうが良いときだってあるってば。お好み焼きだって、そうでしょ?」
ノゾミが勢いよく振り向いて二つ結びがリクの頬をかすめる。
「そう? んならいいけどさ」
「そうそう。だって、分からないから、それを白黒はっきりつけるために行くんじゃない!」
店を出るとすぐにノゾミが「はいこれ」と小さな冊子を手渡してきた。そこには、日程表やら持ち物リストやらが、かわいい丸文字でびっちりと書きこまれていた。スマホに触れない俺のために? というより、こういうのが楽しくて仕方ないんだろうね。
持ち物は制服、着替え、歯ブラシ、バスタオル、水着。なぜ?
6時起床、9時消灯。女子部屋には立入禁止。おやつは300円まで――。遠足のしおりかよ!
そういえば、火星での事故のことを知っている人に会わせてくれるといってた話はどうなったんだろう。ノゾミに聞きそびれたと気づいたのは、家に帰ってシャワーを浴びているときだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます