第8話 ギスギスした帰り道【side.ファブリス】
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セーレの挑発によって騒然となった自己紹介だったが、アシム先生が淡々と司会進行した結果、それ以上の騒動には発展しなかった。まあ、貴族が集まる学園なのだから、この程度のことで騒動に発展されても困るのだが。
さて色々あったものの、本格的な授業の開始は明日からとなる。
王城と学園との往復は、馬車を使うことにしていた。本来なら僕の仮眠時間に充てたいところなのだが、ちょっと予定を変える必要があるだろう。
「……どうして殿下と同じ馬車に乗って帰らなくてはならないのでしょうか?」
「僕の婚約者に悪い虫が付かないようにするためですよ。今日から可能な限り、送り迎えは僕がやります」
今日のセーレの自己紹介を見て、この娘が何を考えているのか益々分からなくなってしまった。別に何も知らなくてもいずれ結婚するのだが、学園でも3年間一緒に過ごすというのに動向が読めなさすぎるのも困る。登下校の時間を使って、少しずつ探る必要があるだろう。
特に今日の自己紹介はその極致だ。
「ところで、何故あの自己紹介の場で、魔力が一切無いことを明かしてしまったのですか?適当に誤魔化してもよかったのでは?」
ただでさえ第一、第二を飛ばした第三王子との婚約ということで、あらぬ噂が立ちそうなのだ。王族の中に魔法不能者がいるとは何事だ、という政治的な批判を浴びることにもなりかねない。あまり多くの人間に魔法不能者であることを宣伝されるのは困る。
「王族の婚約者が魔法不能者では体裁が悪い。そうお考えなのですね」
「っ!」
……っ、本当にハッキリと言う娘だな。
「尤もな心配ではありますが、同時に無用な心配でもあります。あの教室の中の半数は、幼少期に私のことを魔法不能者だと嗤っていた連中です。ならば彼らの口から、残り半数の生徒に悪し様な印象を植え付けられる前に、自ら明かしてしまった方がマシな印象となるでしょう?」
つまりは彼女の方こそ、政治的な判断をしたというのか?入学式初日の、しかも自己紹介の場で瞬時に判断したと?
「……なるほど、おっしゃる通りかもしれませんが。しかしその後の、魔法の知識については――」
「あれは事実ですから。学生と研究者を同列に並べてはいけません」
僕の目の前でぴしゃりと言ってのける豪胆さに思わず鼻白んだ。この娘、怖いものはないのか?一応僕も、その学生の一人に入るわけだが。
「研究者と来ましたか……では、魔法教練でもさぞ良い成績を出してくれるのでしょうね」
「ええ。流石に魔力を必要とする演習では見学になると思いますが……実戦形式での演習では、殿下も含めて全員を倒せる自信がありますわよ」
「魔法抜きで、ですか?」
「ええ。私には魔法など必要ありませんから」
……中々言ってくれる。面白いじゃないか。
「言ったからには実行してもらいますよ。セーレ・カヴァンナ公爵令嬢」
「もちろんです。お楽しみに、殿下」
不敵に笑う公爵令嬢からは、魔力が無いにも関わらず何かしらの圧が感じられた。
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