死体もどきの公爵令嬢【なろうリマスター】

秋雨ルウ(レビューする人)

死体と呼ばれた少女

第1話 死体と呼ばれた少女【side.セーレ】

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「きゃあー!」


 学園の食堂でランチを持ち運んでいた女子生徒の一人が私の横で転倒した。助け起こそうとしたが、それは即座に払われてしまう。


「いやあ!ごめんなさい!許してください!私を叩かないでえ!!」


 恐怖に震える女子生徒に対する同情と、私に対する非難の目が集中する。しかし、私が"セーレ"であることを認識した瞬間、その目線の意味するものは急変した。非難だけではなく、嫌悪と、恐怖の色に染まっていく。少なくとも公爵令嬢に向けられるものではない。得体の知れない怪物を見る目だ。


「なんの騒ぎだい?」


 その有象無象が割れたかと思えば、一人の美男子が現れた。金髪碧眼にして、完璧な容姿を持つ若き第三王子だ。


「セーレ。これは一体どういう事かな?」


「殿下……」


「ファブリス様!私、ずっとセーレ様に虐められていたんです!私がファブリス様と同じ、光と火の属性を得意とするのは生意気だと!」


「……説明してもらえるか、セーレ。彼女の言っていることは本当か」


 そして、目の前で私を射抜く力強い目に込められたものは――。




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「おお……!生まれたか!よく頑張ったな、ジネット!」


「ええ、あなた……かわいいかわいい女の子よ……」


 私が生まれた時、両親は確かに私の誕生を祝福してくれたらしい。既に跡取り候補となる兄が生まれていたから、私は男でも女でも、どっちでも良かったのだとか。


 私はきっと幸運だったに違いない。公爵家の令嬢として生まれた時点で、私が不幸であるはずがないのだから。


「おお……!ジネットに似て美人ではないか!」


「ふふっ、きっとあなたが父だからですわ。ねえ、この子のお名前は……?」


「ああ、決めてあるとも!お前の名前は、セレスティーヌ!セレスティーヌ・カヴァンナだ!」


 セレスティーヌ。それは公爵家の歴史上、最も魔法の扱いに長けていた女傑の名前だった。




 でも……その名前が公爵家にとって、最大の皮肉になってしまうなんて。




「ローラ・サンジェ。さあ、その水晶に手をかざしなさい」


「はいっ!……わあ、きれい!」


 水晶が赤く光り輝き、周囲の大人たちが拍手をもって祝福している。ローラ・サンジェという名の童女が、火属性に対して潜在的に高い適性を持っていることが判明したからだ。


 転機は私が5歳になった頃に訪れた。魔宝珠ミロワールクリスタルによる洗礼の儀式……このアンスラン王国における、子供の魔力属性を診断する儀式だ。全国民の属性は、ほぼ例外なくこの魔宝珠によって明かされてきた。


 その会場である城内が、今はざわめきで満たされている。何故なら一人、また一人と魔宝珠に触れていく中、最後の一人となった私がいつまでも魔宝珠を輝かせなかったから。


「どうした、セレスティーヌ。魔力を込めろ。手に全身の熱を集めるイメージで触ればいいだけだぞ……!?」


 力を込めて水晶に触る。体温が奪われて手が冷たくなっていく。でも、輝かない。全く光らなかった。魔宝珠は魔力が無いものに触れても反応しない。


「そんな……!?」


「こんなこと、ありえるのか……!?ま、まさか……!?」


 魔力は石ころや葉っぱにさえ宿っている。例外的に魔力が一切無いもので、一番代表的なものは金属。そして他に考えられるものがあるとしたら――




 ――死体くらいだ。




「きゃああああーー!!!」


 魔力無き者は命なき者。世の常識が目の前で打ち破られたことで、城内は貴婦人と子供達による絶叫と泣き声に支配された。警備していた騎士達は銀の剣を抜き、私を取り囲んだ。


 その後のことは覚えていない。びっくりして、ただ恐怖のあまりに泣き叫んでいた私は、気が付けば屋敷に帰ってきていた。




「魔力が無いとはどういう事だ!!主治医は一言もそのようなことは言ってなかったではないか!!」


「落ち着いてください閣下」


「これが落ち着いてなどいられるか!!では……ではあの子は魔法が使えぬということか!?偉大なる魔術師を輩出してきた我がカヴァンナ家に魔法不能者が出たなどと、そのようなことがあって良いものか!!」


「……閣下、事はもっと重大です。セレスティーヌ様は、魔法が使えるだけの魔力が無いのではありません。魔力が一切、欠片も無いのです。生物が水を飲まねば生きられないように、四肢も、心臓も、魔力無しで動くなどありえません。それはアンデッドでさえ例外では無いのです」




「では……あれは死体も同然でありながら、動いているとでも……!?」




 その日から……私はセレスティーヌと呼ばれなくなった。




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