第7話 俺と少女とタクシードライバー
店を出た俺はタクシーを捕まえ、現在、蒼城の家に向かっている途中である。
「ん〜〜んぅ」
可愛らしい声を漏らしながら小さい体躯をねじらせ自分にちょうどいい体勢をしようとしている。すまんな蒼城、ここはベットの上じゃないんだ。
ところでさっきから怪しそうなものを見るような目でこっちをチラチラといかつい顔したタクシードライバーさんが見てくるんだが。もう少し隠せないのか?バラバラなんだが……
「ムゥ………あれ?」
と、そこで蒼城が目を覚ます。
「ここ、タクシー?………!?!?しゅ、秋次君!?じゃなくて鹿島さん……」
「別に秋次君でもかまわないが」
「ど、どうしてここに?………あれ?私、何してたんでしたっけ」
これは忘れてしまった系か、そのわりには秋次君呼びしてましたけど、とか思ったがみるみると顔が赤くなっていくあたりどうやら憶えているらしい。
「わ、わ、わ、わたしは、なんてことを!?ち、ちちちち違うんです!わたし、普段はあんなエッチじゃないです!不埒じゃないんですよ!?自分から、お、おっぱい見せたりなんてしませんからね!?」
と自分の胸を抑えながらそう述べる蒼城。
「わかった、わかったから、落ち着いて」
タクシードライバーさんの目つきが一層ギラついているから怖い怖い、ただでさえそのイカつい見た目なんだからやめたほうが俺はいいと思うな〜
「嘘です、それは嘘の目ですよぉ。は!も、ももももしかして!?わたし夜風浴びに行っちゃってるんですか!?ホテルに連れていかれちゃってる途中なんですか!?お、大人の階段登らせちゃうんですか!?」
手をあわあわさせながらそう自分の妄想を披露する蒼城。何この子見てて面白い。
普段の俺なら意地悪な性格してるって自覚してるし
『エッチじゃない、か……そのわりにはエロ同人誌読んでるようだったけどな』
とか言ってめちゃめちゃイジるのだが、タクシードライバーさんがスマホを取り出してしまった。それだけはマジで勘弁していただきたいので早々に誤解を解くことにしよう。
俺は未だあわあわとしている蒼城の両肩をガシッとつかむ。
「いいか蒼城」
「は、はい!や、やさしくしてください……ね?」
と上目遣いでヤる直前のようなことを言う蒼城。今から行き先近場のホテルに変えようか?巨乳だし、可愛いし、問題ないな(大アリ)。
「もう一度言うぞ、落ち着け。蒼城は飲んでたら雰囲気酔いして寝て、そのうちみんなで解散しようってことになって、起こそうとしても起きないから、近所の俺が蒼城の家に送ることになったんだ、分かった?understand?」
「あ、I understand……です」
「ならよし」
ルームミラーから見えるタクシードライバーさんの顔も気のせいか納得顔をしている気がした。
「あ、あの」
「はい?」
「ちょっと気になったのですが、私の家、どうやって知ったんですか?誰にも教えてないはずなんですけど……」
「……………」
あーそれね、蒼城のスマホ見たんだ。なんて言えるわけないやろ。仕方ないとはいえ他人のスマホを勝手に見たんだ。プライバシーの侵害……というかタクシードライバーさんの顔が心なしか険しいような。
「あの、鹿島さん?」
と不安そうに蒼城がこちらを覗き込むのでやむをえん。ここは適当に繕っておこう。
「あーそれな、酔った蒼城が言ってたらしいんだ。俺は知らんが」
「……………??たぶん、いや絶対言ってないはずなんですけど……わたし、こう見えても記憶するのが得意なんです」
「………………」
タクシードライバーさんの目が光る。
やばい、これは言い逃れできない。まさか記憶がそんな鮮明に残ってたとは。これ以上言い訳しても逆に怪しまれるだけだろう。
俺は自分のスマホをポケットから取り出す。
「?????」
俺はスマホを蒼城に見せながら、指紋認識でパスワード入力を通過し、某マップアプリを開いた。
「ま、まさかーーーー」
蒼城は理解したのだろう。俺はこくりと頷いた。
「み、みみみみ見たんですね!?」
「致し方なかった」
「あ、あ、ああ、もうこの世の終わりです、終焉です、幕末です」
完全にダークサイドに落ちていらっしゃる。てかなんで幕末?気のせいか、タクシードライバーさんの目が気の毒そうだ。
「なんで、なんで私ってやることなんでも空回りするんでしょう?近所の人に挨拶しようとしたらなぜか不思議そうなものを見る目で見られるだけで挨拶返されませんし、プログラミングしたらパソコンは壊れますし、皆さんと仲良くしようとしたら酔って逆に引かれますし、わたし死んだ方がいいのかも………」
ダークサイドに堕ちてるところ悪いがだいぶ笑えるぞ。どうやら人を笑わせる才能はあったらしい。タクシードライバーさんも少し笑いを堪えているように見える。
「もう、わたしダメです、鹿島さんに丸裸にされちゃいました。お酒で酔っておっぱい見せちゃいますし、スマホだって見られてしまいますし、もう鹿島さんと顔を合わせられない、明後日から学校で顔を合わせていくことになるっていうのに……」
「あーいっとくが俺はさっきの操作以外してないぞ?」
流石にここまでいくと気の毒になってきたのでそう伝える。
「そ、それは本当ですか?だ、だとしたら私はおっぱいしか見られてないんですね!?」
「そ、そういうことになるな」
詰問するようなその必死さに思わずのけぞる。言ってて恥ずかしくないのそれ?
「よ、よかった」
そう言ってほっと胸を撫で下ろす。ぜんぜん良くはないと思うのだが、それほどスマホの中身が見られたくなかったということなのだろう。
「着きましたよー」
とナイスなタイミングでタクシードライバーさんがそう伝えてくる。
「蒼城の家着いたからおりて」
「は、はい。ありがとうございます。あのお代は」
「俺このあとまだ乗るから払っとくよ」
「で、でも高いですし」
「いいから!」
そう言って俺は蒼城を車の外へ押し出す。蒼城は財布を取り出そうとするがーーーー
「走ってくれ」
タクシードライバーさんにそう指示を出す。
「え?あ、ちょ待ってくだーーーー」
「危ないので離れてください」
タクシーは走り出した。いつもより走行音がよく聴こえる気がする。
「お客さん、どこへ行きますか?」
「そのまま真っ直ぐ。三ついったところで右折、そのあとコンビニが見えますからそこで左折したとこでおろしてください」
「近いんですね」
「ああ」
今まで出会ってなかったことが不思議なくらい近い。今まで会わなかったのはもしかしたら高校に入って一人暮らしを始めたのかもしれない。
「いいですね。青春っていうのは」
「そうですねー」
「お客さんのことですよ?」
「はは」
そのツッコミに思わず笑ってしまう。この人は俺が蒼城と今日初めて出会ったことを知ったらどんな顔をするんだろうな。
「と、ここですね」
「お代はこれで」
「特別サービスとしてお代は半分でいいですよ」
「いいんですか?」
「若い男女を応援するのも、タクシードライバーの仕事ですから」
と言ってキメ顔をつくるタクシードライバーさん。
「浮いた分は彼女に使ってあげてください」
「ならそうさせてもらおう」
勘定したあと、俺はタクシーを出る。なんだか昨日も今日もだいぶ濃い気がする。
「また今度ノンアルでも奢ってやるかな」
なんて浮いた分の札束をヒラヒラさせながら俺はただいまと家に帰るのであった。
「あ、兄さんおかえりなさい」
「ただいま〜ふぁ〜」
「ちょ、お酒くさいですよ??」
「大丈夫、飲んできたのはノンアルだ」
「え?というか香水の匂い?」
「蒼城のがついたんだろ。眠いからもう寝るわ」
俺は返事を待たずに自室へと駆け上がり寝台にダイブした。眠い。おやすみ。
◇◆◇◆◇◆◇
「あっ、いちゃった……」
お兄ちゃんがいなくなった後の廊下でこっそりとそう呟く。
「………もしかしてヤってきたりしたのかな?いやぁ、あのお兄ちゃんが?」
だってあのThe陰キャって感じの見た目のお兄ちゃんだよ?それはない……いやでもF高ってほぼ陰キャの集まった学校みたいなものだ。陰キャ同士仲良く……なんてあり得なくはない、かも。
「そういえば今日Rightもどっか食べに行ってたよね〜………これだ」
Right『仲間と打ち解けるためにノンアルを飲むという、典型的なダメな美少女に遭遇してしまった俺。だめだこの子酔う予感しかしないんだが』
「どっちともお酒を飲んでる?18歳未満にはノンアルコールといえど提供しているお店はかなり限られるはず…………ということはもしかして、お兄ちゃんが行ってきた飲み会にRightはいた?」
今度お兄ちゃんに飲み会でも連れて行ってもらおうかな?もしかしたらRightと会えるかも。
義妹がFFさんだった件〜バレないかどうかのギリギリのラインをスリリングに味わいたい俺はあえて正体をバラさない See you @2424274
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