第5話 その酔っ払いは幼女の見た目をしている
俺がトイレから戻ると待ってましたと言わんばかりにビールが運ばれてきた。もちろんノンアル、というか配膳するの遅すぎない?俺かれこれ10分くらい席外してたはずなんだけど。
「マジで飲むの?」
くどいが、実際に飲むのか、この幻想系少女が?ええ(困惑)
「はい………鹿島先輩」
「そうか……そういえば名前聞いてなかったな」
「
「そか」
え本名?ユーザーネームに本名使うとかこの子ネットリテラシー皆無なんだが。後でそれとなくバレないように注意しておこうと思いつつ、皆に飲み物が行き渡ったことを確認する。
「みんな揃った感じか?」
「「「おー!!」」」
と解がみんなを取り仕切る。
「蒼城、ビール持って」
「え?ビール?」
皆が各々の飲み物を手に掲げる。
「「「「カンパ〜イ」」」」
そういうや否や皆、飲み物に口を付けていく。
「カ、カンパーイ」
とワンテンポ遅れて乾杯をする蒼城。なにこれ可愛い。
「の、飲んでも?」
「もちろん」
「い、いただきます!!」
グビっと勢いよくビールをあおる。とてつもなくイケナイ光景だ。こんな幼女がビールを飲むなんて………日本はいつの間にこんな世界になってしまったのか。
「お、美味しいれすね。ビール♪」
「ん?」
あれ?何か違和感感じるな。先程までとは雰囲気が違う気がした。
「上手くなかったのれもう一度乾杯、しませんか?」
「かまわない、が……?」
「かんぱーい♡」
そう返事をするや否やこちらのビール容器にあちらのを軽くぶつけてくる。
「かんぱーい………??」
何か、おかしくないか?
「私、世俗的なことはあまり経験したことがないので新鮮でとても楽しいれす♪」
急に饒舌になり始める蒼城。ノンアル、しかも飲んでまだ間をない。アルコールが回るにしても人間の体の構造上、もっと後のはずだ。ここから導き出される解。
まさか――――――
「なぁ秋次、その子大丈夫か?何か酔ってないか?」
気づけば解がこちらの方を心配しているようだ。周りも少しこちらに視線を向けてきていた。
「気づいたか解。どうやら蒼城、雰囲気酔いするタイプのようだ」
そう返事をすると解は意味深に目をゆっくり閉じた。
「そうか……そっちは任せた!!」
「羨ましい、妬ましい、けど今回は任せたっす!!先輩!!」
「先輩、可愛いからってイケナイ事、しちゃいけませんからね!」
「ここは任せたから俺は先に行く」
「さらだバー」
「え、ちょ?」
俺は見放された。お前らマジで後で覚えとけよ。
「任されふぁいましたね♪」
「そうだな」
「しふぁし、わたひは雰囲気酔い?するタイプらったんれすね。うれひいほとですね。お酒を節約れきます!!」
「はは……」
乾いた笑みしか浮かばない。
他方から見たら羨ましい状況なのかもしれないが、俺的にはそうでもない。蒼城は貧乳っぽいし、俺そもそもロリコンじゃないし、可愛いけど恋愛対象とかそういう性的な対象にはならないので誰か俺と変わった方が日本の未来は明るい気がするんだが。
こんな日本だ。つぶやかずにはいられない。そう思いスマホを取り出そうとした時、ガシッと腕をホールドされる。な、なんだこの子、力つよ!こんなに細い腕のどこにそんな力。
「もうっ!秋次君?スマホなんていじったらオコれすからね?」
そう言って俺のスマホを蒼城はポケットから奪い取り自分のポケットにしまってしまう。しまった、スマホを奪われては帰れない。
「これは没収れす!」
「マジかよ……」
「ドンマイ秋次!」
解がこちらの様子を見ていたようで茶々を入れてくる。うるせえ助けろ。
(というか俺まだ何も食べてないんだが)
そう思い箸をキムチに運び口に入れ、ノンアルビールを飲み干す。
「いい飲みっぷりれすね〜」
しかし本当にどうしたものか。改めて蒼城さんに向き直る。可愛らしい顔は少し火照っており色っぽい。ゆずは絶対的可愛い系美少女という感じだが蒼城は淡い幻想的な美少女という感じだ。もっとも、今はそんな雰囲気一切かもしだされてないが。
(酒豪の対処はしたことないんだ。水でも飲ませるか?いや、夜風に当たらせる……雰囲気酔いの根本的な原因はアルコールというよりこの場の雰囲気……つまり)
「なんれすか?いきなりじっくり見つめちゃって、そんなに見つめられたら照れらいますよぉ〜〜」
「ああ、ごめん。ちょっと夜風にでもあたりに行かない?」
「………ラブホテルへの誘いれすか?」
キッと、こちらにさっきまで歓談をしていたF高生が視線を向けてくる。俺は見せ物じゃないぞ助けろ。
「待て、早まるな、俺はそんなことは言ってない!!」
「そう言っれおきながら酔ってるわたひを連れていっちゃうんれす!」
「このピンク脳が!違うわ!」
「あっ痛た!?」
おでこにチョップを一発かます。
「れも!そういうれんかい、えろろうじんで見たらことあります!素直になっつれいいんれすよ?」
まさかこいつ、雰囲気酔いする上に飲み会クラッシャーなのでは?酒癖が悪いヤツに会ったことがなかったから知らなかったがこんな酷いものなのか。
「残念だが、幼女にも貧乳にも興味はないんだ」
「貧乳………?私がひんりゅうだと思ってるんれすか?」
「………は?」
呆けているであろう俺の顔にニヤッと色っぽく笑い、蒼城は自分の服に手に掛けた――――――
「解!!アウト!アウトだ!羽交締めにしろ!」
そう言ったにもかかわらず解は動かない。あっちもあっちで呆けているらしい。その様子を見た解の彼女こと、めいちゃんが一発ビンタをお見舞いしこちらに向かってくる。
だが遅かった。
(スナップボタンだと!?)
手に掛けたと同時にプチプチプチと気持ちいい音を立てて胸元が曝け出された。
(――――――っ!?)
露わになった胸は包帯でぐるぐると巻かれていた。可愛らしい下着度ではなくサラシ、まさかその下に桃が実っているというのか!?
「えーっと、たしかDサイズらっらはずれすよ?」
本当に桃源郷は眠ってたらしい。
と、そこで俺の視界が暗闇に包まれた。
「はーい、エッチな先輩?ダメですよ?」
どうやら手で目隠しをされているらしい。なんというか、助かった。
「え、ちょ、なにするんれすか?女ろうしれやるんれすか!!?い、いやれすよ!!?」
「はいはい、ちょーとじっとしててねーー服を整えちゃうから」
暗闇の向こうではどうやら蒼城さんが服をめいちゃんに着せられているらしい。
そしてようやく静かになったかと思うと暗闇は晴れる――――
「ともかく、助かった……えっと」
「皆真奈 宵野沙(みなまな よいのさ)ですよ、エッチな先輩?」
「皆真奈、ともかく助かった。あのその呼び方やめろ」
「いいって、いいって、私たちも予想外だったしね。いや〜まさかこんなに可愛いのにこんなに酒癖が悪いとはね〜」
「二度と飲ませられないな」
「だね〜」
ちなみにだが当の本人はと言うと…………
「zzzーー」
眠っていた。何が起きたのか、めいちゃん曰く、女とことをかまえるのは相当ショックだったらしい。多分それが理由になったのか気絶してしまったらしい。とりあえず俺は蒼城に近づき、ポケットから自分のスマホを取りだす。
「どうするんですかーこの空気。先輩のせいですよ?」
「半分はお前たちも悪いからな?」
「ちなみにもう半分は?」
「蒼城のせいだな」
「ちなみにエッチな先輩は?」
「一切悪くない。あとその呼び方やめない?ビッチな後輩」
「ええ!ひどい!その呼び方はひどいですよ!?私ビッチじゃないです。でも先輩はエッチなので呼び方は変えません!というか本当にどうするんですか〜店主さんこっちガン見ですよ??とりあえず!もう今日は解散!!」
やば、俺まだ食い終わってない!
俺はそそくさと座り、残飯を口にパクパクと運んでいく。みんなも皆真奈のそれに同意するようで、幕引きの空気が漂ってた。
「つか、蒼城ちゃんどうする?」
「起こすしかなくない?」
「おーい、起きろー蒼城ーー」
そうは言うものの一切起きる気配はない。そりゃそうだ。簡単に起きれたらそれこそ驚きだ。
「起きるまで待つ?」
「その前に店閉めっちまうよ」
「てか蒼城ちゃんって家どこか知ってる?」
「○○○○駅に住んでるんですーってさっき蒼城ちゃん言ってたよ?」
「あ――――」
そうポリポリと頬をかきながら俺の方を向く解。○○○○駅、つまりは俺の家の最寄りの駅だ。
ヒヤリと、嫌な汗が頬伝った。
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