冬の大三角
九傷
冬の大三角
あれがシリウス、プロキオン、ベテルギウス。
僕が指したのは冬の大三角。
文字数が多いせいか、どこぞの歌に出てくる夏の大三角より語呂が悪い。
ついでに言うと、夏の大三角のアルタイルは彦星、ベガは織姫を表すと言われており、デネブはその織姫と彦星が七夕に出会う手助けをしたと言われている星座……という、なんともドラマチックな物語がある。
それに比べて、冬の大三角にはそんな気の利いた物語はない。
物語自体はあるのだが、その内容が、
―――――――――――――――
オリオンは、ある日二匹の犬と狩りに出た。
しかし獲物が天の川の向こうにいるため、渡る必要があった。
二匹の犬のうち、一匹は体が大きかったため、オリオンと一緒に川を渡ることになった。
しかしもう一匹は体が小さかったため、おいていくことになった。
子犬は天の川の向こうに行くオリオン達を、寂しそうに見つめている。
―――――――――――――――
だからオリオン、大犬と子犬の間には天の川が流れているのだとか。
なんとも酷い話だ。
さらに言うと、時期も悪い。
冬の大三角が見える時期は、大体一月の半ば頃だ。
つまり、めちゃくちゃ寒い。
天体観測をするには中々に過酷な状況である。
恋人と一緒に夜空を眺めるには、あまり適しているとは言えないだろう。
……そんな、デートには適していない状況にも関わらず、彼女――
「ふーん。なんだか子犬のプロキオンちゃんが可哀そうだねぇ……」
そう呟く彼女を盗み見るように視線を向けると、少し瞳が潤んでいるように見えた。
まさか、今の話しを聞いて感極まったワケではあるまい。
単純に、寒くて目が滲んでいるのだろう。
「……ごめん」
「え!? なんでトモ君が謝るの!?」
「いや、寒いのに、こんなことに付き合わせてしまって、悪いなと……」
今夜、星を見よう。
そう言ってこの丘に彼女を誘ったのだが、今となっては後悔しかない。
場所のチョイスも悪いし、何よりセリフがキザったらしい。
思い出すと顔から火が出そうだった。
「そんなことないよ! 誘ってもらえて、嬉しかったよ?」
「でも、寒いだろう?」
「寒いけど、二人でいるから気持ち的にはあったかい、かな」
無邪気な笑顔を浮かべ、そう言ってくる彼女にドキリとさせられる。
「嘘じゃないよ?」
わかっている。
こんな笑顔を浮かべる子が、嘘をついているなんて思えない。思いたくない。
「……そう言ってくれると、僕も嬉しい」
星空を見に来たハズなのに、いつの間にか彼女のことばかり見ている自分がいた。
彼女の一挙手一投足に目が離せない。
「……トモ君?」
そんな僕の視線に気づいたのか、星空を見上げていた彼女がこちらの方を向く。
必然的に、僕達は見つめ合うかたちになった。
「…………」
可愛い。たまらなく可愛い。
こんな可愛い彼女が僕に告白してきたときは、はっきり言ってドッキリか何かだと思った。
だから返事は誤魔化しつつ、しばらく様子を見てきたのだけど、もうドッキリでも何でもいい気がしてきた。
「笹川、さん」
「何?」
「その、告白の返事なんだけど……」
「……え!? 今このタイミングで!?」
「ああ、その、自分の気持ちをちゃんと認識できたというか……ね」
「う、うん。それで……、返事は?」
やや食い気味で迫ってくる笹川さん。
白い吐息が顔にかかり、凄くドキドキする。
「ど、どうやら、僕は、さ、笹川さんのことを、好きに、なってしまったらしい。だから、その、こちらの方こそ、よろしくお願いしたいというか……」
「本当に!? やったぁ! 凄く嬉しい!」
感極まったような顔を浮かべた笹川さんが、そのままの勢いで抱き付いてくる。
僕はその勢いに負けて、地面に倒れ込んでしまった。
「こんな素敵なデートに誘ってくれるくらいだから、脈はあると思ってたんだけどね!? それでも、トモ君に好きとまで言ってもらえるとは思ってなかったから、本当に嬉しい!」
本当の本当に嬉しかったのか、彼女はかなり興奮しているようであった。
しかし、僕も負けないくらい興奮している自信がある。
だってそうだろう? こんな可愛い女の子に抱きしめられて、興奮しないハズがない。
「トモ君、大好き!」
彼女がそう言うと同時に、真上に見えたシリウスが、ひと際大きく輝いたような気がした。
あの星は彦星でも織姫でもないただの大犬のハズだけど、僕らのことを祝福してくれたのかもしれない。
冬の大三角 九傷 @Konokizu2
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