勇者なんだけど異世界転移を断ったら美少女女神に押しかけ同居されました。

真賀田デニム

第一章 イフリートを従いし烈火の魔法を操る麗炎の女神

第1話 俺は天界の女神の異世界召喚を断る。


 ピンポーン。


「こんにちはー。山田一平さん、いますか。異世界攻略のためにあなたを迎えにきました。あ、怪しい者じゃないですよ? 天界からやってきた勇者召喚専門の女神様ですから。もしもーし」


 俺はソファから起き上がると、大きく伸びをする。

 異世界や女神や勇者というワードが聞こえたような気がしたが、一体誰だろうか。


 ネットで何も頼んでいないし、自治会の誰かが訪ねてくるとも聞いていない。となると宗教の勧誘の可能性が非常に高い。普段なら無視する案件だ。しかし、若さ弾ける可愛い女性の声だったという一点のみが、俺の重い腰を上げさせた。


 ピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッピンポンッ!!


 インターホンが鳴りまくる。


 痺れを切らすの早すぎだろ。

 つーか、一般常識のない危ない奴かもしれん。

 どれ、見てやろう。


 俺は備えつけのモニターを見る。

 異世界ファンタジーの女神みたいな恰好をしている女がいた。

 

 赤を基調とし、過度に意匠を凝らしたワンピース風の衣装。あるいは動きやすさを重視した丈の短いドレス。頭にはターバンのようなカラフルなカチューシャ。それは長い亜麻色の髪に絡みつくように一体化していて、腰のあたりまで伸びていた。


 普通の恰好ではない。なんらかのコスプレイベントでもなければ、まず着用するような服じゃない。今流行っているマンガやアニメのキャラだろうか。つまりコスプレしている女。


「ちょっといるのは分かってるんだから早く出てきなさいよ、一平っ。あと五秒で出てこなかったら、炎の魔法で扉を消し炭にしちゃうんだからっ。あ、嘘じゃないから。私、やるっていったら本当にやっちゃうんだから」


 いきなりけんか腰かよ。

 しかも、気の強い幼馴染かのように一平とか普通に呼び捨て。

 ナチュラルすぎて、いもしない幼馴染の顔が横切ったっつーの。

 

 炎の魔法で扉を消し炭とか、これはもう危ない奴確定だろう。なのに俺は意に反して扉を開けていた。


 だって、しょうがないだろ。

 


「はい、山田ですけど、どちら様でしょうか」


 俺は声を掛けながら、女を観察する。

 年の頃は、一六、七。目鼻立ちの整った可憐な容姿。さきほど、いもしない気の強い幼馴染が脳裏に浮かんだが、いたらこんな感じなのだろうと思わせる勝気な幼馴染属性がにじみ出ている。


「いつまで寝てんのよっ。早く起きなさい、一平っ」と朝、掛布団をひっぺがしに来る姿をリアルに想像できるくらいだ。そんなオワコンなシチュエーションが今も存在するのか知らないが。


「やっと出てきたわね。い……」


「なんだ?」


「い、いえ、なんでもないわ。あなたが山田一平。年齢は一七歳で合ってるわね。さあ、早く異世界オッパニアに行くわよ」


 なぜだか俺を凝視していたコスプレ女が、唐突に意味不明なことをほざく。

 いや、言葉の意味は分かる。〝なろう小説〟を読んでいるから。ただ、コスプレ女に急に異世界に行くぞと命令されているのが意味不明だった。


「ため口なのはこの際いい。聞きたいのはお前がなぜコスプレをしていて、なぜ俺を異世界に連れて行こうとしているかだ」


「ちょっとレイヤーなんかと一緒にしないでよっ。私は正真正銘の天界に住まう女神で、この服一式は女神専用のゴッデススーツ。あ、信じてないでしょ。ほら見て。手から火が出てるでしょ。ファイアボールって言うのだけど、これをこうやって投げると――」


 女神と言い張る女が、ピッチャーのように振りかぶって炎の塊を投げる。それは原っぱの向こうにある廃屋にぶつかると、轟音と振動と共に猛炎を上げた。

 崩壊する廃屋。周囲で悲鳴が上がる。

  

 マジかよ。この女……本当に女神だったのか。


「お、おい、今ので誰か死んでないだろうなっ?」


「大丈夫よ、誰もいないの分かってたし。でもこれで分かったでしょ? 私が女神だって」


「ああ。だろうな。人間にあんなことはできない」


「うんうん。そしてあなたを異世界に連れていくのは、あんたが選ばれし勇者だからよ」


「ほう、なるほど。そうかそうか」


「そうよそうよ。だから早く一緒に行くわよ。こうしている間にも異世界オッパニアでは罪のない人が魔王軍によって殺されているの。勇者のあなたが救うのよ、さあっ」


「悪いけど、断る」


「そうねそうね、じゃあ早速、天聖陣を作るからその上にのってえええええっ!?」


 女神が目ん玉を飛び出させて驚く。

 漫画やアニメでしか見たことのない、飛び出し方だった。


「え、ちょ、え? なに? なになに? 今なんて言ったのっ!? よく聞こえなかったんだけどっ!?」


「聞こえていたからこその驚愕だろ。だがもう一度言ってやる。俺は、異世界には、行かない」


「そうだそうだ。だから早く一緒に行こうぜ。こうしている間にも異世界オッパニアでは罪のない人が魔王軍によって殺されているからよ。勇者のあなたが救うのさ、いえぃっ」


「セリフ変えても俺が異世界へ行く別ルートには進まないぞ。俺は異世界には行かない」


「そうじゃそうじゃ。だから早く共に行く必要があるのじゃ。こうしている間にも異世界オッパニアでは罪のない人間が魔王軍の連中に殺されておる。だから勇者のお前が救うのじゃ」


「行かねーっつってんだろ」

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