第21話
ランクGで二十体もの〈アッシュウルフ〉を単独で撃破、これは歴史上で達成した者はいない大記録。
帰ってアスファエルに報告をしたら、きっと無茶をし過ぎだと苦々しい顔をされるのは間違いないだろう。
大量の光の粒子となって散ったモンスター達を眺めながら、俺は今の戦いでレベルがどうなったのか確認をする。
【名前】ソウスケ・カムイ
【ランク】G
【レベル】200
【筋力】200 【強靭】200 【持久】200 【技量】200 【敏捷】200 【魔力】0
【スキル】
・〈 〉
うん、なんかすごい事になっているぞ。
戦いを始める前は170だったのに、終わってみるといつの間にか30も上がっていた。
もしかすると経験値の獲得量は、レベルではなくランクを基準にしているのかも知れない。
つまり他の狩人達と違って、今の自分はレベルを上げやすい状態。
狼を一体倒せばレベルが上がる、まさにボーナスタイムに突入しているのだ。
──と冷静に分析しながらも内心では、目の前の有り得ない数字に驚きの余り絶句していた。
「お、おお……本当にレベル200になった……」
大きくレベルアップした自分のステータスに、右手が小刻みに震えてしまう。
先代の同じ力を有した者は、上限が200だったとオリビアは言っていた。
それに並んだわけなのだが、以前アスファエルが教えてくれた上限に至った際のランクアップ条件が出てこない。
まさか、まさかだと思うが。自分はまだ上限に至ってない?
レベル200でダメなら、キリ良く次は300辺りが上限になると思うのだが……。
となると単純計算で、普通の狩人の体三倍くらいのステータスになるのではないか。
チラッと、離れた所で狩りをしている狩人達を見る。
周囲にいる狩人達のレベルは、装備から推測するに全員Fランク。
六人パーティーを組んでいる事から推測すると、恐らくレベル50にも達していないのだろう。
現に〈アッシュウルフ〉を相手に立ち回る姿は、かなり遅くて一撃の攻撃力も足りてないように見える。
単純に計算して、この場で一番レベルが高いのは自分だと思う。
……強くなってる。俺は確実に強くなってるぞ。
高ぶる気持ちと共に、背後から不意打ちをしてくる〈アッシュウルフ〉を両断する。
手早く武器に付着した血をふき取り、次の獲物がやって来るのを待っていると。
遠くにいたパーティーが狩りを終えて、わざわざ此方に向かって近づいてくるのが見えた。
うげ……あのいつも悪口を言ってくる四人じゃないか。
魔人族と竜人族の男性二人、ウサギ耳の獣人族ホアとネコ耳獣人族の女性二人の四馬鹿パーティーだった。
彼等はまるで知り合いのように手を振りながら、此方に真っ直ぐ歩み寄ると目の前で足を止めた。
「あんたすごいじゃないか! さっきの動き見てたけどよ、もしかしてランクEの狩人!?」
「ここで半年間狩りをしているが、一度も見たことが無い御仁だな。しかもスキルを一度も使用しないで〈アッシュウルフ〉の群れを倒しきるとは、とてつもない才能の持ち主とみた。もしや転生したばかりの新人か?」
「二十体に囲まれて一度も攻撃を受けないなんて、すごすぎるわ!」
「かっこいい……あの、お名前を教えて貰っても良いですか?」
………………………………お、おう。
普段見せている態度との違いに、思わず心の中でドン引きしてしまう。
男二人はあからさまに下手に出ていて、女性二人も分かりやすく胸を強調してアピールをする。
どうやら目の前にいるのが、これまで散々バカにしてきた俺だと気づいていないようだった。
きっと昔から格上の相手には、こうしてへりくだった態度を取ってきたのだろう。
強い嫌悪感を抱きながら、脳裏に四人が中心となって自分の事を見下す光景がちらつく。
ひどい時は食べ物を背後から投げつけ、貧乏人に恵だと言ってモノを投げつけてくる悪質な行為は何度もあった。
下級ギルドに所属して停滞しているストレスを発散する為に、あのような行いをしていた愚か者達に対して自分から言う事は何もないし関わるだけ時間のムダ。
「すみません、大勢に話しかけられるのは苦手なので失礼します」
一言断って背を向けると、そのまま誰もいない狩場を求めて歩き出す。
「おいちょっと待てよ!」
相手にされなかったことで小さなプライドを傷つけられたのか、こめかみに青筋を浮かべて肩を掴もうと手を伸ばした。
感知能力で常に周囲を把握している俺は、触れられたくないので背を向けながらその手を寸前で避ける。
すると勢い余った魔人族の男性は、そのまま勢い余って前のめりにすっ転んだ。
実に無様な光景に少しだけ吹き出しそうになるが、それを鋼の意志で我慢して歩き続けた。
「完全無視とは良い度胸じゃねぇか!」
怒声と同時に背後でゴウッと何かが燃え上がるような音、それと周囲の温度がわずかに上昇する。
まさかと思い振り返ったら、そこには自身のスキル〈火属性魔法〉を発動させた先程すっこけた男の姿があった。
コイツ正気か?
面倒な手続きを経てようやく行う事ができる〈決闘〉以外での相手に対する攻撃。それは正当な理由が無ければサンクチュアリ国の法によって厳罰が下される。
軽傷だったとしてもFランクの彼は、所持金が全て没収される上にニ年間ノルマ達成報酬の半分が差し引かれる事になる。
それが殺人未遂だと判断された場合には、極刑に等しい罰が与えられるとアスファエルから聞いている。
周囲にいる狩人達の反応を確認してみたら、全員奴の仲間らしくニヤニヤして止めようとする者は一人もいなかった。
……なるほど、そういうことか。
この馬鹿げた趣旨を概ね理解した俺は、小さな火を右手に発生させた愚か者を見据える。
狩人のスキルは、ランクに応じて強化される。Fランクである彼の〈火属性魔法〉の火はとても小さかった。
冒険譚に出てくる〈紅蓮の王〉が扱う、地形すら焼き尽くす〈獄炎〉に比べれば軽く吹けば消えそうな規模。
正直に言ってレベル200に到達した俺は、全く脅威には感じない。
だが頭に血が上っているヤツは、どういう思考回路をしているのか格上気取りで言葉を発する。
「ここにいる奴等は全員俺様の仲間だ! どんな怪我をしようが、テメェ一人の証言なんか揉み消せるんだぜ!」
うーん。実に悪役が口にするテンプレートのようなセリフ。
実際にこうして聞かされると、何とも言えない気持ちにさせられる。
手の火をサッカーボールくらいのサイズにまで大きくした魔人族の狩人は、それを俺に向けて野球選手のように大きく上から投げ下ろす投法──オーバースローで放ってきた。
以前戦ったEランクモンスター〈デュラハン〉の攻撃に比べたら、その速度はスローモーションのように遅い。
回避するのは余裕だが、威力は見た感じFランクモンスターの皮膚に火傷を負わす程度しかない。
今の自分が当たっても死にはしないが、そうなるとせっかく身につけたローブが燃えてしまう。
だから冷静に見切った俺は、タイミングを見計らって腰の剣を抜き放つ。
「ハッ!」
特別な力は何も込めていない普通の斬撃。
だが半年もの間、剣一本で戦っていた自身の洗練された剣技はここで真価を発揮する。
レベル200に到達したことで強化されたステータスは、無駄のない抜刀と合わさってエステルが鍛えた刃に強力な一撃を宿す。
放った一撃は、そのまま火球を綺麗に真っ二つにして霧散させた。
その自身が発生させた剣風は凄まじく、目深まで被っていたフードが脱げてしまう程だった。
日の光の下で意図せず自ら晒してしまった素顔に、この場にいる誰もが口を半開きに固まってしまう。
特に目の前にいる四人は、まるでオバケを見るような顔をしてその名を口にした。
「「「「──オマエは、〈スキルゼロ〉ッ!!?」」」」
しまった、バレてしまった。
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