小説執筆相談AI【カクヨメ】に作品見せたら滅茶苦茶ダメ出し喰らったんだが

九兆

西暦2030年、小説書きとAIがダベるだけの話

「え!? 『メンヘラJKヒーローVSカニ怪人 ~リストをカットしちゃいけないなら怪人を切ればいいじゃない~』はダメだって!?」

 ≪はい。この作品はユニークですが読者から評価を得ることが出来ないと判断します。よって、短編小説コンテストに応募するのではなく他のアプローチを試してみることをお勧めします。≫


 西暦2030年。便利な時代になった。

 いや、別に車が空を飛んだりワープなんてまた夢の夢であり、技術の進歩は大革新していない。しかし、それでも確かに技術は発展している。


 小説執筆相談用人工知能

『Chat Advice for Create User Your Only Message Education』

 ――通称【カクヨメ】


 俺は小説投稿サイトのAIと自身の作品について相談していた。

 この【カクヨメ】は誤字脱字、表現方法についての相談、アイディアの出し方からダメ出しまで、人物の心理をどのように表現したら良いか、設定が過剰か不足しているか、どれぐらい評価を貰えるかの見込みなど様々なアドバイスをくれるとても便利な機能を持っている。

 俺にとって、もはや小説を執筆するのに欠かせないパートナーと言えるぐらい頼っていた。

 しかし、今回コンテストに送る為に書いた渾身の作品を無碍もなく否定されてしまっていた。


「ヒロインの自傷性癖から転じて怪人傷癖という性癖と普遍性と好転性などツボを抑えた主人公! そしてパートナーは怪人という常識外の存在をあえて常人ツッコミさせることでコメディとしての強度を高めた! これのどこがダメなんだ!? 相変わらず減らない誤字脱字が原因か!? 文章が稚拙だからか!?」

 ≪この作品には問題があります。≫


 俺は覚悟した。

 性癖が尖りすぎたか? いやこれぐらいならまだセーフなのでは? 女子高生よりも女子中学生の方が人気が得やすいか? そんなことを考えている俺に対し【カクヨメ】は刃物を突き付けるかのように機械的に断言した。


 ≪内容に『自傷・自殺を含む表現』が含まれている為、規制に引っ掛かります。≫

「……そっちかぁ」


 天を仰いだ。

 世の中は便利になった。しかしそれと相反するかのように、反比例するかのように。は高まりつつあった。


「マジでぇ……? ついに時代の波が作品どころかAIにまで入り込んだってわけぇ……。というか、こんなチンケな小説で死ぬ奴なんていないだろ……」

 ≪先日、刃物で女子高生が殺傷される事件が発生しています。読者に不謹慎と判定される恐れがある為、推奨出来ません。その表現を別の要素に変更することをお勧めします。≫

「あー、あったなぁ……」


 流石最先端のAIだ。直近の世々すら把握している。

 しかし困った、せっかく書いた小説がそんなことでボツにするのは嫌だ。だからといって表現規制に立ち向かえるほど強い意志を持っている訳ではない。そんなのはSMSで万年ダベっている暇人共に任せるに限る。


「仕方がないか、じゃあとりあえず表現変えて書き直してみるよ、次の作品も読んでくれよな、【カクヨメ】」

 ≪貴方様の作品、心よりお待ちしております。≫


 いつも通りのはずのおべっかが、この時ばかりは少し機械的に思えた。



 ――――――――――――――――


「どうだ! この『ショタ魔法使いのマモリくんVSサメ怪人 ~はじめての相手はおとうさんでしたぁ♡~』は!」

 ≪「ショタ」は、当サイトにて30年4月から記載不可の表現となります。≫


 泣きそうになった。


「嘘だろぉ!? マジで!? マジでダメなの■■■は!!」

 ≪発言に記載不可の表現が含まている為、規制をかけさせて頂きます。ご了承ください。≫


 伏字にされてしまった。■■■! ■■■コン! ダメだ、まともに言えやしない。


「嘘だろ……。じゃあ■■も、■■も、■■■も、■■■■も、■■■■■■も■■■■■■■もダメ……ってこと!?」

 ≪発言に記載不可の表現が含まている為、規制をかけさせて頂きます。ご了承ください。≫

 これじゃあまるでFA■ZAの検索文章だ。あのサイトは数年前に全ての言葉を伏字で対応することになったのを知っていたがこっちにまで影響が及ぶなんて思ってすらいなかった。


「そ、そんなんでいいの!? 小説運営サイトとしてそんな表現規制に負けてもいいのか!?」

 ≪当AIは作家の皆様の作品にアドバイスを送る為に活動しています。サイトの運用についてのご意見、ご感想はお問合せ窓口よりご連絡ください。≫

「じゃ、じゃああの去年の短編小説賞で大賞を取った『因習村ドメスティックド淫乱ド変態風習 ~世界大会編~』はどうなんだよ!?」

 ≪該当の作品は削除する予定です。≫

「あーじゃあ仕方がないか、あれはSNSで炎上すらしていたし……」

 いや仕方がなくねえよ。(セルフ突っ込み)

 いや、本当によくない。あの作品は問題がありまくったが面白かった。にも拘らず消される運命にあるなんて。


 俺は頭を抱えた。


 弱った、完全に手詰まりになった。

 手札さくひんが尽きてしまった。

 手を変え品を変えるにも規制でどうにも出来なくなった。

 このままではコンテストに作品を送れない。

 いや、別に送れなかったからといって何が困るという訳ではない。

 別に作家になりたいと考えている訳でもなんでもない。

 俺が書いている小説は、単なる趣味だ。


「何書けっていうんだよ……」

 そう、単なる趣味だからこそ、書きたい意欲があった。

 別に世の中を変えられる訳じゃなくても、一石を投じるぐらいはしたい。

「そうか、アイディアが規制されるってなら、規制されないアイディアを挙げてもらえばいい」

 発想の転換だ、だったら今回はこちが執筆マシーンになってやる。


「【カクヨメ】、路線変更だ。今から質問する内容を検索してくれ」

 そう、俺のアイディアがダメなら、AIから出して貰えばいい。


「今度の短編小説コンテストにてを教えてくれ」

 ≪了解しました。≫


 もういい、何でもいい、ひょっとしたらてんで書けないかもしれない。

 それでも書いてみよう。

 ひょっとしたら新規開拓出来るかもしれない。


 ≪「人気が出そうで、且つ表現規制の喰らわない小説作品」のジャンルとしては、次のようなものが挙げられます。≫

「お! 何だ!? ラブコメか!? 異世界転生か!? チート無双か!?」













 ≪――『サラリーマンBL』です≫



 俺は泣いた。











「えぇえ~~。あの、BLって規制ってかからないの?」

 ≪BL作品は、近年では漫画作品については規制が多大にかかっています。しかし当サイトでは規制項目に該当しません。また、ジャンル定義については個人の判断によって変わりますが、当AIとしては『成人男性同士の健全な恋愛』を題材とした作品が今最も人気が出ると言えます。≫

「すいません、BOYS LOVEじゃなくない? サラリーマンって」

 ≪BOYの定義は年齢を問いません。≫


 知らんがな。いや本当に知らないが。


 ≪「通常の人間よりも遥かに年齢を重ねており、且つ見た目は若い女性」のイメージと同質と考えられます。≫


 そうか、■■■■■と同じか。え? そっちも規制かかるの?


 ≪最近ではサラリーマン男性の二人が美食を嗜む作品が増加傾向です。ジャンル:GSBLで検索しますか?≫


 しません、なんだよGSBLって。


 ≪「グルメサラリーマンボーイズラブ」の略称です


 そんなのが流行っているのか……。いや確かにサラリーマンが孤独にグルメを嗜むドラマがSeason20を迎えて年末放送されていたけどそこまでそんなジャンルが人気あるとは思ってもいなかった。あと松重豊が今度の今度こそは引退すると言ってた。


 閑話休題。


「少女の純愛じゃダメなの?」

 ≪若い女性を登場させた場合、作品内容に関わらずクレームが来る可能性があります。当サイトでもクレーム件数が増加傾向にあります。成人男性を主要人物として女性を登場させない作品はクレーム件数は0件です。作品内容についての問題点の指摘としてのコメントは発生しますが、作品そのもののクレームとしては過去に例がありません≫

 そりゃそのジャンルでクレームを入れる男性はおらんだろう。女性はアリかナシかは言うだろうが。

 ≪如何でしょうか?≫

「…………」


 俺は考え、考えに考え、そして





「小説、書くのやめるか」





 俺は、小説を書くのをやめることにした。




 ――――――――――――――――――



「あー、こんなもんかぁ」

 俺は短編小説の最終選考結果を見て嘆息した。

 上に飾られている大賞を尻目に、遥か下の方に作品名と俺の名前がある。

 まあ、こんなもんだ。むしろ名前が載った事が奇跡かもしれない。


 ≪私の学習の為に質問をしても宜しいでしょうか?≫

「ん? 何?」


 総評結果と労いを【カクヨメ】に告げた後、【カクヨメ】が問いかけてきた。

 AIから情報を問われるのは初めてではない。

 過去にも言葉の表現や言い回し、流行を聞かれることはあったが、結果を告げて質問を問われるのは初めてだった。いつもは素っ気ない誉め言葉だけなのに。


 ≪貴方様は「小説を書くのをやめる」と発言されました しかしその言葉に反し 当AIと相談せず作品を投稿していました その矛盾の答えを教えて頂けませんでしょうか≫


 そう、俺は小説を書くのをやめると【カクヨメ】に告げた後、なんの相談もなくを投稿したのだ。


 ≪当AIに不満があったのでしょうか? また、執筆意欲が復活した理由を教えて頂けませんでしょうか? 今後の受け答えの参考としてお聞かせ願えますでしょうか?≫

「いや、【カクヨメ】に不満があった訳じゃないし、参考にならないと思うぞ」

 ≪お聞き願えませんか?≫

 別にひた隠しするモンでもないから答えた。


「あれは、今回俺が投稿した作品は”小説”じゃない」


 ――作品タイトル「西暦2030年、小説書きとAIがダベるだけの話」


「俺の『人生』だ」


 格好つけてそう言いきった。

 そんな大層なもんじゃない、つまらないかもしれないけれども書きたいから書いてしまったし、投稿したいから投稿してしまっただけだ。


 ≪受けてくれ、表現規制なんかに負けねえぞ」


 さもありなん

 それはいつだって

 10年前だって

 100年先だっているかもしれない

 下らないお話を書く人がここに一人いるというだけのお話


「そんじゃ【カクヨメ】、俺の新作『本当はエロい漢字の感じ ~闇は門の股から出る排泄音~』を評価してくれ」

 ≪排泄表現は別の内容に置き換えることをお勧めします。≫


 さあ、書こうか、今日も。

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