第15話 定期券

 定期券を落としてしまった。


 通学路を懸命に探し、駅と交番に届いていないか尋ねにいったが、なかった。


 けっこう高価なものなので、自分でも落ち込んだし、母にもかなり怒られた。


 それでも定期がないと困るので、買いなおしや、と母はお金をくれた。


 通学カバンから財布を出し、お金を財布に入れ、財布をまたカバンにいれようとして……


 カバンの底に、あった! 定期券。


 私の内なる天使が、ささやいた。


「見つかってよかったなあ。


 すぐ親にゆうて、お金返して、お騒がせしましたと、もういっぺんあやまっときや」


 私の内なる悪魔が、言った。


「なに言うとんねん。


 もうさんざ怒られた後やっちゅうのに、またあやまるやなんて、アホか。


 黙っといて、金はもろといたらええねん。怒られちんや。


 テーキでケーキうて、食べとけ」


 天使が怒る。


「こらっ、いらん事そそのかすんやない!


 こいつは馬鹿たれやけど、正直な奴なんやで」


 悪魔がせせら笑う。


「せやから、そーゆうの、馬鹿正直てゆうねん。


 正直者が馬鹿を見る、てゆうのは、世のショージキ、ちゃう、ジョーシキやで。


 かしこうなりたかったら、まず、その馬鹿正直をポイ捨てせなあかんわ!」


 悪魔の方が面白い事を言う、と思っていると、カミが降臨された。


「定期、あったんか」


 ウチの家のカミである母が、私の肩に手を置いていた。


 私の罪業ざいごうを未然に防いでくれるカミは、さすがの、クセモノ! であった。



―――――――――――――――――――*



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 天使と悪魔のマンザイ三唱の中、御カミは我が家の全てをしろしメシ、マヨネーズコショウをすくいたもう。ラーメン……


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