第10話 伝統

 私は、私学の女子高校に通っていた。


 その女子高校には、寮もあった。


 寮に入っている子たちは、寮の先輩から日常的に、学校の色々な情報を仕入れていて、良いことも悪いこともたくさん知っているようだった。


 ある日教室に入ると、寮に入っている子たちが教卓の周りに集まっている。


 教卓の引き出しを開けて、みんなで何かしているようだ。


 私は、隣の席の友人に尋ねた。


「あの子ら、何してるん?」


「古典のFが気に食わんから、らしめるらしいで」


 と、友人。

 

 確かに古典のF先生は、答えを間違えると、バカにしたような皮肉を言う所があった


らしめるて、どうやって?」


 と、私。


「さあ、知らんけど、この学校の伝統の技がある、ていう話や」


 と、友人。


 やがて鐘が鳴って、背広で黒縁メガネの古典のF先生が入ってきた。


 いつもの挨拶のあと、F先生は、黒板の溝にチョークが一本もないことに気づいた。


 先生はチョークを求めて、教卓の引き出しを開けた。


 ぶわっ!! 


 大量のパンティストッキングが爆発するようにふくれ上がり、教卓の引き出しを覗き込もうとしていたF先生を、直撃した。


 さっき寮の子らが、力を合わせてぎゅうぎゅうに詰め込んでおいたものだ。


 後できいたがこれは、パンスト爆弾、という伝統の技らしい。


 メガネのつるにひっかかって、垂れ下がったパンストを外しながら、クスクス笑う私たちを睨んで先生は言った。


「こんな古臭ふるくさいいたずらを、まだやっとるとは思わんかったな」


 すると隣の友人が、


「古典に古臭ふるくさいて言われるとは、伝統も思わんよ」


 と、つぶやき、私は必死で大笑いをこらえた。


 その学期の古典のテストが、異様に難しかったことは言うまでもない。


 古典も伝統も、どっちもどっちの、クセモノ! であった。

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