おかしなてがみ

 高瀬隼人たかせはやとは小学六年生にもなって、まだサンタクロースを信じていた。

 クラスメイトは

「そんなのいるわけないじゃん」

「サンタクロースは親なんだよ、知ってた?」

「俺、親が夜中プレゼント置きに来るの見たから」

 と言うのに、一人

「サンタクロースは本当にいる!」

 と言い張る異端な存在なのだった。




「ふぅ」

 隼人はバラエティー番組が終わって、目をこすり、天然パーマの頭を掻きながら二階の寝室へ向かおうとした。

 十二月二十二日、あと二日——。

 そんな思いを胸にとどめ、階段を上がっていく。

「おやすみ、隼人」

「おやすみ……パパ……」

 父のはじめにボーっとした挨拶をし、布団へ入った。

 テレビを見た後だからか、眠いのに目がショボショボしてる。しばらく眠れなさそうな気がした。

「あっ」

 ふと思い出し、隼人は布団を出て眼鏡を机に置いた。しもやけができている足が冷たくて、アワアワと布団へバッと飛び込む。


「……良い物彫れたよ……兄ちゃん、これあげる……」

 少し考え事をしていると、急に隣から声がした。

「おい! なんだよ、急に」

「……ケンタウロス、兄ちゃん……ゲームで好きでしょ……」

 何とも嬉しそうな顔をした二歳下、四年の弟、善人ぜんとが呟いている。

 彼は自分とは正反対で、控えめな性格だ。おとなしいせいか、ほとんどの子供が持っていない趣味を持っている。それは、彫刻だ。これがまた並外れて上手い。

 今日もその夢を見ているのだろう。

 ――そういえば、善人のプレゼント彫刻刀だったな……。

 どうでもいいことを回想しながら、再びまぶたを下ろした。




 三十分くらい経っただろうか。

 眠れない隼人はふとトイレに行きたくなった。この家は残念なことに、二階にトイレが無い。そのため、一階に降りなければならない。

「……開拓パラダイスとかどうだ? クリエイト系好きだろ、隼人」

「確かにね。でもバトル系も好きだから、ヒューマンハンティングナインとかどう?」

「良いじゃないか。十個まであと一個だぞ」

 ヒソヒソと話す天然パーマの保険会社勤めの父と茶髪の専業主婦の母、真由まゆ

 少しリビングを覗いてみると、パソコンをしている母と父がいた。何のサイトかまでは見えなかったが、“ある物”の写真が大きく見えた。

「……おい、ウソ、だろ」

 トイレに行くのも忘れて、天然パーマを掻き回した。その勢いのまま、一目散に階段を上って行った。




「兄ちゃん、ね、兄ちゃん、早く起きてよ。もう九時過ぎてるよ。兄ちゃん、朝ごはんないよ、兄ちゃん?」

 何かの悪夢を見ていた気がした。

 と、誰かにゆさゆさと十分くらい揺さぶられている。

「んだよ……」

 重いまぶたを開けると、茶髪の天然パーマの男がいた。

「やっと起きた。ほい、早く朝ごはん食べて。お母さんキレてる」

 善人は心配そうな顔をして手を引き、隼人を立たせようとする。

「……悪い、しばらく寝かせてくれ」

「いや、ダメだね」

「善人ー、隼人起きたー?」

 母の声が聞こえる。

「起きたには起きたけど、まだ寝たいって言ってる」

「はぁっ?」

 あぁ、これはヤバい。雷が落ちている。

 隼人はフラフラしながら、ゆっくり、ゆっくりと階段を降りて行った。

 ――まさか、自分の親がサンタなのかって、死んでも口にできない。




 その日は、特にやることもなくこたつで居眠りをしていた。

 そのまま眠りに着こうと思っていた時、母が揺さぶりをかけてきた。

「おい、隼人。手紙が来てる」

「手紙?」

「そう」

 サンタの正体かもしれない女が封筒を渡してくる。

 確かに、高瀬隼人様と書いてある。送り主の名前は“フィンランドの老人”で切手は貼っていない。いかにも怪しい茶封筒を隼人は見つめていた。

 取り合えず、開封してみるとこう書かれた手紙があった。


「サンタを信じないやつには物は来ない」




 夜ご飯を食べて、睡眠をとることにしよう。

「おやすみ」

「あぁ」

「そういや、あの手紙結局なんだったんだろ。ママのイタズラ?」

「え? まさかそんなわけないじゃん。一応取っておいたけど……」

「サンタさんが送ってきたのか。まあ、信じてるからいいけど」

 そう言いながら、母は少し目が揺れていた。




 今日は早く眠れた。

 だが、夜が深くなった時間に、何やら体を揺さぶられていた気がした。今日の朝のように。

 サッと起きると、目の前に善人がいた。何かに怯えているような顔だ。

「何だよ、こんな夜に」

「しっ」

 善人は鼻の前に人指し指を立てた。


 シャンシャンシャンシャン……。


「聞こえない? 鈴の音」

「え、でもサンタの正体は親だった……」

「え? そうなの? 兄ちゃん信じてたのに」

 鈴の音を無視して、弟は訊ねてきた。訝しげに目を細めている。

「いや、ええっと」

「話してよ」

 あまりない強い口調で迫られた。

 ――仕方ない、ここまで怪しがられたら。話すしかないか……?

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