ビギンズナイト㉛
「ん? 何か用事ですか、ルリア。
こんな夜更けにそんな恰好で」
問い掛けに答えず、無言のまま俺の顔を覗き込んでくるルリア。
何気ないその動作にドキリとさせられる。
無理もあるまい。
いつも羽織っている野暮ったい群青のローブでない。
今にも下着が透けて見えそうな薄絹のネグリジェ姿。
ノービスDTには刺激が強い光景だ。
さらに亜麻色に輝くボブショートから垣間見える漆黒の双眸。
鮮やかな隆線を描く整った鼻梁。
薄紅色に染まった柔らかそうな唇。
妖精のように可愛らしい外見と相まって凄まじい吸引力を発している。
俺は呪縛されたようにその場に縫い止められた。
まるで神話に出て来る三姉妹の魅了みたいに。
石像のように硬直し、ただルリアを瞳に宿す。
彼女の瞳が何やら惑いに揺れているのは気のせいなのか?
そんな俺を他所に、ルリアは大きく深呼吸をすると……その勢いのまま抱き着いてくる。
突然の事態に俺は反応せずさらに固まってしまう。
どれほどの時間が過ぎたのだろう?
ルリアが困惑する様に尋ねて来る。
「……襲わないのですか?」
「ふあいっ!?」
「男の人はこうしたら理性が飛ぶと聞いたのですけど……」
「そ、それはそうでしょうが……
理由もなく襲い掛かる事はしませんよ」
「そうなのですか?」
「ええ」
「う~ん……おかしいのです。
シミュレーションなら上手くいったのに」
「シミュレーション?」
「はい。
マイカとミコの話では男の人はケダモノ。
エッチな格好で抱き着けば後は向こうが手を出してくる、って」
「あの二人は何を……
くくく、これはお仕置きが必要ですね」
「こ、怖いのです。
怒ってるのですか?」
「いやいや?
全然怒ってなんかいませんよ?
ただ無知なルリアにこういう事を吹き込んだのが感心出来ないだけで。
機会があれば稽古で可愛がるだけですよ……ふふふ」
「やっぱり怒っているのです。
……ルリアに抱き着かれるのは不快ですか?」
「え!?
いや、そんな事はないですよ!」
「それなら良かったのです」
「マジでドキドキしましたし。
ただ悪戯というか、からかうにしてはタチが悪いな~と」
「悪戯じゃないのです」
「うえ?」
「あの二人も悪くないのです。
ただ相談に乗ってくれてアドバイスをくれただけなのです」
「相談?」
「はい。
以前からルリアは自分の想いに気付いていました。
貴方に惹かれていく不思議な気持ちに。
ただカタチにはしたくなかったのです。
言ったら……何もかも無くなってしまいそうで。
このままでもいいと思っていましたし。
マイカがいて、ミコがいて……何より皆を支えてくれる貴方がいる。
でも……今日の戦いを経て思ったのです。
貴方に知られずに……
貴方を知らずに死ぬのは嫌だ、と」
距離を詰め最早密着状態のルリアが切なげに見上げてくる。
それだけで触れたら壊れてしまいそうな儚げさが漂う。
「そ、それはどういう……」
「もう!
鈍い……鈍過ぎるのです!
ルリアは……
貴方が好きなのです。
この気持ちを分かってほしいのです!
受け入れてほしいのです!」
涙をポロポロ零しながら叫ぶルリア。
大人しい彼女にこんな激情家な一面があったとは。
子供のように駄々をこねる彼女。
普通なら恋も冷めよう。
だが俺は逆に可愛いな、と思った。
弱みを見せない孤高な彼女が俺にだけ心を開いてくれている。
それが何よりも嬉しい。
「それで……返事はどうなのですか?」
だから恐る恐る発せられた彼女の問い掛けに行動で応える。
可憐な細面を両手で挟み込み、ゆっくり唇を重ねる。
ルリアは驚いたように目を見開くも、歓喜に頬を染め熱く抱き返してくる。
「今はこれが精一杯」
「バカ……」
むくれたようにほっぺを膨らますルリア。
だって恋愛経験0ですよ?
これ以上どうしろと?
無言のまま手を引かれベッドへ導かれる俺。
荒々しく突き飛ばされるとベッドに倒れ込む。
その様子を見届けるとルリアは深呼吸を一つ。
そして意を決したかと思うとネグリジェに手を掛け服を脱ぎ始める。
窓から射し込む月光に浮かび上がる肢体。
少女期特有の神秘性の象徴。
俺は息をするのも忘れて見惚れてしまう。
アホみたいに呆ける俺。
ルリアはそんな俺へ蠱惑的にクスリと微笑みを浮かべる。
「じゃあそんな困っちゃった年下さんの為に……
おねーさんなルリアが一肌脱ぐのです。
他の人など視界に入らないよう……
互いの絆を身体に深く刻み込んでしまうのです」
普段とは懸け離れた魔性の貌。
しかしそれも強がりなのだろう。
不慣れながら一生懸命尽くそうとするルリア。
だから俺はその手を止め、ぎこちなく身体を重ねていく。
驚きながらも嬉しそうにしてたので間違いじゃなかった筈だ。
純潔を散らす苦痛に耐えながらも、結ばれた歓びに震えるルリア。
乱れた髪が宙を舞い、涙を零す彼女を凄く愛おしいと思った。
荒々しくも互いの心が満ち足りていく充足の一刻。
……この日、俺は男になった。
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