ビギンズナイト⑱


「ん……おはようなのです」


 味噌汁を飲んだ後――

 何やらご機嫌なマイカさんは、からかい交じりに部屋を出て行った。

 入れ替わる様に起きてきたのはルリアだ。

 艶のある黒髪ボブショートに寝癖がついている。

 ? みたいな形の寝癖はまるでアニメキャラのアホ毛みたいだ。

 本人も気にしてるのか手櫛で直しながら近付いてくると、今度は興味深そうに俺の手元を覗いてくる。

 男が料理をするのが珍しいのかな?

 ちなみにルリアとミコは俺より年上だが、本人達の強い希望もあり呼び捨てにさせてもらってる。

 俺は味噌汁以外にも出来上がった品々を小鉢によそう。


「ああ。おはようございます、ルリア。

 そろそろ朝ごはんが出来ますけど……食べます?」

「それは嬉しいのです♪

 男性の手料理を頂く機会はなかったので……

 是非とも食べてみたいのです」

「あらま。そうなんですか?」

「はい――

 先日話した通りルリア達は寄宿舎育ちなのです。

 寮の食事はマズくはないけど、栄養バランス重視で……

 少し味気ないのが難点なのです。

 よく学校帰りに外へと買い食いに行ったのは良い思い出です」

「あはは、食べ盛りにバランス重視はないですね。

 俺の家も道場をやってるせいか精進料理ばっかりですよ。

 やっぱり体に悪くてもジャンクなものを食べたくなりますよね。

 トッピングしたピザとか、こってりラーメンとかB級グルメチックなものを」

「同感なのです!

 やっぱり貴方とは趣味が合いそう……

 同志が増えてルリアは嬉しいのです☆

 こういうのはマイカも……って、あれ??」

「? どうかしましたか?」

「マイカの姿が見えないのですけど……」

「ああ、マイカさんなら一足先に味噌汁だけ飲んで、まずは目覚めのシャワーを浴びてくる~って出て行きましたよ」

「マイカが?

 ルリア達を置いて出て行ったのですか……?

 随分と――信用されたのですね」

「――え?」


 急に、雰囲気が変わった気がした。

 妖精のように可愛らしい外見はそのまま。

 人間性(なかみ)だけが変容したような。


「――何が目的なのです?」

「も、目的?」

「――はい。

 ルリア達のカラダ、ですか?

 それともお金ですか?」

「そ、そんなこと思ってませんよ。

 マイカさんにも散々からかわれましたけど……DTなので」

「ぐっ。

 反論し辛い証拠を提示するのですね。

 なら……どうしてそんなに一生懸命なのです?」

「それは……」

「それは?」

「皆さんに助けてもらった命、だからかな?

 少しでも恩義を返したくて……」

「――本当に?」

「本当、ですよ?」

「それはルリア達だから、ですよね?

 親切にされたから誰でもいい訳じゃないですよね?」

「当たり前です!」

「ん……安心しました」

「――どうしたんです、急に?」

「やっぱり……不安なのですよ」

「不安?」

「女性ばかりのパーティなので……

 何か下心があるんじゃないのかな~とか色々」

「なるほど、そういう」

「でも――納得しました。

 随分と意地悪しちゃったですけど――

 貴方はルリアが見込んだそのままの人なのです。

 これからも仲良くしてほしいのです」

「ああ、勿論」

「ただ……」


 小悪魔の様に眼を細めたルリアが胸元に飛び込んで来る。

 完全に不意打ちで俺は反応も出来ず固まってしまった。


「他の女の匂いがするのです……」

「え? え??」

「誰にでも優しいと……やっぱり不安になるのです。

 そこだけは覚えていて下さいね?」

「は、はい!」

「約束ですよ……?

 ルリアの【見た】の、知ってるんだから」


 あどけない幼女の様に無邪気に微笑むと……

 ルリアは可憐にスカートを翻し部屋を出て行く。

 マイカさんの後を追い寝癖を直しがてらシャワーを浴びにでも行ったのだろう。

 残された俺は胸の高揚(ドキドキ)と病んだ退廃的雰囲気(ドキドキ)に一人台所に立ち尽くすのだった。

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る