第86話 再臨リトライ
俺が業魔にとっての勇者?
奴等の神になり得る存在だと……?
アリシアに告げられた事実に理解が追い付かない。
ただ収穫というか嬉しい誤算、朗報もあった。
俺を切っ掛けとして唯一職が増える。
それは他ならぬ人類サイドの戦力増強に繋がる。
ならば答えはシンプルだ。
「――分かった。
色々話してくれてありがとう、アリシア」
「決心はつきましたか?」
「ああ。
破滅は避けられないといったな?」
「ええ、確実に」
「それでも俺はダンジョンを制覇し続ける。
先に逝ったあいつらに報いる為にも。
探索で散った先人達の想いを遂げる為にも。
残された時間でどこまでやれるか正直分からない。
だけど、自分に出来る事を懸命に……
何より頼りになる仲間の手を借りてこれからも戦い続ける」
俺はコノハとミズキを見る。
ふたりとも力強く頷き返してくれた。
そう、俺一人に出来る事なんてたかが知れている。
けどふたりの――皆の力を借りればどうにかなるんじゃないか?
楽観的な思考は危険だ。
危険性を怠った短慮はリスクを増大させアクシデントを招く。
探索者たるもの常に最悪を想定して動くぐらいで丁度良い。
しかしだからといって悲観的な思考に囚われのも問題だろう。
動かなければ何も始まらないのだから。
憑き物が落ちたような俺の顔を見てアリシアもホッと胸を撫で下ろす。
「良かった……
こちら側(人)に留まってくれるんですね、狭間君」
「当たり前じゃないか。
何を言ってるんだ?」
「そうはいいますが……
我々オーバーロードの間でも半信半疑なものが多かったのですよ?
衝撃の事実を知った狭間君が善悪、人と業魔どちらの天秤に揺れるかは不明。
わたしは最後まで反対しましたが、ならばいっそのこと始末――
殺す訳じゃないですよ?
記憶封印し、我々の世界に幽閉してしまえなんて過激な意見も出ましたし」
「なんだ、そりゃ。
俺は危険な猛獣か何かか?」
「どちらかというと火薬庫ですね。
今回わたしが行ったのは煙草を吸いながら雑談をしたようなもの。
引火、大爆発しなくて良かったです」
苦笑するアリシアだが疲労の翳が濃い。
俺の与り知らぬ所でこの地区担当のアリシアには迷惑をかけていたのだろう。
「さて、狭間君の問題が片付いたなら……
あとはおふたりの問題ですね」
「え?」
「ふえ?」
「フフ……言わなくとも分かりますよ?
彼の力に共鳴するように倉敷さんと咲夜さんのオーマが充実してるのは。
随分愛されてますね、狭間君。
いったいどちらが本命なんです?」
「なっ!」
「ふあっ!」
「悪趣味な真似はするなよ、アリシア。
人の心は繊細なんだぞ?
っていうか、恋愛相談を受けすぎて恋愛脳になってないか?」
「失礼な。人をポンコツみたいに。
ああ……そういえばあなた方はまだ心話でのコミュニケーションを図ってはいないレベルでしたね。
心話……いわゆる内面を共有し分かり合える力は不和がない安らぎに満ちた関係を構築出来るのですが……業魔に付け込まれやすいので、下位種族の方は上位種族によって強制的にシャットダウンされてるんです。
我々の様な中位種族、先導者になれば解禁されますよ?
是非お勧めです」
「アリシアより上位か……まるで神様気取りだな」
「こらこら。
慈悲深い、とおっしゃいなさい。
彼等が莫大な力を割いてあなた方人類の心を護らなければ、あなた方は全員業魔の下僕ですよ?
ダンジョンに出てくる業魔の先兵として、他の惑星で使役されるようになりたいのですか?」
「そうなのか……?
じゃあ俺達が今まで戦ってきたのは……」
「元は他天体の生物であったもの達の末路です。
しかし同情はいりませんよ?
奴等に魔核を植え付けられた段階で、既にそれは元の尊厳も何もかも喪います。
あるのはただ我々人型生命体に対する苛烈な憎しみのみ。
哀しい事ですが斃す事でしかその魂を救えません」
「斃す事が救いになるのか?」
「我々の加護を得た探索者の手によってなら、ね。
斃された生物の魂は円環の理に導かれます。
彼らの故郷の生態系に再び組み込まれるはずです」
「そうか……なら少しは気が紛れるな」
「優しいですね、狭間君は。
……ってほらほら。
君が混ぜ返すから話が進みませんよ。
さあ、ふたりとも手を出して下さい」
「まさか、アリシア……」
「ええ、クラスチェンジです。
ふたりの魂の錬成を経て、唯一職へと昇華させます」
「馬鹿な!
先日踏破者になったミズキはともかくコノハは勇者だ。
クラスチェンジなんて出来る訳が……」
「それはおかしいぞ、ショウ」
「ミズキ?」
「固定観念に縛られちゃいけないと私に教えてくれたのはお前だろう?」
「同感だよ、ショウちゃん」
「コノハ……」
「ボクは勇者でしょ?
勇気をもって人々を導く者なんだよ?
ならば殻を破って当然。
もっともっと強くなれる筈だよ」
「お前達は……(溜息)
まったく心配する俺が過保護みたいじゃないか・
危険性はないんだな、アリシア?」
「ある訳ないじゃないですか。
心配ならその瞳で先読みしても構いませんよ?」
「神魔眼の事までお見通しか……
ならば分かった、ふたりを頼む」
「ええ、畏まりました。
さあ、ふたりとも眼を閉じて。
そして思い浮かべて下さい。
強きオーマを纏いし自分の未来の姿を」
いつになく厳かに囁かれるアリシアの声。
祈りを捧げるふたりへゆっくり伸ばされるアリシアの手。
俺はその行く末を固唾を飲んで見守るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます