第74話 祝杯レゾネイト


 集合時間に遅れず来た二人。

 顔色が赤いのは夕日のせいばかりじゃない。

 頬まで染まっているのを見るに……寒いのだろうか?

 体調管理は探索者の仕事とはいえ心配だ。

 特に女性は月のお客さんもある。

 それとなく容態を尋ね、場合によっては明日の探索を休むなどの気遣いをした方が良いだろう。

 やたら多い二人の荷物を代わりに持ってトランクに押し込みながら思う。

 忘れ物がないか確認後、ミズキに運転を頼む。

 幾分かの寿命と引き換えに(割に合わない等価交換だ)目的地であるハウスに到着する。

 4LDKの間取りを持つ、かなりゆとりのある家だ。

 俺の趣味で樹のぬくもりが感じられるログハウスにしてもらった。

 無機質なコンクリよりこういった素材造りの方が仮宿とはいえ嬉しい。

 サンタが出入り出来そうな大きな煙突が屋根から飛び出ていることからも分かる通り、リビングに暖炉が備え付けてあるのもポイントが高い。

 暖かい火に当たりながら薪がはぜる音を聞きボーっとする。

 探索でささくれ疲れた心を癒すのには最適だろう。

 備え付けの駐車場に車を止め、トランク4つ分の荷物を取り出しながら、事前に告知されていた番号を玄関の認証キーへと打ち込む。

 かちゃり、と開錠される音が夕闇に響く。


「わあ~凄いね、これ!」


 中に入るなりコノハの歓声が上がる。

 玄関からすぐの集合ロビー、そこにはパーティカラーに彩られ中央には贅を凝らしたメニューが据えられている。

 定番のチキンやピザ、フライドポテトなど庶民的なものは勿論のこと、高級牛のカットステーキや北京ダックはてはフォアグラからキャビアを使った寿司まで。

 多国籍でカオスな内容だが、これだけあれば好きなものがどれかは当たるだろうといった配慮らしい。

 中央テーブルにはシャンメリーを含む各種飲料の他、どでかいケーキが鎮座している。

 ケーキの中央には『探索無事終了お疲れ様』の文字が描かれたチョコプレートが乗せてあった。

 これこそハウスレンタルオプションの一つ、パーティセットである。

 1回10万とかなり高めだが内容を鑑みればむしろ破格だ。

 祝い事がある時、あるいは羽目を外したい時はこれを頼み酒場の個室を借りて打ち上げをするのが探索者の習わしだ。

 今回はタガジョウダンジョン初探索成功記念、及びホーム結成を祝いハウス賃貸時に依頼してみた。

 ミズキは経験があるらしくあまり驚いてはいないようだが、初参加となるコノハはテンション上がりまくりの様だ。

 余裕を以って入居したお陰か清掃も行き届いており暖炉に火も入って暖かい。

 ただこの分だとケーキが長持ちしないので早めに開始することにしよう。

 上機嫌な二人に声を掛け部屋割りを行う。

 俺が一部屋だけある1階、二人は2階の寝室になった。

 空き部屋が一つ出来たが、これは賃貸物件が標準的なパーティ構成人数に合わせたものなので仕方ない。

 その内埋まる事もあるだろうし余裕があるのは良い事だ。

 荷物を適当に置いた俺達はロビーに集う。

 好みの飲み物をグラスに注ぎ各々が持って掲げる。

 さあ、準備は整った。


「じゃあ……

 俺達ソレイユの初探索成功とホーム結成を祝して――乾杯!」

「「乾杯!」」


 甲高い音を奏で触れあうグラスとグラス。

 昨日に続き連続だしアルコールはないが……宴が始まった。





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