第51話 愉悦ドライブ


「遅いぞ、ショウ」

「早く早く~置いてっちゃうよ~」


 治療院の玄関前ロータリーで騒ぐミズキとコノハ。

 タイプは違えど、タレント級美少女が二人もいると流石に目立つ。

 周囲の人々も何事かと野次馬し始めてるし。

 俺は会計を手早く済ませると足早に二人に駆け寄る。


「騒ぎ過ぎだぞ、二人とも。

 ここをどこだと思ってるんだ」

「うっ……すまん」

「ごめん……少しうるさかったね。

 でも――ちょっとは大目に見て?

 ショウちゃんが無事退院出来たのが凄く嬉しいんだからさ」

「まあ、それはありがたいけどな。

 それより本当にいいのか、ミズキ。

 俺達のパーティに加入する上――こんなアッシーまでしてくれて」


 二人が騒いでいた背後にはミズキのものとおぼしき赤のスポーツカーがあった。

 車に詳しくないので車名は知らない。

 だが流線型のボディはミズキによく似合っている気がする。

 わざわざこの日の為に購入したのだと見舞いに来たコノハから聞いた。

 その気遣いには本当に頭が下がる。

 話の流れ通り、あの激闘から一週間が過ぎ――

 大した後遺症もなく俺は無事退院する事が出来た。

 今日はそんな俺を自宅まで送ってくれる為、二人はわざわざ治療院まで迎えに来てくれたのだ。

 病み上がりで若干身体が萎えた身としては非常に有難い。

 俺と違い即日退院していた二人は元気いっぱいな筈なのだが……この微妙な雰囲気が気にかかる。

 この1週間で二人は随分仲良くなっていたと思ったのだが。

 現在も俺の荷物をどちらが運ぶかで牽制し合ってるし。

 まあいい。

 二人の善意には悪いが俺は自分の事は自分でやるタイプだ。

 ミズキに断りを入れ、トランクを開けてもらい荷物を入れる。

 助手席に乗り込み、シートベルトを着けながら再度尋ねる。

 コノハも上機嫌で後部座席に座る。

 問い掛けられたミズキは運転席に乗り肩を竦めながらキーを回す。

 周囲に響くエンジン始動の重低音。

 軽くアクセルを吹かしつつミズキが応じる。


「免許を持っているのは私だけだ。

 貴様が気に病む事ではあるまい。

 それに――私こそすまない。

 例の双子は魔力を使い果たした後遺症で最低一月は治療を要するらしい。

 その間だけでもパーティへ加入させてくれると助かる。

 さすがに実戦から一月も遠ざかると全てが衰えるしな」

「ダンジョンマスターを斃したとはいえ、俺達も戦力不足を感じてた。

 新しいタガジョウダンジョンに臨むにあたり戦力増大は急務だ。

 そこに踏破者になったミズキの参入……

 むしろこちらこそ頭を下げて頼みたいくらいだ。

 なあ、コノハ」

「うん、勿論。

 ミズキちゃんみたいな人が前衛に入ってくれたら百人力だよ」

「そ、そうか(〃´∪`〃)ゞ」

「(意外と簡単にデレるのな)」

「(扱いは簡単なのかも)」

「――ん?

 何か言ったか、二人とも」

「いいや、別に」

「うん、気にしないで~♪」

「――そうか?

 ……さて、まずショウの家に向かえばいいんだな?」

「ああ。

 レイカさんの話ではさっそく今日からでも潜ってほしいみたいだが。

 俺達にとってタガジョウダンジョンはまだ未経験のダンジョンだ。

 まず情報収集をしないといけない。

 情報は命だ。

 たとえクラスチェンジしたとはいえ、な。

 それと――なんだか親父が話があるっていうからさ」

「おじさん、珍しく真剣な貌してたよ?」

「マジかぁ……

 そういう時の親父は大抵ろくでもない事を言ってくるしな」

「ショウの父上殿というと――狭間師範だろ?

 警察とかにも出稽古をされてる。

 鬼の様に強いとは噂に聞いているが……」

「鬼の様には余計だ。

 鬼、もしくはそれ以上の化け物だ、アレは」

「ボク達がダンジョンマスター相手に気圧されず済んだのって――

 もしかしておじさんのお陰?」

「ああ――哀しいことにな。

 アレと正面戦闘するよりはよっぽど生きた心地で戦える」

「な、なかなかの豪傑なんだな……

 少し興味が湧いてきたぞ」

「会うとすぐさま幻滅するから心配するな。

 ――じゃあ、よろしく頼むよミズキ。

 安全運転でおねが――」

「――任せろ」


 い、という間もなく――高速で流れていく視界。

 凄まじいGと共にシートへ食い込む身体。


「って、ちょっと待てミズキ!

 お前、いったい何キロ出してると思って――」


 ジェットコースターばりの恐怖の中――

 メーターを見ればギリギリ法的速度内。

 ならばこれは違法ではないのか? いやしかし――

 俺の疑問を感じたのかミズキがこちらへ目線を送ってくる。


「安心しろ、ショウ」

「お、おう。

 そうだよな、いくらミズキでもこれ以上は――」

「真の愉悦はこれからだ」

「ぬああああああああああああああ!

 こ、こいつはハンドルを握らせちゃいけない奴だ!

 おまわりさ~~~~~~~~~~ん! 助けて~~~~~~~~!」


 悲鳴すらもドップラー効果で流れていく中、コノハの――


「ボクだけ体験したんじゃ不公平だからさ……

 ごめんね、ショウちゃん。

 一緒に地獄に堕ちよ?(てへぺろ)」


 という邪悪な小悪魔の囁きが背後で聞こえた。

 もう絶対ミズキの車には乗らないと――

 その日なんとか漏らさずに死守した膀胱と共に俺は固く誓うのだった(涙)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る