第45話 窮地フラッシュバック


「なん……だと。

 自爆呪文が効いていない――のか?」


 僧侶系とはいえ勇者専属雷撃呪文(デイン)系に匹敵する火力だぞ?

 まともにアレを喰らって耐えられる訳が……

 驚き立ち竦む俺達に魔将バァールモスは呆れた様に口を開く。


「――何を驚く?

 確かに大した威力だが……所詮は貧弱な人族の呪文よ。

 我が迷宮に蔓延る下位業魔ならいざ知らず、この程度の力なぞ――

 中位業魔クラスである我には問題にもならんぞ?」


 ――中位クラス!?

 ダンジョンマスターであるこいつは――

 この強さで中位レベルだというのか!?

 今まで苦戦してきた業魔が下位レベルなのも驚くが、魔将クラスで中位というのも驚愕せざるをえない。

 コノハのお陰でクラスチェンジをし、レベルを順当に上げ――

 俺は強くなったと自惚れていた。

 やっと奴等に対抗できる――あいつらの仇を取れる、と。

 しかし――それがいかに浅はかな考えだったを今、思い知らされた。

 奴等業魔の奥の深さはヤバ過ぎる。

 世界結界で弱体化顕現している状態でこれなのである。

 いったい本来なら――どれほどの格差があるのか。

 よく考えてみてば神にも等しい力を以て人類を後援するオーバーロード達と互角に張り合う奴らなのだ。

 戦い方次第で何とか出来ると思っていた先程までの自分を殴りつけてやりたい。

 まあ――愚痴を言っても現状は変わらない。

 今はどうにか活路を見い出すしかないのだが……

 そこまで思い至った時、俺は奇妙な事に気付いた。

 思考加速が掛かるといえ――

 これだけの事を考える間、何故奴は動かない?

 何故――俺達へ止めを刺しにこない?

 ――いや、違う。

 動かないのではなく――動けないのでは?

 はたと思い至った俺は再度賢明値にポイントを注ぎ込む。

 ――結果、判明。

 奴を形作る不可視の魔力が大幅に弱体化している!

 コノハの自爆呪文は効いていなかった訳じゃない。

 おそらく奴は直撃の瞬間、全力で魔力障壁を展開し己を護ったのだ。

 元来業魔は魔力生命体に近い存在。

 いうなれば存在そのものが魔力で構成されているようなものだ。

 つまり今の奴はやせ我慢しているようなもの。

 絶対的なスペック差は依然としてあるものの、生命力ともいえるその魔力を極限まで使い切っている以上――勝機はある!


「コノハ、奴は弱体化してる!

 このまま畳み込むぞ!」

「うん、了解!

 呪文はあと少し待って!」


 コノハの自爆呪文は連続使用が出来ない。

 その派生を考えれば当然(何せ自爆だ)なのだが。

 したがってクールタイムが若干発生してしまう。

 要はその時間を稼げばいい。

 俺とコノハは最速で奴に肉薄し、斬撃と刺突を叩き込むべく太刀と槍を振るう。

 ――瞬間、戦慄。

 奴が嘲笑うのが見えた。

 事態を悟った俺は自らの失策を知った。

 奴は動けないのではない……動かなかったのだ。

 確かにダメージを喰らい弱体化した。

 それを俺が推察し見抜くのも理解していた。

 だからこそ……罠を仕掛けた。

 自らを囮とすれば、愚かな獲物共がむざむざ犠牲になるべく飛び込んで来る。

 予想通り先程崩壊した天井と足元から飛び出すのは、具現化した無数の魔力棘。

 研磨された刃の様な鋭さを持つ棘は俺達を無慈悲に襲う。

 勇者の特性【絶対主人公補正】により、直撃でなく手足を貫かれながらも遠くへ弾き飛ばされるコノハ。

 手痛いダメージだが、あれなら死ぬことはない。

 そして……クラスチェンジした半業魔とはいえ、凡人の俺にこの無数の棘はどうにも出来ない。

 数瞬後には瞬く間もなく俺の身体を貫き命を奪うだろう。

 残念だが――俺の冒険はここまでのようだ。

 出来るなら今回の探索で得た情報を持ち帰りたかったが……

 逃げたミズキ達がきっと上手くやってくれるに違いない。 

 俺達人類は生き汚いからな。

 覚悟しろよ――業魔。

 コノハを残して逝くことに申し訳なさを感じつつも、これが走馬灯かと俺は妙に安堵した気持ちで迫る棘を見る。

 刹那、違和感。

 揺れる視界。

 地面に伏した俺の見上げた瞳に映ったのは――


「まったく貴様というやつは……

 私がいないと……てんで駄目だな……」


 弾き飛ばした俺の代わりに、全身を棘に刺し貫かれ血飛沫を上げる……どこまでも美しく透明なミズキの微笑だった。



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