第43話 考察ターンアウト
「双子を頼む、ミズキ――
奴の足は俺が止める!」
取り出した帰還の翼をミズキへと放りながら、俺は前へ駆ける。
通路奥からゆっくり近付いて来る魔将バァールモス。
奴が戦いを仕掛けてきた以上、誰かが迎え撃たなくてはならない。
そうなると現状、奴の足止めが可能なのは俺だけだ。
勿論、ミズキも腕は立つ。
だが奴の特殊攻撃、不可視の魔力――アレが問題だ。
変幻自在なアレは魔力の具現化により様々な形状を持つ。
そして魔力ゆえに武具で受ける事を許さない。
つまり――完全に回避するしかない訳だ。
アレを認識できない限り基本的な攻防――
戦闘という舞台にすら上がれないのである。
こんな規格外相手ではトップクラスの探索者すら足手纏いになってしまう。
俺はパラメータジャグラーのブーストがあるから何とか対抗出来そうだが……並のレベルでは一方的に虐殺されてしまうだろう。
何より――これで長年の疑問が解けた。
高レベル所持者――それこそ政府お抱えのエージェントクラス達がいながら、何故行政側はダンジョンを攻略すべくダンジョンマスターを倒しに行かせないのだろうか、と。
正確には――倒しに行かせないのではない。
斃せないのだ……少なくともダンジョンマスターらの手の内が分かるまでは。
魔将バァールモスの持つ力は初見殺しだ。
クラスチェンジを行い上位職についたエージェントたち。
強力な力を持つ彼らでも恐らく情報が無ければ太刀打ちできない。
だから俺達の様な探索者を当て馬に使う。
奴だけじゃない、恐るべきダンジョンマスターらの能力を判別させる為。
無論、地域の探索者の質……
後進の腕前を引き上げる意味もあるだろう。
でも――基本は探索者をぶつけ、手の内を探らせるのだ。
デッドオアアライブ。
死闘と生還の果てに得た情報。
それを分析し――確実な勝率を以て最大戦力を投入する。
業魔による浸食の激しい地域から優先に。
比較的穏やかだった俺達がいるアオバダンジョンなどは後回しにして。
戦略的には何ら間違った行為ではない。
人類の生存圏確保に比べれば些細な消耗と切り捨てられる数値。
ただ……戦術レベルで摺り潰される探索者達が浮かばれないだけだ。
まさに死と隣り合わせの試練場という訳か。
それにミズキ達がさっさと撤退しない理由も判別した。
どんな理由かは知らないが、階層主のいるフロア周辺では離脱アイテムの持つ力は無効化される。
おそらくこいつと遭遇したミズキ達はジリ貧になり追い詰められたのだろう。
「――分かった。
悔しいがここは貴様に任せる!
あと気をつけろ、そいつは眷族を次々に召喚するぞ!」
逡巡なく俺の指示を実行に移しミズキが双子を抱える。
かなりの重量になる筈だが、さすがは最下層に降りる探索者。
よく鍛えこまれている事もあり難無く撤退に移る。
ここで下手に「私も一緒に戦う!」とかならないのがミズキのいいところだ。
クレバーに今自分が何をすれば最大利益になるのかを把握している。
ミズキの足音が遠ざかっていくのを聞きながら俺は考察する。
高位業魔は眷族を召喚する。
今までそれは何らかの召喚魔法を使っているのだと思われていた。
でも奴の話を聞いた結果、俺は認識を改めた。
それ故に浮かぶ恐ろしい推論――
召喚ではない――顕現だ。
結界に阻まれ完全に出せない己の力。
それを引き摺り出しているだけなのだ、と。
水面から浮き出る指を想定してみるといい。
個々の指は別々のものに思えるかもしれないが、大本を辿れば腕に行き着く。
つまり奴の本体は別にありここにいるのは端末なのだろう。
諦めと絶望が弱い心を覆いそうになるのを一蹴。
今はただ、奴といかに対峙し刃を交えるかのみを考えればいい。
シンプルイズベスト。
心が決まれば覚悟も決まる。
指で刀の柄を這わせ息を整えていく。
殺傷圏である俺の間合いまで10……5……3、今!
――戦いが始まった。
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