第42話 襲撃アークデーモン
俺が業魔の血を引き継ぐもの、だと……?
まるで脳内を漂白されたように真っ白になり掛ける。
だがこれで不可解な事がいくつか解決できる。
たとえばクラスチェンジの際に言い淀んだアリシア。
遊び人の職業条件について何故か口を汚していた。
いつも玲瓏明快な返答をするオーバーロードにしては珍しく。
嘘や欺瞞は弱い人間が行う行為だ。
超越者たち強者はそういった言葉を濁すことをしない。
ただ――ひとつだけ。
脆弱な存在である人類を守る時以外は。
つまり俺はアリシアに気を遣われていたのだろう。
遊び人の職業条件は業魔の血に連なるもの。
道理で遊び人自体の数が少ないとは思った。
だからこそ、か。
何らかの危険性がある為に使えない特技を授けているのか?
そんな風に論理的に思考することで正気を保とうとする俺。
内面は焦燥と混乱でいっぱいいっぱいだ。
だってどういう事なんだよ……
俺はじゃあ――人間の天敵なのか?
俺がしている探索業は、あいつらの仇を討つのは無駄なのか?
どす黒い衝動が渦を巻き溢れ出そうになる。
しかしそんな俺を塞き止めたのは……ミズキだった。
心配そうに、そして心から俺を案じる瞳。
涙の跡がいまだ残るその顔を見た瞬間、俺の中の迷いは消え失せる。
――阿呆らしい。
いったい何を迷うことがあるのか。
俺は俺、狭間ショウだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ならば今、俺の為すべきことは何か?
そんなものは決まってる――全員の生還だ。
その為には情報が必要。
幸いダンジョンマスターはすぐに襲い掛かって来ないらしい。
ならばこいつから出来る限り情報を搾り取ってやる。
『……俺が血族ということは分かった。
なら――祝福者とはなんだ?』
『祝福者とは境界を遮る壁を壊すものよ。
オーバーロードらが張り巡らせた、我等を縛るこの忌まわしき結界。
これはオーバーロード以外の異界からの来訪者の力を弱体化させる。
なれど――この世界で生まれしものは別だ。
高貴なる我等の血を受け継ぐも、人族と認識されたお前は世界の一部に属する。
つまり――結界に囚われることなく力を振るうことが出来る。
その為の力は与えた』
奴同様に念話が可能かどうかと思い試してみたが上手くいった。
これならミズキに怪しまれることなく会話ができる。
俺は畳み込むように疑問をぶつける。
『もう一つ教えてくれ』
『なんだ?』
『業魔は何故――人を襲う?』
『それは人族が汚れた存在だからだ』
『……どういう意味だ?』
『本来、世界にある可能性は無限。
そこに住む生物たちも多種多様。
だが――お前たちの言うオーバーロードはその可能性を歪めた。
自分たち同様、人としての雛型(エッセンス)を数多の世界にばら撒き、人族のみが繁栄する狂った揺籃を作り上げたのだ。
――これがいかに不徳な行いか分かるか?
世界の理を乱す許されざる行為。
通常なら即座に懲罰として自死を命じる。
しかしお前たち人類はあまり汚れ過ぎた。
共に世界を歩むものは思念で理解し合い――洗脳する事ができるのに、オーバーロードらによる品種改良を受けた人族は一切の思念伝達を遮断する。
だからこそ我等の神は我等に命じた。
人族を――オーバーロードに連なるものを滅ぼせ、と』
『しかし人々はそんな事を知らない!
ただ懸命に生きているだけだ!』
『まだ分らぬか。
存在すること自体が罪、業罪よ。
故に人族を滅ぼす我等は業魔――
人が負いし罪である業の顕現なのだ。
さあ、祝福されし忌み子よ。
我に力を貸せ。
お前の力で世界の垣根を壊し全てを共に滅ぼそう』
『――断る!』
『なん……だと。
何故断る? 何故大義を理解しない!?』
『お前ら業魔が何を以って悪と定めるかは知らん。
しかしどんな大義名分があろうが――
ただ普通に生きる人々の日常を脅かした以上……それは立派な侵略行為――赦されざるものだ。
それに黙って滅びを受け入れるほど人類は殊勝じゃないんでな。
お前らが何を言おうが、抗う。
終末が待ち受けようが足掻いて足掻いて、足掻きまくってやる!』
『つまり――協力はせぬ、と』
『くどい!』
『おお……なんということだ。
さすがは忌まわしき存在よ。
人族の血はそこまで汝の魂を汚したか。
まあ――良い。
こんな事もあろうかと我が神は予備策を設けていた。
お前の心臓と先程の勇者の身体さえあれば境界を打ち砕ける。
亜神の器を絶望に染め上げ、我が神の供物へと捧げよう。
誇りある我が名は魔将バァールモス。
貴様の生き胆を喰らってくれるわ!』
空気を轟き震わせ響き渡る咆哮と共に――
魔将バァールモスが襲ってきた。
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