第15話 衝撃レスポンス
「……驚いたな。
俺の事を把握してるのか?」
軽い驚きと共に俺は尋ねてみる。
この換金所を訪れる探索者は数多い。
幸い今の時間帯はピーク時を過ぎているので誰もいないが、場合によっては1時間くらい待たされることすらあるほどだ。
俺ごときの個体識別をしてるとは思わなかった。
「お噂はかねがね。
特に狭間様は、魔石以外にも数々のダンジョン産の品々をお持ち込み頂いておりましたので。
何より有望なパーティの方々は全てチェックさせて頂いております。
正確には国家の利益に適う実力者の方々――
マスタークラスに至った方々のみ、ですが」
「それまた商売熱心なことで」
マスタークラスとは具体的には13レベル以上に達した者の事である。
各地域の仕様にもよるが、そのレベルを以て探索者としては一流――【到達者】を名乗れるのだ。
ちなみに【転職(クラスチェンジ)】可能になる20レベルは【踏破者】とも呼ばれる。
「コノハの事も既に知ってる、ってわけだ。
さすがに耳が早いな」
「そうでなければこの仕事は務まりません。
まあ我々がコノハ様の動向に注意を払うのはそれだけではありませんが」
「……どういうことだ?」
「これは箝口令がしかれているのでご内密頂きたいのですが……
先日、ついにシオガマダンジョンが墜ちました」
「――マジかよ!?
もう少しは……持つって話だっただろ?」
「――ええ。
我々の見立てではあと半年くらいは。
その間に近隣のダンジョンコアを砕ければまだ話は違ったのでしょうが……残念なことに侵食率が限界を迎えました。
現在、杜の都の最前線はタガジョウダンジョン。
出来立てで比較的余裕のある、ここアオバダンジョンとは違います」
「ああ――だろうな。
しかしだからこそ――虎の子である勇者を二人も派遣してるんだろ?」
「はい、その通りです。
ですが……その結果は芳しくありません」
「――何故?」
「二人とも功名に逸り過ぎなのです。
協力どころか――情報の共有すらできていない。
あまつさえ互いが互いの足を引っ張り合っている状態です。
行政側も連携を図る様に促してはいますが……」
「――馬鹿か?
俺達探索者の本分は何だと思っている。
業魔に侵食され異界化したら、名誉も何もないだろうに」
「仕方がないでしょう。
我々大人からすれば莫大な力を持つあなた方も――
本を正せば、か弱い一般人だったのです。
突如得た力による――賞賛、歓喜、熱望の声。
これに惑わされず自己を研鑽出来る者は少ないのですよ?
かつての貴方の様な人ばかりなら苦労はないのでしょうが」
「上辺だけの世辞はよしてくれ。
俺は自分の程を……格を知っている。
だからこそ自分に出来る事をしてきただけだ」
「我々からすればそこが興味深いのですがね。
しかし真面目な話――
もしタガジョウダンジョンが墜ちる事があれば……」
「あれば?」
「杜の都は終わりです。
人類の生存圏はさらに縮小の一途を辿るでしょう」
淡々と話す彼女の声に溜息をつく。
俺がダンジョンから離れている間に戦況は更に悪化してたらしい。
「だからこそコノハ、か?」
「ええ。
杜の都三人目となる勇者。
コノハ様の今後次第で戦況は大きく揺れます。
強引にパワーリングしようかという意見もあったのですが……
同様に促進したあの勇者達の様に成り兼ねない、という結論になりました。
実戦を伴わない成長は無意味なのですね。
ことダンジョン探索においては。
幸いコノハ様の近くには貴方様がいたので」
「お守り役を続けろ、と?」
「はい。
ミズキ様達を導いた様に、どうかこれからもコノハ様をお願いしたいと思います。
そして可能ならば狭間様自身の探索者復帰も。
これは行政の意向のみならず――
ここアオバダンジョンに携わる機関全ての希望でもあります」
「……一つめの事は了承した。
幼馴染だし乗りかかった舟だ、ちゃんと最後まで面倒見るさ。
二つめの事は……」
「事は?」
「もう少し――考える時間をくれ。
正直、まだ決断がつかない」
「かしこまりました。
良い返答をお待ちしております」
慇懃無礼な一礼と共に差し出される紙幣。
話と並行して行われていた換金作業の結果より――
俺の頭は、今聞いた衝撃的な話の内容の事で占められていた。
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