第7話 工房ガイダンス


 今時見られない古風な樫のドアを抜けた先――

 そこはまるでファンタジー世界の武器屋みたいな内装だった。

 古今東西、重量感溢れる様々な武具が所狭しと並べられ、壁にはこれまた怪しげな魔術工芸っぽい品々がおどろおどろしく飾られている。

 デパートの展示コーナー並みの広さはある。

 なのに武具の持つ威圧感がどことなく息苦しさを感じさせる空間だ。

 その店内だが、室長の趣味なのかゴスロリ風のドレスを着込んだ店員が忙しそうに行き交っている。

 無論、出入りする客の姿も様々だ。

 騎士っぽい鎧に長剣を装備した者。

 皮鎧に黒マフラーといういかにも盗賊っぽい服装の者。

 よくある魔法学校みたいな制服にロッドを持つ者もいた。

 先程の【酒場】との違いは何か?

 それはここにいる者の取り組み方が、皆怖いほど真剣だという事だろう。

 懸命に店員へ話し掛け、勧められた武具・道具を手に思い悩む。

 なんせ自分の命が掛かっているのだ。真剣にならざるをえない。

 虚勢かどうかは不明だが、各人が自信を以て歩んでいる外の風景とは違い、貪欲に生を追求する探索者達の等身大の姿がそこにはあった。


「ショ、ショウちゃん……ここって?」

「驚いただろう?

 ここがダンジョン探索用武具受け渡し場、装備調整室だ」


 借りてきた猫みたいに大人しくなるコノハ。

 少し薄暗い照明効果も合わさって不安なのか、無意識に腕を掴み縋ってくる。

 はあ、仕方ない。

 コノハを安心させる為に規約も交え簡単に解説してやる。


「俺達探索者は非常時以外の力の行使を固く禁じられている。

 違反すれば最悪懲役になるケースもあるくらいだ。

 とはいえ特技の悪用は小さいものから大きなものまで後を絶たない。

 力に魅入られその力に溺れる奴は多いしな。

 ……過ぎた力は身を滅ぼすっていうのに。

 けど政府も馬鹿じゃない。

 そういった事案専門の取り締まり機関があるから気をつけろ。

 まあ、お前なら大丈夫だと思うけど。

 俺と一緒で異世界チート者の日常は把握してるだろ?

 やれやれ系主人公じゃないけど、最終的に平凡な日常に勝るものはないしな。

 さて話を戻すと……

 ダンジョン探索には色々な武器が必要だろ?

 でも日常生活を送る際、身近に武器があれば犯罪行為に使われる可能性がある。

 だから建前としてここで武器を預かり、探索時(有事)のみ貸し出す。

 他にも、ここは金さえ支払えば色々無理をきいてくれるからさ」

「お金がかかるの?」

「初期装備以外は、な。

 お前は勇者だから多分見習い勇者セットがもらえる筈だ。

 それに受付で聞かなかったか?

 業魔を倒すとそいつを構成していた核である魔石をドロップする。

 こいつを使用すると失ったMPの回復に武具の性能アップ、レアだと能力値の向上も可能な優れモノだ(※1)

 ダンジョン内の拾得物は免税対象で個人に所有権がある。

 だから自分で使ってもいいし……ここで売り払ってもいい」

「へえ……なるほどね。

 どうりで最近のショウちゃん、随分羽振りがいいな~と思ったらそういう事かぁ」

「ちなみに最低ランクの魔石1つ当たりの相場は……

 なんと千円で買い取ってくれるぞ」

「え!? ホント!?」

「ああ、マジで。

 最初は金銭感覚狂うから自制しろよ?

 でもここって売りに出す時は、同じものを倍の値段で売るんだ」

「あれ? それって……」

「そう。横暴だろ?

 勿論、初期装備以外の各種武具のメンテナンスや魔化【エンチャント】……

 いわゆる武具強化だな。

 こいつにも莫大な金がかかる。

 なので――

 ついた渾名が通称【ボッタクリ工房】という訳だ」

「……あら。

 それは聞き捨てならない話ね――ショウ君?」

 

 悦に興じた俺の説明を遮る様に――

 背後からまるで氷の様に冷たくも澄んだ声が掛けられた。







※1

  MPでHPを回復。

  失ったMPを魔石で回復し再度戦闘(エンドレススパイラル)

  上位パーティほどその循環効率が良く長時間の探索が可能。

  よってレベル帯に応じ収支のバランスが合わなくなったらフロア撤退。

  ご利用は計画的に。




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