第6話 特化ステータス


 俺の投げ掛けた言葉に腕を組み真剣に思い悩むコノハ。

 嗜虐趣味がある訳じゃないが、これは大事な通過儀礼だ。

 現実は常に最悪の想定を上回る。

 だからこそ窮地には個人の覚悟を問われるのだ。

 はたしてコイツはどんな決断を下すのだろう?

 あんまり思い詰めなきゃいいが……

 しかし俺の心配を余所に、数秒後、開眼したコノハは俺に人畜無害な笑みを浮かべながら口を開いた。


「決めたよ、ショウちゃん」

「何を決めたんだ?」

「勿論――戦うこと」

「……お前が悩んで下した決断だ。

 だから否定はしない。

 けど――いいのか?

 よくある異世界無双と違って、現実は厳しいぞ」

「ちゃんと理解してるよ。

 探索者の死亡率は年間2%に迫ろうとしてることも。

 いくら勇者でも戦闘以外の死因は防げない事もあるって。

 溶岩に落ちて蘇生と焼死を繰り返したって人のドキュメンタリーも知ってるし。

 もしかしたらボクも死んじゃうかもしれない。

 それでも……今のボクは勇者なんだ。

 偶然でも必然でも選ばれたんだ。

 なら――この力をちゃんと役立たせたい」


 普段の幼さは鳴りを潜め、どこまでも純粋な眼差しで俺に告げるコノハ。

 コイツに敵わないと思うのはこういったところだ。

 昔から自分で決めたことは、どんなに困難でも貫き通す強さがある。


「……分かった。

 ならば俺も出来るかぎりお前を支えるよ」

「わっわっわっ。

 ありがとう、ショウちゃん!」


 感極まって抱き着いてこようとするコノハ。

 周囲の目もある。

 俺は邪険にコノハをあしらうと隅のテーブルへコノハを誘う。

 そしてプリントされたコノハのステータスデータを見た。


『名前 咲夜コノハ

 職業 勇者(特技特化型)

 LV 1

 HP 12

 MP 5

 筋力 3

 速力 9 

 体力 4

 賢明 11

 幸運 58 

 特技 ※※※※    』


 絶句。

 なんだ、この偏り様。

 どう考えても平均的な数値じゃない。

 ステータスに掲示される値。

 これはおおよそ常人の値が1くらいで換算される。

 クラスを得た者でも普通、5~8くらいが初期値だろう。

 確かに勇者ともなれば初期値も異様に高いと聞く。

 ならば10以上の数値も間違いではない。

 クラスを得る前の一般人と比べ、そこは単純に倍近い能力を誇るのだが……

 コイツの異常なまでの幸運値の高さはなんだ?

 ここだけ抜粋するなら、この杜の都【アオバダンジョン】でもトップクラスに匹敵するぞ。

 ま、まあランクアップで得るのはあくまでブースト。

 生来の値が稀に高い者も、いるにはいるらしいが……

 思わず無言のまま押し黙る俺。

 そんな俺の態度どう誤解したのか?

 コノハはモジモジ身をくねらせながら尋ねてくる。


「ね、ねえショウちゃん」

「おう。なんだ?」

「それでボクの身体(ステータス)……どう?」

「あ? ああ(何か卑猥に聞こえるな)。

 流石は勇者様、って感じだな。

 全体的に満遍なく高水準でまとまっている。

 特に幸運値の高さなんて賞賛したいくらいだ」

「ホッ。良かったー」

「ただ――」

「ん?」

「特技特化型っていうのが少し、な」

「な~に、それ?」

「同じ【職業(クラス)】でも色々タイプがあるんだよ。

 お前のクラスタイプである特化型は他のタイプに比べ汎用性がない。

 その分一芸に秀でる感じだな。

 得意分野では他のタイプの追随を許さないくらいハイレベルになれるが」


 これは周知の事実だ。

 火炎の特化型魔法使いなら極大灼熱呪文を低レベルで唱えられる(※1)

 まあステータス値が低ければ本来の威力が伴わないのであんまり意味はないが。

 それでも範囲魔法を早めに習得出来るのは魅力だろう。

 ちなみに俺のタイプは大器晩成型。

 ステータスなどが序盤はいまいち伸びにくいという、実に最悪なタイプだ。


「ちなみに特技は2レベルから覚えられるからな。

 楽しみにしとけよ」

「は~い」

「よし、ステータスも確認したし……

 次は装備だな」

「へ? どこ行くの?」

「付属の装備調整室。

 通称【ボッタクリ工房】だよ」

 

 苦笑を浮かべ答えた俺の言葉に、コノハは???とした顔でまたも小首をかしげるのだった。

 





※1

 今のはメ〇ではない……メ〇ゾーマだ( ;∀;)>。。。〇

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