ダンジョンが出来た世界で幼馴染が勇者(自爆魔法特化型)になったので、遊び人の俺は寄生しようと思う
秋月いろは
第1話 寝起イベント
「ショウちゃん、どうしよう……
ボク、勇者になっちゃったよぉ」
心地の良い惰眠を貪っていた俺を強引に叩き起こしやがった幼馴染、咲夜コノハは開口一番そう言った。
気を抜くと再び癒着しそうになる瞼を何とか抉じ開ける。
ボブカットで揃えられた、きめ細かい黒髪が印象的な整った容貌。
飾り気のない無地のTシャツ・色落ちしたジーンズのショートパンツから伸びる、バランスの良い肢体。
さらに俺を見つめる蠱惑的な黒瞳。
そこには今にも零れ落ちそうなほど、涙が溜まっているのが見えた。
きっと男なら誰しもが庇護欲を駆り立てるだろう。
俺こと狭間ショウは深々と溜息をつくと――
「知るかボケ。
もう少し寝かせろ」
布団を被り、もう一度安らぎの世界に身を委ねる事にした。
この返事は予測してなかったのだろう。
コノハは慌てたように体を揺すってくる。
「ちょっ、どういうことさ!
可愛い幼馴染がこうして哀願してるのに、何でそこで寝れるの!?」
「今時ボクっこなんざ流行らないんだよ(ぺっ)
なんぼ可愛いといっても見飽きたわ。
それに自分で言うか、普通?
悔しかったらモデルチェンジしてみせろ」
「またそうやって意地悪するしー。
ホント、素直じゃないんだから(クス)」
「かっこクス、じゃねー。な~に、
『年頃の男の子って仕方ないな、もう』
的に理解ある振りをしてるんだよ!
お前に対し、一片の慈悲も情けもないわ!」
「わっわっわ。
ひどいよ、ショウちゃん!
ボクの気持ちは重々知ってるくせに……
そうやって、ボクの事を弄んだわけ!?
この鬼畜! アクマ!!」
「人聞き悪いことを朝から叫ぶな!
それにいつ、俺がお前を弄んだんだよ!?」
「……ボクは絶対忘れないよ?
あれはねーまだ二人が幼い幼稚園の時――」
「あー! あー!
聴こえない、俺は何も知らない!」
「恥じらうボクの手を取って――」
「やめろ~~~~!!
俺の黒歴史をこれ以上開示するな~~!!」
そう、あれは忘れもしない12年前。
首都から杜の都へ引っ越してきたばかりで不安そうな毎日を過ごすコノハ。
そんなコノハを元気付ける為に誓った言葉。
「……俺が絶対お前を守ってやる
ショウちゃん、本当にカッコ良かった~」
「ヤメテクダサイ、マジで。
発作的に死にそうになるから」
「駄目だよ。ショウちゃん。
勇者以外のクラスは死んだら蘇生出来ないんだよ?」
「知ってる」
神とか超越者とかオーバーロードと呼ばれる存在。
その寵愛を一身に受けたのが特殊クラス【勇者】だ。
このクラスの凄い所は、死んでも復活するところ。
色々条件はあるが決して滅びることはない。
羞恥によって体が火照ったせいか、目が完全に覚めた。
今更寝直すのも、かえって疲れる。
俺は気怠げに身体を起こすとベッドに腰掛けた。
そんな俺をニコニコ見つめながら向かいにある椅子へ座るコノハ。
少しの思案の後、疑問に思った事を聞く為、俺は口を開いた。
「しかしこれでお前も何百人目かの勇者か――」
「正確にはニホンで489人目。
全世界では37564人目だって。
ニホンは治安が良いから精神的に落ち着いているでしょ?
だから位階値っていうのが上がりやすく、勇者クラスを選定する因果条件を満たしやすいって、説明に来た政府の人が言ってたよ。よく分かんないけど」
「まあ国内の内情はともかく、明日の命をも知れぬ環境じゃ【戦士】系とか【盗賊】とかそういうすぐ役立つクラスになるわな。勇者はどっちかというと、公共の利益を守る存在、みたいな感じだし」
「そうなの?」
「多分な。
まあ俺も詳しいわけじゃないしネットの受け売りだ。
んで……これからどうするんだ、コノハ?」
「役所からの通達だと明日にでもさっそく潜れ、って」
「明日? 随分性急だな……
普通、講習会とかあるだろ?」
「うちの県は浸食が激しいから余裕がないみたい。
勇者クラスは死なないし、装備は支給するから、って」
「マジかよ。
どんだけ追い詰められてるんだか。
まあ、いい。
それでお前が朝早くから来たのはまさか――」
「勿論、ショウちゃんとパーティを組みたいからに決まってるじゃん♪」
曇りなき眼で満面の笑みを浮かべるコノハ。
俺は寝起きで血が回らない頭が激しく痛み出すのを自覚した。
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