第6話
息子ジェイコブが産まれ二年、ノワール公爵領に冬が訪れていた。
そんなある日、ハルトが公爵邸に呼ばれ、留守なのを良いことに、ソフィアはすっかり魔物の影を見なくなった森へと出掛ける。
静かな雰囲気の森はすっかり人の手が入り、はじめてきた頃の魔物が住んでいた淀みと危険な香りは面影も無く、屋敷の周りとの違いはその清らかで冷たく感じる空気だけとなっていた。
「なぁ~んだ、得に何も無いじゃない。ハルトは何でこんな森に何度も……。」
そう言ってソフィアが歩みを進めながら、周りを見回していると、ライアンが慌てた様子で走りよってくる。
「奥様!も、森には近づかないようにと旦那様に…」
ライアンは必死に走ってきたのか、それだけ言うと息を荒くして、木にもたれかかる。
「大丈夫よライアン。貴方、ここへは良く来てるんでしょ?それなら魔物がいない事くらい知ってるんじゃ無いの?」
遠回しに、ライアンに探りを入れるソフィアに正直者のライアンは、
「そ、そのような事は……とにかく、絶対等と言うことは絶対に無いのですから……ここは危険です。屋敷に帰りましょう。」
チラチラと森の奥、不自然に整備されていない辺りに視線をおくるライアンに、ソフィアは満面の笑顔で、
「そう……ありがとう。帰りましょう。」
そう言って、振り返ると、来た道をライアンと一緒に帰るソフィア………。
その夜、ハルトが帰宅するにはまだ時間があると、ジェイコブを早めに寝かしつけるソフィア。
彼女は、雲に月光が遮られるようになり、暗闇で少し先も確認出来なくなった事を確認すると、ソッと屋敷を抜け出す。
【きっとあの森の奥に何か……愛人でも隠しているのかしら?】
それならそれで楽しいかも知れないと、足早に昼間歩いた道を進むソフィア……。
魔物の気配は感じられないが、少し恐怖を感じながら、ポウッと辺りを淡く照らし出す、火の魔石を使った魔法具の明かり手に、を歩みを進めると、一軒の家を発見する。
二階の窓から微かに魔法の明かりだろうか、ぼんやりとした明かりが漏れる、その家の一階は闇に包まれている……不信感を抱きつつ、足を踏み入れるソフィア………
鼻を擽るのはカビとホコリの混じりあった匂い……
【ハルトはここへ来ていたんじゃないの?……でも、この家、片付いてはいるのよね……。クモの巣も張ってはいないし、頻繁に出入りしていたのは感じる……。でも何か変……。】
手にした魔法具で辺りを照らすが、手がかりになりそうな物を見つけられずに、ドアというドアを開けて見ると、二階へと続く階段を見つける。
【そう、この先ね……。二階から灯りは漏れていたし……さっ、どんな女がいるのかしら……】
ソフィアが階段へ足をかけると、軋む音が家中に響く。
【まぁ、バレても良いわ】
そう思ったソフィアが一気に階段を駆け上がり、ドアを開け放つ!!
「な、何……これ。嘘…」
ソフィアは自分の視界に入ってきたモノに理解することが出来ず、慌てて階段を駆け降りる!
あまりにも慌てた為か、手にしていた魔法具を落とし
、家に火の手が上がる!
「え?嘘…何……何で?」
ソフィアは戸惑いと焦りを感じながら、屋敷から脱出すると、家の側に立つ大木へと寄りかかり、空を見上げるのだった。
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