第5話
そうして、ソフィアとハルトとの結婚生活が始まる。
ノワール公爵領内にある、魔物が棲むとされる森の程近くに、新しくハルトの屋敷が建てられていた。
ノワール公爵邸から、約十キロ程離れた場所に建てられたハルトの邸宅は、広大な領地の中では比較的寂れた地域に造られている。
それは、新婚の二人を邪魔しないようにと、ノワール公爵からの気遣いでもあるが、目的の半分以上は、時期ノワール公爵になるに当たって、『領地の整備されていない地域を新たに開墾しろ』と言う無言の圧力でもあった。
「ハルト様、今日もあの森へいかれるの?」
心配そうに声をかけるソフィア。
妻にそんな声をかけられても、安心させようと微笑んだりせず、あの舞踏会の夜と変わらない無感情な表情でハルトは、
「ん、ああ、領地の安寧の為には魔物を殲滅しなければならないからな。何より父上の命を速やかに遂行しなければ………まぁ、安心しろ、ライアンやキースが同行しているから最悪の事態になる事は無いさ。」
話の途中、時々表情に変化を見せるが、直ぐにいつもの無感情な表情へと戻るハルト。
結婚して数ヶ月、何度も魔物討伐に出かけるハルトにソフィアは、
【余程、ノワール公爵様はハルト様に厳しくおっしゃっているのね…。ここは妻としてしっかりと支えてあげなくちゃね。】
そんな事を考え、
「ハルト様?私、これでも回復魔法は得意なんです。今度の魔物討伐は一緒に……」
そう言いかけるソフィアにハルトは声を荒げ、
「駄目だ!お前は来るな!絶対にあの森へは近づくんじゃ無い!」
激しく、大きな声で怒鳴るハルトに、ソフィアは驚いて固まる………。
そんなソフィアに、ハルトはハッと我に返って、
「す、すまない……大きな声で……驚かしてしまったな。知っての通り、あそこは魔物が出るからな…まぁその為に討伐に行くくらいなんだ…君が怪我をしたら大変だろう?さっ、この話は終わりだ。日が暮れる迄には戻る。夕食の支度をしておいてくれ。」
そう言い残し、ハルトは共を連れ、森へと向かう。
ソフィアは、そんなハルトを見送ると、使用人に命を出し、ハルトが気持ち良く屋敷に帰ってくるように動くのだった。
ハルトはその後、感情をそれほど表に出さず、無表情で仕事をこなし、浮気やギャンブル、お酒等に溺れる事もなく、決して明るい家庭ではなかったが、平穏な日々が続き、時は流れる
それから二年後………
父のノワール公爵の『孫はまだか?』の圧力から、ハルトは、その『瞳』に潜む闇をさらに深くしつつも、ソフィアと身体を重ねる、作業の様に『事』を行う、ハルトだったが、ソフィアは静かにそれを受け入れる素振りの中、興奮をしていた。
まるで死人に抱かれているようで堪らなかったが、後ろから繋がった時に、何時もと違い、掌をとられ、ベタベタとさわられる……。
そんな時は、ハルトが生きているのを感じ、ソフィアは嫌悪感を抱いてしまうことも何度かあった。
二人のそんな努力の成果もあり、ようやく子を設ける事となる。
ソフィアは、ハルトの『闇』が好きとはいえ、学生時代のハルトを知っている為、一向に無感情なままのハルトを少なからず心配をしていた。
そんな二人に子供が出来、ハルトも少しは変わるのでは?
と心配してはいたが、ハルトが変わることはなかった。
魔物の数もニ年もすればすっかり減り、その殆どを駆逐した筈なのに、ハルトは相変わらず森へと向かう……。
男の子も産まれ、その世話に時間をとられるソフィアではあったが、不必要に森へと出掛けるハルトに、不信感を向けるのだった。
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