第92話 闇を祓う光

 貴族や王族の住む北区には、教会はない。東区と中央区画にのみ教会は建てられる。


 だが、かつてはあったのだ。俺が生まれるより前の話だが、北区の東。東区のそばに、多くの人々で賑わっていたらしい教会がある。


 今はもう廃れ、誰も祈りにこない廃教会ではあるが、そこに間違いなくフォルネイヤはいる。


 なぜなら、それが彼女のルートのはじまり。へ移行する際の、キーポイントなのだから。











 ティアラを連れて目的の廃教会へと辿り着く。


 フォルネイヤに関する記憶は思い出せたが、俺は彼女のルートを知らない。彼女に関する細かい話の内容を知らない。


 だから無駄に時間がかかってしまった。けど、見つけた。この錆びれた教会の中に、彼女はいる。


「ここに、フォルがいるんですか……?」


「ああ。かつてこの廃教会を見つけたフォルネイヤ会長は、忙しい時間の合間を縫って一人の時間をここで過ごした。だから、自分以外の知り合いが知らない場所と言えばここを選ぶはず。人気のない所は、死に場所に相応しいだろ?」


「どうしてそんなことを……私も知らないようなことを、マリウス様はどこで……」


「知り合いに聞いた。昔、この教会へ入っていく会長を見たんだと。あとは俺の推測だ」


 嘘である。あながち全てが嘘とは言えないが、前世のゲームの話だとは言えない。適当に言い訳をでっちあげる。


「とにかく。早く会長を探して呪いを解くぞ。もう時間は残り少ないはずだ」


「は、はい!」


 二人して教会の奥を目指す。この教会は街の隅にひっそりと佇むだけあってそこまで広くない。二人でなら、すぐ全ての部屋を調べることができるだろう。


 そして。




 一番奥の部屋。女神像の置かれた広間にて、床に倒れるフォルネイヤを見つけた。




「フォル!」


 真っ先にティアラが彼女へ駆け寄る。


 弱々しい身体を抱きあげると、泣きそうな声で言った。


「ま、マリウス様! 早く、呪いを早く解かないと! もう、フォルの身体が……!!」


「まずいのか」


「私は聖属性の魔法が使えるからか、なんとなくわかるんです。フォルの命が、尽きようとしてることが!」


「わかった。魔力供給は任せろ。ゴリ押しで呪いを消し飛ばすぞ!」


「はい!」


 彼女の容態は刻一刻を争う。


 フォルネイヤの体をそっと床に置き、ティアラが膨大な量の魔力を練りあげて魔法を発動する。


 その際、俺は彼女の肩に手を添えて魔力供給を行う。


 これは一種の技術でもある。スムーズに自らの魔力を供給できるのは、俺以外だとフローラくらいだろう。


 リリアとセシリアにはできない。どちらも魔法はそこまで得意ではない。アナスタシアにいたっては魔法が苦手だったりする。


 だから、膨大な魔力とそれを他者へ分け与えられる両方の条件を満たし、なおかつ制御能力まで高いのは俺くらい。


 全力で魔法を発動するティアラを支えながら、部屋全体を黄金色の魔力が覆う。


 聖属性の魔法<浄化>だ。


 俺がひたすら魔力を供給しまくってるから、凄まじい効果だ。光を浴びたフォルネイヤの体から、苦しそうに揺れながら黒いモヤが現れる。


 水晶を使った時にも見えた呪いの本体だろう。長い年月の末に、ここまでハッキリとした形を持つとは。


 あれは魔力の塊であってあらゆる悪意の結晶。フォルネイヤを苦しめる元凶だった。


「呪いが出てきたぞ。覚悟はいいか? チャンスは一度きり。失敗したら……まあ、その時はその時だ。フォルネイヤは助かるし、万々歳だと喜んでおこう」


「マリウス様……」


「大丈夫。せめてお前くらいは守ってやるさ。だから……気負うな。ただ全力でやれ。あとは俺がなんとかしてやる」


 そう言って彼女の背中にも手を添える。


 小さく華奢な彼女の覚悟を押す。


「……はい。私の命……マリウス様にあずけます。全部終わったら、三人でご飯を食べましょう。私が、腕によりをかけて作ります!」


「いいな、それ」


 元気になったフォルネイヤと、俺とティアラで囲む食卓。そんな未来も……悪くないと思った。


 そして。


 全てを終わらせる。




「では……呪いを浄化します!!」

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