第79話 従姉妹ってなんだっけ

「…………」


 生徒会長フォルネイヤ・スノー、ティアラ・カラーとの昼食が終わった日の夕方。そろそろ夕食を食べようと椅子から立ち上がった俺は、しかし突然とつぜん現れたフローラによって今度はベッドへ押し倒されてしまう。


 すでに制服は脱いで私服に着替えたあとだったからよかったものを、やや不満げな表情でこちらを見下ろすフローラへ尋ねる。


「何のつもりだ」


 彼女は人懐っこい笑みを浮かべて答える。


「マリウスくんに会いに来ました! マリウスくんは嬉しくないの?」


「嬉しい……と言えば満足なんだろうが、ハッキリ言って邪魔だな。俺は今から夕食を食べに行くところだ。そもそもフローラが男子寮に入ってくるのは問題だろ」


 男子は女子寮に。女子は男子寮に特別な理由なく入るのは校則で禁止されている。破れば重い罰則を受けることになるだろう。俺が怪訝な目で自分のことを見てることに気付いた彼女は、ニヤリと口角を吊り上げて言った。


「そんなの適当な言い訳を並べれば問題ないよ。私、自分で言うのもなんだけど結構な優等生なんだ。生徒手帳を見せて、従兄弟に実家の件で話しがしたい——って言ったら一発だったよ」


「ザルだなおい」


 これが女子寮だったら話は違うんだろうな……前世でもそうだった。男と女ではルールの制限にかなり違いがある。それ自体はまあ仕方のないことだと思っていたが、いざ自分が当事者になるとなんともいえない感情を抱いた。端的に言って「ちゃんと仕事しろ!」。


「む~……なに? マリウスくんはお姉ちゃんが会いに来たのに嬉しくないの? さっさと帰れって言うの!?」


「帰れ」


「ガーン……!」


 なに落ち込んでんだコラ。規則を無視して男子寮に来た挙句、人様の上で馬乗りしてる女を俺が歓迎するとでも? せめて降りなさい。


 俺が視線で無言の圧を放つと、フローラは泣きそうな顔で見つめ返してくる。しばらくの間、俺とフローラの間で無言の応酬があった。




『さっさと俺の上から退いて帰れ』


『イヤッ! マリウスくんが甘えてくれるまで離れません! どうしてもと言うなら、可愛くお願いして!』


『なんで俺がお願いを聞く側なんだよ……』


『だってだってだって! せっかくマリウスくんが学院に入学したのに、ぜんぜんお姉ちゃんに構ってくれないんだもん……寂しい……』


『寂しいって……子供じゃないんだから……』


『あー!? いまお姉ちゃんのこと馬鹿にした!? もういい! 絶対にここを退かないから!』




 ……言葉にするとこんな感じだろう。笑顔から涙目、怒り顔へどんどんシフトしていくフローラの表情を見ながら、俺はやれやれと仕方なく先に折れることにした。このままだと俺の夕食が無くなる。それだけはなんとしてでも避けねば。リリアを呼べれば楽なのだが、そうなるとこの状況では俺も連帯責任で怒られるため、それは最後の手段だ。


 メチャクチャ嫌そうな顔で、それでも必死に言葉を捻り出す。


「フローラ……お前とは次の休みの日にでもじっくり話したい。二人きりでゆっくり話したい。……だから、今は退いてくれない、かな? こうして二人の時間を過ごすのも悪くないが……お腹、空いてるんだ。ダメ?」




 ああああああ。気持ち悪い!! 気持ち悪いよ俺!!




 十五歳を過ぎたというのに、一つ上のフローラに最低限の可愛さ? をアピールしながらお願いするなんて……全身から血が噴き出しそうになる。この場に他のヒロインがいなくてよかった。人前だったら死んでた。


「ま、マリウスくん……!」


 俺の新たな黒歴史に、それでもフローラだけは目を輝かせる。「しゅきぃ」と目の色をハートに変え、頭の沸いた彼女は涎を垂らしながら荒い呼吸を見せる。


 なんだか貞操の危機を感じた。俺は暴れる。


「だあああ! さっさと俺の上から降りろおおお!!」


「あんっ! ダメだよマリウスくん……そんなに激しくされると、お姉ちゃん、我慢できなあああい!!」


「フローラ!? 脱ぐな! 服を着ろ!?」


 興奮が許容値を超えた聖女さん。性女にジョブチェンジし、「ハァハァ」言いながら服を脱ぎはじめた。黒い下着がちらりと視界に映り、さすがの俺も顔が真っ赤になる。


「だ、だれ、誰かぁ————! 助けてくれえええ!!」


 俺はプライドも自らの名誉も捨て去って叫んだ。尋常じゃない俺の様子に、慌てて廊下で待機していたメイドが室内に入ってくる。そして、下着姿で俺に馬乗りしたフローラを見て、




「…………マリウス様……」




 なぜかメイドは同情したような目を向けてきた。いいから早く助けろ!




 その日はなんとかメイドのおかげで俺の貞操が奪われることはなかった。しかし、暴走したフローラはメイドが服を着せ、そのまま「リリア王女殿下の部屋に運びます」と言って仲良く退室していった。


 扉が閉まる直前、「マリウスくん助けてええええ!?」とフローラが叫んでいたが、自業自得なので無視する。女って怖い……。


———————————————————————

あとがき。


たいへん申し訳ありません。最近、作者の体調が少しだけ不調で、毎日投稿(1話)しかできません!

短編などは書けているので推敲次第、投稿しようとは思ってます。

元気になったらまたたくさん書かないと(そう言いながら新作を執筆予定)。



皆さんは体調に気をつけて健康に過ごしてくださいね!

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