リリア・トワイライト短編『運命に恋した少女』
まえがき。
今回のは監禁ではありません。書いたままいつ投稿しようかと悩んだ別のお話です。監禁のお話はアナスタシア編の後にでも。
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幼い頃、リリア・トワイライトは大切な宝物を失くした。
実の母親がたった一つだけ残してくれた、思い出のロケットペンダント。彼女はそれをいつも身に付けていた。第三王女としての教育を行うかたわらも、休みの日に城下へ遊びに出掛ける時も。
しかし、そのせいで彼女は最も大切なペンダントを落としてしまう。人混みにまぎれた際に落としたのだろう。正確な位置がどこかもわからず、リリアはひたすらに困惑した。
さらに不運は重なる。ペンダントを探すのに夢中になっていたリリアは、護衛の騎士とはぐれてしまった。その日は多くの人がいたのだろう。そんなことにも気が付かないほど彼女は気が動転していた。気付いた時には、一人だった。
近くにいるであろう騎士へ呼びかけるという簡単な方法すら浮かばず、彼女は軽いパニックに陥る。そんな時、リリアは
「わ、悪い! どこか怪我とかしてないか? 痛かったら言ってくれ、ちゃんと慰謝料は出す!」
そう言ったのは、たまたまリリアとぶつかってしまった同い歳くらいの男の子。整った顔立ちがフードの中から覗き、「ああ、彼はきっと高貴な家の生まれなんだろうな」とおぼろげに彼女は思った。
そして、「こちらこそ前方不注意だった」と彼女は告げるが、そこから話は繋がり、なぜかリリアは初めて出会った少年に紛失したペンダントの話をする。
自分でもなぜ彼にその話をしたのかわからなかった。気が動転して誰にでも手を伸ばしたかったのか、すらすらとその言葉が口から零れる。
すると、不思議なことにリリアの話を聞いた少年は、何かを思い出そうとするかのように思考を巡らせた。首を傾げるリリアだったが、そんなリリアに少年は衝撃的な発言を返す。
「なあ、悪いがその落し物とやら、ちょっとだけ探すの協力してもいいか?」
「え? 何か心当たりでも?」
驚いた。リリアは
なんせそのペンダントは、リリアが持つ世界でたった一つの宝物。その存在を知る者は、家族以外ではごくごく身近な臣下やメイドだけ。にも関わらず、謎の少年はその後、見事にリリアが探していたペンダントを見つけだした。
少年が手渡してくれたペンダントを見た瞬間、リリアの胸はたしかに高鳴った。まるで幼い頃にくり返し読んだ絵本に出てくる王子様のような少年に、リリアは子供ながらに恋に落ちた。
なんて稚拙で単純。成長した今の彼女は、昔の自分を振り返って笑うが、それでもこの時の思い出は人生を変える運命だったと豪語する。
始まりは偶然。半ばには感謝と多大なる恩が。しかし、——最後は本気で惚れてしまった。
王家と公爵家。その間に婚姻が結ばれることには重大な意味があった。国をよりいっそう強固な絆で固めるには、グレイロード公爵令息のマリウスと結婚するのが最も効率的で確実だ。最初は、リリアもそれに同意した。
けど子供ながらの恋心とは面白いもので、小さな花の蕾は本人の知らぬ間に大輪の花弁と化した。幼稚な恋が、真実の愛に変わるまでそこまで時間はかからなかった。
恐らく決定打になったのは、最初のデートの終わりだろう。マリウスが買ってくれたイヤリングを受け取った時に、リリアは運命の恋に落ちた。
だから今でも彼女は過去の自分を否定しない。誰にも否定させない。誰にも馬鹿にさせない。
リリア・トワイライトは、マリウス・グレイロードに惚れる運命だったのだ。生まれた時からの定めだったのだ。
「ねぇマリウス様。今日はどこへ行きますか?」
「ん? そうだな……たしかリリアが前に行きたいって言ってた店があっただろ? そこでいいんじゃないか?」
「ふふ。覚えていてくれたんですね」
「そりゃあ、あんだけ大きな声で言われたらな……ほら、行くぞ」
「はい! マリウス様!」
リリアはマリウスを愛してる。彼が望むなら、王女という地位すら簡単に捨て去れるほどに。
だが、マリウスはリリアを愛さない。いつも必ず一線を引いてリリアと接する。どれだけリリアが必死に距離を詰めようとしても、何かに怯えるように彼はそれを拒絶してしまう。その心に抱える不安が、不満が、恐怖が、リリアは知りたかった。
「私はあなただけの存在です」
と言った。するとマリウスは、
「それを決めるのは俺じゃない」
と言って苦笑する。どこか諦めに似たその顔がリリアは嫌いだった。まるで自分との出会いが否定されたかのような気がして、幼い頃は不満を募らせた。
しかし、成長するにつれて彼女の意識は変わっていく。いくらマリウスが自分の言葉に、愛に振り向いてくれなくてもいいと考えるようになった。だってリリア・トワイライトは、たしかにマリウス・グレイロードの
今はこれでいい。これから先も変わらなくていい。もちろん変わった方が幸せだけど、彼女は決して諦めることはないのだから。
それを決めるのは俺じゃない? たしかにその通りだ。マリウスは決められない。決めさせない。
「私の運命は私だけのもの。マリウス様がそれを受け入れてくださらないなら、この愛をもってマリウス様を抱きしめればいい。結果は変わらない。結ばれて、愛おしくて、離れない」
この気持ちが続くかぎり、リリアはマリウスのもので、マリウスもまたリリアのものだった。だから彼女は強引に求めない。だって、もうこの手の中に彼はいるのだから。
狭くて苦しい鳥籠だろうと、そこから抜け出すために羽根を広げようと、絶対に彼女はマリウスを逃がさない。満ちることのない狂った愛で、いつしかその羽根を手折るまで——彼女は笑う。
愛されない。
それでいい。
それでも私は、あなたを愛する。
それが、リリア・トワイライトの覚悟だった。
「それに……なんだかんだ言って、あなたは優しい。私が困ってると絶対に見捨てないのだから……ふふ。いつかは、愛してくれますよね?」
不安が邪魔をするならそれを取り除く。不安を教えたくないならそれでも愛する。それでいい。それがいい。
今日も彼女は屈託なく笑い、マリウスの隣に立つ。そこが自分の居場所だと言わんばかりに。
ねぇ、知ってますか?
私は運命に出会い、運命に恋をし、運命を愛しました。
あなたが何を恐れてるのかは知りません。教えてもくれません。
ですが、私は諦めないのです。
だって私は……あなたのことが好きだから。
多くを求めず、嫉妬に狂い、今日もあなたの隣で笑う。
するとあなたは、どこか申し訳なさそうに笑い返すのです。
「しょうがないなぁ」って顔で。
構いません。構いません。
いつか……本当のあなたに、好きと言ってもらえれば。
それまでは、死ぬまで待ちましょう。死んでも待ちましょう。
私もあなたの————運命なのだから。
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あとがき。
リリア「これからは怒涛のメインヒロインルートですね!」
セシリア「またしばらくはオチ担当らしいわよ?」
リリア「嘘ッ⁉︎」
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