第37話 愛されたくない者
リリアとのダンスが終わる。
我ながら貴族らしく踊ることが出来た。
リリアもたいへん満足した表情を浮かべている。
「素敵でしたよ、マリウス様。ダンスもお上手なんですね」
「リリアこそ綺麗だったよ。さすがは第三王女殿下だ」
「なんですかその褒め方。微妙です。……でも、最初の一言はありがたく受け取っておきますね」
そう言って笑う彼女の顔は、ゲームで何度も見たそれだ。
本来は主人公に向けられるはずだったのに、ライバルの俺が好意を寄せられるのは未だに慣れない。
若干の後ろめたさすら感じる。
「マリウス様? 急に元気が無くなりましたね……どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。緊張して疲れただけさ」
「まだパーティーは始まったばかりですよ? 今から疲れていたら最後までもちません。頑張ってください」
「そう言われてもな……俺は元来、こういうパーティーは苦手なんだ」
「昔はよくパーティーへ出掛けていたと聞きましたが」
「あくまで昔はね。その時の反動か成長したからなのか、今は騒がしいのは苦手だ」
本当は前世の記憶が宿ったから、なんて言えないよな。
荒唐無稽を通り越して頭がおかしい。
「好きだったからこそ苦手になった……そんなこともあるんですね」
「リリアはどうなんだ? パーティーは好きか? 王族なんだからたくさんパーティーに参加するんだろう?」
「ええ、まあ。嫌いではありませんね。知り合いのパーティーなら喜んで参加します。ですが、義務的なものはどちらかと言うと苦手ですね」
「ほう」
「だって面白くありません。王女らしく振舞うだけで精一杯ですよ」
「それで言うと、今回の王家主催のパーティーだって義務的なものだろ。大変だな」
「いえいえ。今日のパーティーはすごくワクワクします。ドキドキします。人生で
「えぇ……またどうして」
「わかりませんか? 普段のパーティーにはマリウス様はなかなか出席しませんからね。大好きな愛しい婚約者がいて、その婚約者の発表も兼ねたパーティーですよ? 楽しくないわけがない!」
リリアが子供みたいに瞳を輝かせる。
事実、彼女は子供だが実年齢より下がって見えるくらいにははしゃいでるな。
どうしてそこまで他人を好きになれるのか。灰色な俺には理解できなかった。
その感情は間違ってる。
俺が向けられていいものじゃない。
いずれ本当の恋を知る。
相手は主人公だ。そう始まる前から決まっている。
なのに、なぜ彼女は人生の伴侶は俺しかいないと決め付けられるのか。
前世では恋愛に別れは付きものだった。
フィクションのように老いるまで人生を共にする者は少なかった。
結婚の裏側で、離婚する人をたくさん見た。
それゆえに、恋愛に永遠はないと俺は思う。
自分に向けられた感情もそうだ。
それは一時の迷い。たまたま色々な要素が重なり合って好意的に見えるだけだ。
成長すればただの思い込みだと、好きの手前だとわかる。
俺は愛されない。愛されてはいけない。
主人公のライバルで悪役だから?
違う。
悪役でもあって、人間的に小さいからだ。
元のマリウスが外道なら、今のマリウスは怠惰。
やる気も将来性も薄い自分に、誰かを養う、守る権利はない。守れるとも思えない。
その辺に転がる貴族子息の方がはるかにまともだと、俺は俺のことを分析している。
変わらないのだ。
マリウスであろうと灰葉瞬であろうと、恋愛する権利がないことには。
だからやめてくれ。これ以上こちらへ来ないでくれ。
俺の心を……もう揺らさないでくれ。
どれだけ頑張ろうと、俺は最後には気紛れで全てを捨てる。そういう人間なんだ。
「……俺は、それでも楽しくないよ」
「え?」
握った手を解く。
「喧騒は苦手だ。踊るのも疲れる。誰かに好かれるのも大変だ。期待が重い。だから楽しくない……楽しいと、思いたくない」
「マリウス様……?」
「——なーんてな。冗談だ。それよりさっさと階段へ向かおう。予定だとダンスのあとで婚約を発表するんだろう? 早く行かないと他の貴族を待たせることになる」
笑みを浮かべて誤魔化す。
先に歩き出した。
「あ……ま、待ってくださいマリウス様! 私も一緒に行きますから……」
呼び止めるリリア。
ここは婚約者らしく手を繋いで行きたいところだが、今の俺の気分では無理。
あとを追う彼女を無視して、俺はさっさと国王陛下が待つホール中央へと足を運んだ。
いかんな……ちょっと、しんみりしすぎてしまった。
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