ヤンデレが現れた ▷にげる しかし、まわりこまれた! ▷にげる しかし、まわりこまれた! ▷にげる しかし、まわりこまれた! ▷にげる しかし、まわりこまれた! ▷にげる もう、あきらめて♡
七渕ハチ
第1話 第二の人生
「あいくんが悪いんだよ?」
1LDKの自室で彼女を前に包丁が深く刺さった腹を押さえる。抜くべきではないという程度の知識は持っており、不思議と冷静に判断できた。
「美愛ちゃん……どうして……」
「どうして……? なんで……なんで、なんでなんでなんでなんでなんでわかってくれないの?」
美愛は血に濡れた顔で、壁を背に座る俺を見下ろす。この状況で笑顔を作ることに違和感はなく冷や汗が浮かんできた。
「身に覚えがない? 購買の女、食堂の女、トイレを出てぶつかりそうになった女。一日で何回裏切るつもり? 私がいつもいつもいつも、あいくんのことを考えてるのに。もう……もうもうもう!」
「……」
外食を控えコンビニでさえ気をつけていたんだが。そこまで監視の目があったとは、覚悟が足りなかった。
自分と不釣り合いなほど美人な美愛と付き合えたのは人生最大の僥倖だった。しかし、どこで掛け違えたのか元からそうだったのか。偏執的な愛情の結果がこれだ。
走馬灯のように思い出すも頭が重く、手を広げると赤い血が嘘のようについていた。
「これからはずっと一緒ね」
美愛が広げた手を握ってきて寄りかかる。
「出会った頃にこうしていれば、お互いすれ違わなかったのかしら」
身体に力が入らなくなって声が出せない。最後の言葉は伝えるのが難しいと、その立場になって初めてわかった。
「すぐに跡を追うわね」
やめろと言っても無駄なのは確実。恨み言を残すぐらいなら……。
「……愛してる」
苦しさのなか、簡単な表現は一つしか思い浮かばなかった。
「私もよ」
彼女が見せる満面の笑み。死ぬ間際には一番の光景か。
◇
「おめでとうございます!」
「……」
ぼやける眼前で桜色の髪を揺らす女の人が手を叩いている。赤色がベースの服はミニスカート過ぎるミニスカートで太ももが大胆に出ていた。
「アイダアイト様。あなたは愛の力で見事、蘇りました!」
周りは真っ暗な闇。あの世も納得の光景だが蘇ったの意味がわからなかった。
「わたくしは愛の女神、ラヴィです」
自分の姿を確認すると部屋着に穴はなく、腹にも傷はない。女神というからには人知を超えた存在なのだろう。
「あなたほど愛に恵まれた人とは初めてお会いしました!」
「愛ね……」
そのせいで、とも言えるが今さらだ。それとも元の世界で第二の人生を歩ませてくれるのか?
「そこで、第二の人生を別の世界で歩んでいただきます」
……別の世界? 馬鹿げた想像のさらに上を行く内容だった。
「その世界は現在、厳しい状況に置かれています。魔王が力を振るい愛が失われ続けているのです」
魔王ときてまた愛か。
「魔王軍に対抗するため多くの冒険者が命を落としています。その中には愛を誓い合った方も多く、黙って見過ごすわけにはいきません!」
「……」
拳を握っての力説は結構だけど、俺にできることなどたかが知れている。
「あなたには愛の祝福があります。きっと世界に愛を取り戻してくれるでしょう!」
女神、ラヴィはそばまで来て両肩に手を置いてきた。笑顔の圧は美愛と同程度で断れそうにない。
「魔王がいるんだ。モンスターみたいな存在もいるのか?」
「はい。魔族と違って言葉を持たないのでそこまで脅威ではありません」
ラヴィは人差し指を立てて円を描くように動かし、歩きながら説明する。短いスカートが揺れるたびに目が行ってしまう。美愛がいたら包丁が飛んできてたな。
そして、異世界のファンタジー感に前向きな気持ちが湧いてくる。二十年を生きてアニメや漫画の人並みな知識は持っていた。
「自分にできることがあるならやってみよう」
「そう言ってくれると信じていました! さあ、愛を取り戻すのです!」
意識が遠のく感覚に待ってくれと言う間もない。第二の人生の前に、もっと教えるべきことがあると思うのだが。
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