それでも、28歳なのです

@nichole

第1話 私は

 28歳5ヶ月と21日。私がこの世で産声をあげてから経過した時間だ。この期間の間に、私は日本語と少しの英語を操ることができるようになり、人の顔色を伺うことができるようになった。

 幼少期は自分でもコンプレックスに感じるほど泣き虫であった記憶がある。それはいつしか克服したようで、今になって泣くとすれば、感動的な映画を見たときか、悔し泣き程度である。それすら少なくなってきたように思う。

 高校まで公立で過ごし、私立の大学を卒業した。卒業後は医療系の仕事につき、一般的に「社会人」と言われるカテゴリーの中で生きている。

 社会人となって数年も過ぎると、お局や理不尽な上司などの対応には慣れてきて、心を殺す方法も無意識に身についた。その代償として向精神薬を飲むようになったが、一人暮らしに必要な経済活動はできている。

 そんな中、未曾有のウィルスの蔓延により人と会うことができない時期があった。友人や家族と会うにも対策が必要なご時世に、私は4年交際していたパートナーと破局した。理由は長すぎた春というものらしい。周りには、ただでさえ出会いがない中、よく別れたものだと言われた。言い分は分からなくもない。だが、これが恋愛を続けていく理由にはならなかった。

 しかし、こんなご時世にも順応していくのが人間社会で、スマホと指1本で異性と会うことができるようになった。マッチングアプリというものだ。パートナーがいた頃は、その存在を耳にしていても需要がなかったため時に気にも留めていなかった。しかし、フリーとなってから出会いの場が少なくなったため、意を決して登録した。当時25歳、「遊ぶならこれが最後」という気持ちがあったのも本音だ。

 登録すると、指で画像を左右にスワイプするだけで、順番に登録者が画面上に現れてくる。好意を持ったら右にスワイプするらしい。何人かとメッセージのやり取りを行うが、知らない相手とのやり取りの中には、卑劣な内容も少なくなかった。そのため、そろそろ辞めようかと考えていた頃に、一人の異性とマッチした。

 その方はアプリ内で出会った方と何度か食事などをしたことがあるようで、慣れている様子だった。会話も順調にはずみ、会うことになった。ついにマッチングアプリで見知らぬ人に会うのだ。口から心臓やら何やら出てきそうなほどに緊張していた。しかも待ち合わせは車だ。山に捨てられるのではないか、という邪念が頭から離れなかった。待ち合わせ場所に着くと、車の中からこちらに手を振ってくる異性がいる。こいつだ。そう思い、山に捨てられる覚悟で車内に乗り込んだ。

 「山に捨てませんよ。」と笑いながら話してきたのが、今の恋人だ。交際して2年が経ち、同棲を始めた。

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