理想の子

黒田 愛実

1

彼女はかつて、完璧だった。

潤んだ瞳と、長いまつ毛。

顔の形に対して最適な手足の長さ。

未熟だからこそ生まれた至高。

そのことは周囲が誉めそやす以上に、

彼女が自覚していた。


彼女にも分からなかったのは、

それが成長過渡期ゆえの美しさであり、

一時的であり、

不可逆なものであったことである。


10歳を全盛にした彼女の美は

やがて少しずつ変わっていった。

傍から見れば、ごく自然な成長であり

老化であり、

それでも現在25歳の彼女は

十二分に美しいものであったが

彼女自身はこの劣化を許せなかった。

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