悪逆非道の勇者に家族や仲間を殺された最弱スライムはスキル【みんなのうらみ】が発動し復讐を誓う〜殺された魔物の数だけ強くなる力で世界最強になり無双する〜「え、助けて?いや今更見逃すわけ無いだろ」

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 スライムの里、滅びる。


ここは、とあるスライムの隠れ里【インス】。


 ――ドガッ!!


「ぴぎィ!!」


 斧を担いだ鎧の男が僕を踏みつけ見下すようにこういった。


「おいおい、ホントにこんな村に【宝玉】があんのかよ。 スライム......こんな糞雑魚モンスターの隠れ里だぜ?」


 鎧の男が僕から足をどけると、赤い着物の杖を持つ女が勢いよく蹴り飛ばす。


「ギィッ!!」


「あはっ! 鳴き声ウケる!」


 弾力のある僕は打ちつけられた塀で跳ねっ返り、転がる。


 雨が降り始めているせいで、地面は泥になり僕の青く丸い体はまるで泥団子のようだ。


「ねえ、勇者。 面倒だから皆殺しちゃえば? スライムなんて雑魚をいちいち相手にしていたら時間がもったいないし」


 勇者と言われた男は、まあそれもそうだな。と剣を抜いた。


「......うん。 お前は良いや」


 僕を蔑むような目で見る勇者。その色には覚えがある。


 あれは人間を始めて見たときのことだ。


 小さな人の子は僕を指差し、「あの丸いの何?」と母親に聞いていた。


 すると僕に気がついた母親はこの勇者と同じ目で僕を見ていた。


 そう、【汚らしい魔物】を見る侮蔑的な色浮かぶその瞳で。


「なんだ? 勇者、こいつ斬らねえの?」


「鮮血で汚れるなら良いが、こんな汚らしい泥塗れにされたくはないよ。 この剣は父から受け継いだ大切な宝剣なんだ。 だからこいつはいいや......それに放っといても、もう死にそうだし」


 確かに、僕はまさに虫の息だ。スライムの中では魔力が多く、多少の幻術が使えた僕。


 その実力を買われこの隠れ里の門番を任されていた。ゴブリンやオークなどの魔物を倒せるレベルの力。この里周辺で僕より強い魔物は存在しなかった......が、しかし、今回は相手が悪すぎた。


 なにせ最強の魔族である【魔王】を討滅したあの勇者だったからだ。


(......せめて、皆をにがさなきゃ......動け、僕の体......!)


 ゆっくりと這うように、気が付かれないよう動き出す。しかし、彼ら勇者パーティーに負わされた怪我が激しく痛み思うように進めない。


「お、まだ逃げようとしてるぜ、コイツ。 ははっ、そんなに命が惜しいか?」


 僕の命?......ああ、いいよ。僕はどうなっても良い。けど、里の皆は......僕の妻は、子供は......殺させない。


 おそらくはヒーラーであろう。生気のない瞳で立ち尽くしていた白いローブの女の前を這いずり、僕は里の中を目指す。


「ハハッ、お前、もう目が逝ってるじゃねえか。 ゴミみてえな命、お前は其辺の害虫と同等のゴミなんだぜ? 必死に這いずって泥まみれ......あひゃひゃひゃ! マジで笑えるぜオマエ!!」


 勇者が僕を指差した。


「いやまてよ? ああ、そうだ! 戦士、そいつ殺す気ないなら連れてきてくれ」


「あ? どうすんだこの死にぞこないのゴミ」


「ゴミはゴミなりに使い方があると思ってね。 ほら、スライムって弱いくせに仲間意識が強いって聞いたことないか?」


 その言葉を聞いた僕は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「このゴミを振り回しながら里を歩き回ればスライムが集まる。 そうすれば効率よく皆殺しに出来るだろ」


「なるほど、そうか! そいつはいい案だな!」


 その会話を聞いていた女が顔を引きつらせる。


「おええ、そんな気持ちわりいのつかむの? 手で触るの? 絶対雑菌まみれで汚えじゃん......って、そいつ自体雑菌みたいなもんかぁ。 ハハッ」


「あん? 大丈夫だ......ほら、の木の枝を」




 ――ズブッ




「ギィイイイィ!!!?」


 眼の奥が、アツイ!!アツイアツイアツイアツイアツ......あーっ、あががが!!


 ――目に枝が突き刺さり、それを持ち手に僕は持ち上げられる。


「あ、死んだかこれ......流石に脳みそ貫通したら死ぬか? まあ、脳みそあんのか知らねえけど」


 気を失いそうな痛み。その痛みに起こされまた激痛に頭を殴られる。


 刺しどころが良かったのか、それとも悪かったのか。まだ辛うじて生きている僕は、意識だけは残っていた。


 そして、気がつけば里の中へ勇者達は侵入し、それに気がついた仲間のスライム達は一斉に逃げ始めた。


「おいおい、フツーに逃げてんじゃん。 このゴミ人望なさすぎだろ! 人じゃねえけど」


「あー! キモいキモいキモい!! スライムの群れってマジで気持ち悪いッ!! しねっ!! 【滅魔炎デルファイヤ】!!」


 ――ゴウッ!!


 魔法使いの女が詠唱し放たれた炎は瞬く間に里の仲間を飲み込んだ。


 聞いたことも無い甲高く割れるような慟哭。絶叫と呼ぶには優しすぎる命が焼ける音。



 べっとりとヘドロのような黒い塊になっていく。



「はっはっはっ!!」


「ふっ、くくっ......どろどろと溶けてへばりつく。 本当に気持ち悪いな」


「うげえ、変な臭い!! 皆燃えろ!! 跡形もなく消えろッ!!」



 なん、で......こんな。



 気がつけば潰れていない方の目から涙が溢れていた。



 魔王様が倒されたから?僕らが雑魚モンスターだから?



 彼らは勇者で僕らが殺されるべき敵だから?




 それじゃあ......僕らの命って、何のためにあるの?




「あ? なんだこいつ」


 ぴょこんぴょこんと、戦士の前に現れた小さなスライム。


(.......がっ!! 逃げ、にげ......)


「うおっ! なんだ急に!? 虫の息だったのに暴れ出しやがった!!」


『......お、おとうしゃん......‼』


「もしかして、これこのゴミの子供だったりして?」


「あ! あー、だから暴れてんのか? だったら面白えかもなあ?」



 戦士が斧を振りかぶる。



「はい、よーくみとけよ? ほら、ほら......へへ」




『......おかあしゃん......が、もうだめだからって......おとうしゃんと、にげてって......』



(ぎっ、があっ......)



 やだ!絶対に!!ダメだダメだダメだ!!この子だけは!!!


 頼む、頼むよ神様!!僕の全てを......奪わないでよ!!


 ――ドゴォオッ!!!


 地面が捲れ上がるほどの一撃。戦士の斧は深々と刺さり、大地が割れていた。



「あ? なんもいねえ?」


「!? 確かにここに居たはず」



 幻術魔法、【影隠し】



 ......僕の魔力、全てを使って......姿を隠した......。



 戦士の斧を紙一重で避けることが出来た。


 良かった......。


 逃げ延びて......僕らの分まで、生きて......。




「あら方焼き尽くしたよ〜......って、うわあ! 幻術魔法!? こんなとこにもいんじゃん! きもっ!!」




 ――ボウッ!!




「ぴ、ぴ、ぷ、ぎぃ......っ、っ、......」



(......え? あ、え......)



『おと、あつ......た、おと......あつぃあつあ、ぎぃいいぃ......』



「あー、残念! うちの魔法使いは世界に三人しかいねえ特級魔導師なんだよ! おまえのゴミみてえな雑魚幻術じゃごまかせねえのよ。 まじで無駄な足掻きだったなぁ! あはははっ」







 あ、あ、あ、






「ねえ、さっさと行こうよ。 【宝玉】が無いなら、こんな遊・び・もう終わりで良いでしょ」


「ああ、そうだな。 里の何処にもお宝の気配はしない。 まあ、それでも暇・つ・ぶ・し・にはなったかな。 スライム狩り。 何匹殺れたんだ? フルコンできたか?」


「あ? あ、やべえ。 数えんの忘れてたわ......この枝の奴以外はコンプしたんじゃねえの?」


「イイね! ......よし、またどっか適当な魔族の村で遊ぼうか。 こいつらいくらでも居るし、殺せば殺すだけ報酬もいただけるし」


「まあ、報酬は別にいんだけどな。 【魔王】殺った時の報酬が使い切れねえくらいあんだからよ」


「んー、まあ確かにね」


「ねえ、もういこーよー! お腹すいたー」


「はいはい。 さて、行こうか」


「おう。 ......それじゃあな、雑魚。 ポイッと」



 そう吐き捨て奴は僕を燃え盛る火の中へ、投げ入れた。





 火に焼かれ、激しい痛みの中。




 誰かの声がする。






 ――苦しい





 ――なぜ、私達が





 ――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!まだ、死にたくな






(......僕は、気が狂ったのかもしれない)





 ――許さない、許さない!!!




 ――俺たちが、何をしたというんだっ




 ――ただ、平和にくらしていたのにっ





(里の皆の声が、頭に流れ込んでくる......。 壮絶な苦しみと悲しみ、痛みと記憶......)








 ――ゆる......さない、








 ――愛する者をうばった








 ――ああ、可愛い我が子......なぜ死んだ?










(......この湧き出る黒い......感情は)








『おとうしゃん』






(あ......)






『だいすき』






 にこにこと笑う娘、ミナトは僕の全てだった。






 勿論、妻であるリーナ......君も。






 彼女と過ごした幸せな日々も、今となっては辛いものになってしまった。






 三匹で......ずっと、何気ない日常を過ごしていたかった。







 .....なんで、こんな目に。






 じわりと滲み出す、憎悪。




 理不尽の限り、踏みにじられた皆の命。




 やがてそれは明確な殺意に変わりだし、胸の奥を焼く。





 ――彼らを許せるのかい?




 誰かの声が聞こえる。




(ゆる、せない......)




 ――憎いね?悲しいね?辛いね?誰のせい?




(あいつら、勇者達が......里の皆を殺したから)




 ――そうだね。だったら、彼らも同じ目にあわなきゃ。




(同じ目に?)




 ――苦しみと激痛、悲しみに溺れてもらおうよ。





(無理だよ。......僕は、ただのスライムだ。 なんの力もない......どうしようもなく、ちっぽけな魔物)





 ――......力は、あるよ。




(......え?)




 ――皆の憎しみ、悲しみ、その憎悪の全てを力に変えるんだ。




(憎悪を力に?)




 ――さあ、目を開けて。




 ――君が、この黒い力を制御できたなら。




 ――彼ら、勇者達を葬ることが出来るだろう。





(......勇者を倒せる......?)





 うん、ほらあげる。君の望む、力を。




 ――ズズ......ズ





 禍々しい黒い霧が全身から溢れ出す。





『スキル【みんなのうらみ】が発動しました』





 脳内に響くメッセージ。その瞬間、全身が引き裂かれそうな痛みに襲われた。



 ぎゃああああっ、あああっ、ぐぅおおっ......ああ、あーッッッ!!!



 ――でも、まあ......その痛みに耐えられた奴は、これまで居なかったけどね。




 ――君はどうかな?





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