少女の内心
「翔ぅ……会いたいよぉ……」
ご飯を食べ終え、寝室で枕に顔を埋めてそんなことを呟く私。
「転生したのだから会えないのはわかっているの……!だから忘れようとしてたのに!こんな状況じゃ嫌でも思い出しちゃうじゃない!」
母親に捨てられて、そして男の子に拾われて、その時に言われた言葉も私が前世で翔に対して言った言葉と同じだし……。前世の翔も母親に捨てられてるし……。
「立場は逆だけど、前世と同じようなことになったら嫌でも思い出すじゃない!」
そんなことを考えてると自然と涙が出てきた。
多分この涙は後悔の涙なんだと思う。
もしあの時、私が死にたくないと言っていたら、翔と幸せに暮らせてたのかな。
さらに涙が溢れてくる。
転生直後もこんなことを考えてすごく泣いてしまった。
だから忘れようとしてたのに……!
すると寝室のドアが開く。
多分あの男の子だろう。涙をふいて何も無かったかのようにドアに目向ける。
「大丈夫?」
「なにがです?」
「リビングから出ていく時に泣きそうになってたのが見えたから大丈夫かな?って」
「大丈夫です、泣いてません。」
「目の周り赤いけど」
「気の所為ですよ」
ニコッと微笑みながら言葉を返す。
すると男の子はドアの前からベッドの上にいる私の隣に移動して腰を下ろす。
「我慢はあんまり良くないぞ。女だからって我慢する必要は無いんだぞ」
「それを言うなら『男だから』でしょっ」
ふふっと笑いながら思い出す。
前世で翔にも同じこと言われたなぁ。あの頃は翔だから遠慮なく抱きついて泣けたけど……今は知らない男の子だから、飛びつけないし泣けないわね。
すると男の子が私の頭を撫でてくる。
「なんの真似ですか?」
「ただの気分だよ」
「気分で女の子の頭を撫でるのは良くないと思います」
「勘違いするか?」
ニヤッと笑いながらからかってくる。
「普通の女の子なら勘違いしてしまいますかもね。私はしませんけど」
「そうなのか。なら離した方がいいか?」
「いえ、今はこのまま撫でていてください」
「勘違いしちゃったか」
「違います。居心地がいいだけです」
「そうですかー」
男の子は特に何も言わずに頭を撫で続けてくれた。
頭を撫でられるのは悪い気はしない。前世でも翔に頭を撫でなれることは多かった。今みたいに言いたいけど言い出せない時は翔が勘づいてくれて、私が口を開くまではずっとそばにいてくれていた。
この子は翔に似ていて落ち着くなぁ。
それから頭を撫でられ続け数分、私は口を開いた。
「ありがとうございます。おかげで少し落ち着きました」
「ならよかったです」
男の子はそっと私の頭の上から手をのけた。
「それで泣いてた理由は?」
「レディにあまりそういうことを聞いては行けませんよ」
「そんなもんなのか」
「そんなもんです」
私はベッドに潜り、さっきの枕に頭をつけて寝る体勢をとる。
「もう寝るのか?」
「今日は色々あって疲れましたからね」
「確かに色々あったもんな。じゃあ俺も寝ようかな」
すると男の子はベッドには潜らずに枕を持って地面に寝転がる。
「何してるのです?」
「寝ようとしてる」
「ベッドで寝ないのですか?」
「寝ないよ」
「痛くないのですか?」
「我慢できる痛みだから大丈夫」
そんなことを言いながら本当に寝ようとする男の子。
女子と一緒に寝るのに躊躇しているのかもしれないけど、こんな小さな子供を地面で寝かせる訳にはいかない。
私はベッドの上を手でトントンと叩いてアピールをする。
「私のことは気にせずにベッドで一緒に寝ましょう」
「男相手に一緒に寝ましょうはやめといた方がいいぞ」
「勘違いさせてしまいます?」
「勘違いしてしまいますね」
ニヤッと笑う私を無視してベッドに戻って来てくる。
「勘違いしましたか?」
「する訳ないだろ」
そう言いながらベッドに潜る男の子。
「つれない男ですね」
「どうもどうも」
「別に褒めてないのですが……」
私は男の子とは逆を向いて目を閉じる。
「では、おやすみなさい」
「おやすみ」
もう、翔とは会えない。前世で死んでしまったのだから仕方がない。前世を後悔しても無駄なだけ。親に捨てられ、山奥に住んでいる家族に拾われたけど、今世を全力で楽しもう。
翔のことは今日を持って忘れる!そして今世で新しい出会いを見つける!!
ベッドの中でグッと力を入れてそう決めるのだった。
○ ○
「「この子達の会話のレベル高すぎない!?」」
カルの寝室の前で二人の会話を盗み聞きしていたロイとナズ。
「カルが10歳にしては大人びているとは思っていたけど、まさかハイロまであんなに大人びているとは……」
「最近の子供はすごいわねぇ……」
リビングに戻り、そんな会話をする二人。
机に両肘を着いて顎を手の上に乗せているロイと首を貸しげているナズ。
2人は薄々気づいていた。
「転生者かもしれんな」
「転生者かもしれないわね」
息を揃えてその言葉を口にする2人。カルの大人びている姿、知識、そして言葉遣い。それを元に考えた末のことだった。
「まぁこの事はあの子が自分から言ってくるまで待とうかしらね」
「そうだな、言いに来るのが少し楽しみだ」
「そうね」
クスクスと笑いながら幸せそうに話す二人。
カルがその事を伝えに来るのは2年後の事だった。
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