少女を家に連れ込んだ
「えーと、確かこの辺だったはず」
草を掻き分けながら反応があった場所へと向かう。
「てかなんで母親らしき人はこんなところに子供を置いていくんだよ。もしかして育児放棄か!あっちの世界なら大炎上だぞ!」
そんな愚痴を吐きながら森を突き進むこと数分。
「やっと見つけた。大丈夫か?」
少女は自分で薪を集めて焚き火を作り、暖をとっていた。
え?最近の子供ってサバイバル技術も備えてるの?
「大丈夫です。お気になさらずに」
「お気になさらずにと言われてもなぁ……とりあえず戻ろうぜ」
「いえ、大丈夫ですので」
大丈夫だの一点張りかぁ……。俺の方を見向きもしてくれないしなぁ。どうしたもんか……。
俺は頭をかきながら少女の近くに座る。
「どうして隣に座るのです?」
「君が一緒に来ると言うまでここで待機することにした」
これは前世で俺が彩羽に言われた言葉だ。
前世の俺もこの子と同じように親に捨てられ、彩羽に拾われた。てかほぼ強制的に拾われたんだがな。
前世の彩羽も俺が今しているように隣に座って「あなたが来ないなら私は絶対に動かない!」って言ってきたなぁ。
懐かしい目を空に向ける。
今頃、彩羽は天国で何してんだろうなぁ。
そんなことを考えていると少女は何故か俺を睨みつけてくる。
「どうかした?もう俺について来たくなったのか」
そう問いかけるとブンブンブン!と首を横に振る。
そんな否定しなくてもいいのにっ……。
まぁ変な人について行ったらダメって教わったんだろうな。変な人じゃないってことは伝えておこう。
「ちなみに俺は変な人じゃないからね?助けに来ただけだから」
「それぐらい分かっております」
「じゃあなんで睨んでくるんだよ」
「特に理由はありません」
「左様ですかー」
それからは無言のまま、時間だけが過ぎていった。話しかけようとはしたが、しつこい男だと思われそうだからやめた。
こんな可愛い子に嫌われるのは1番メンタルに来るからな。
体を起こし、伸びをしてから少女に問いかける。
「もう日が落ちそうだな。飯にでもするか?」
「本当にずっと一緒にいるつもりですか?」
「当たり前だろ。1度口にしたことは絶対に取り消さないからな!」
「そうですか……」
少女はなぜか少し寂しげな表情をした。見捨てられたことが寂しくなったのかな?
あまり触れてはいけない気がしたので無視することにした。
「少し歩いたところに川があるからそこに魚取りに行こう!」
「一人で行って来てください。私は別にお腹すいてませんし」
「ダメダメ!君を1人にしたら逃げ出すかもしれないし、魚取りを一緒に楽しみたいし!」
少女の手を取り、強引に立てらせて川の方へ引っ張る。
抵抗しようと少女が踏ん張っているが、俺の身体能力を前にその抗いは無駄ですよ〜。
「ほんとに私はいいですから!離してください!」
「いやだね!一緒に家に来るって言うまでずっと一緒にいるからな!」
「分かりました!分かりましたから!!一緒に家に行きますから!!離してください!!」
「よろしい、俺の家に着くまでは逃げれないように手は握っとくね」
「逃げませんから!!」
「離してー!」という少女の悲痛な叫びは誰の耳にも届くことは無かった。
「ただいまー」
「お、お邪魔します……」
元気のいい人間と縮こまっている人間が一緒にドアをくぐる。
玄関の前には父さんと母さんが心配そう立っていた。
「おかえりカル。ちゃんと連れてこれたんだな」
「割とあっさり着いてきてくれたよ。それより体はもう大丈夫なの?」
「あぁ大丈夫だ。この通り元気だぞ」
筋肉ポーズをしながら微笑んでくる父さん。
治ったのなら良かった。
「そんなことより、2人ともお風呂に入ってきなさい」
「確かに2人とも少し臭うな。あと汚い」
女の子に、臭うとか汚いとか言ってやるなよ……ほら、ちょっと気にしてるじゃん……。
草木の中を進んできたカルと少女の服には泥が着いていたり、ずっと火の前にいたせいで煙の匂いが服に染み込んでしまっている。
「俺はあとから入るから君が先に入っていいよ」
「いえ、よそ者の私が先に入るのは失礼かと……」
「何言ってるのあなたたち。子供なんだから一緒に入ればいいでしょ」
「「え?」」
「いやぁ、いいお湯だねー」
「そ、そうですね」
大人がギリギリ1人だけ入れるスペースの湯船に、子供二人で浸かる。
シャワーという概念がないから桶にお湯をすくって頭にお湯を流す。昔ながらの洗い方を済ませて、現在2人でお湯に浸かっている。
「いいお湯だねー」
「そ、そうですね」
さっきからこの会話しかしていない。見た目は子供とはいえ、中身は17歳の男なんだわ。それもこんな可愛い子と一緒にお風呂に入るなんて……。
俺は少女の体を見ないように少女に背を向けてお湯に浸かっている。
背を向けているのは少女も同じらしく、なんとも気まづい状況だ。
と、その瞬間。相手がこの気まづさに耐えられなかったのか話を振ってくる。
「あの、なんで私を助けたのですか?」
「可愛いから?あと友達が欲しかったからかな」
「そんな理由で私を助けたんですか……」
「可愛いのは事実だからね」
「ありがとうございます」
せっかくの会話を振ってくれたのにすぐに終わらせてしまったことに申し訳なさを覚える。
その後も会話はなく、少女が先に出ていってしまった。
別に少女の裸が見れなくて凹んでるわけじゃないからな!
「ご飯できてるから2人とも食べなさーい」
幸いにも俺と身長がほぼ同じだった少女に服を貸してリビングで食事をとる。
「そういえば君、名前はなんて言うの?」
「ハイロです。ミスナ=ハイロと申します。」
ハイロさんの自己紹介を聞いた途端に父さんと母さんは慌ててハイロさんの前で膝を着いた。
「どうしたの?2人とも。そんなに凄い人なの?」
「カルも早く来なさい!」
母さんにすごいスピードで手招きをされる。そんなに慌てるほどすごい人なのか。
俺も母さんの隣で膝を着く。
「私にはもう、『ミスナ』という名はありません。母親に捨てられましたからね。なので頭をあげてください」
ニコリと微笑みながらそんなことを言うハイロさん。
「いや、でも──」
「──やめてください。私はもう王国の第3王女ではありません!」
父さんの言葉を区切り、怒鳴り混じりの言葉を放つ。
ハイロさんのその言葉で父さんと母さんは冷静さを取り戻したのか謝りながら席に戻る。
「す、すまない。『ミスナ』という苗字に囚われすぎていたな」
「そうね……ごめんなさい」
「いえ、過ぎたことを悔やんでも仕方ありません」
空になったお皿を持って台所に持っていくハイロさん。
チラッと見えた目には少しだけ涙が滲んでいる。
「ごちそうさま。美味しかったです」
「寝室はカルと同じ部屋でお願いね」
「はい、ありがとうございます」
さすがの俺も見てられないので慌てて皿を台所に持って行ってハイロさんを追いかける。
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