第165話 奴隷、実力を見せつける

「あなた……精霊を従えているの?」


「従えているわけじゃない。ただの連れだ」


「まーただの連れだなんて失礼ね! アタシがいたから、この国にも入れたんでしょ」


 アイネスは同意を得るためか、セレティアの肩に座り、何度もセレティアに「そう思うわよね」と確認し始めた。


「ウォルスは少し冷めたところがあるけど、あれはきっと照れ隠しよ」


「そうよね! ウォルスって、昔からああだから」


 やけに人間臭い精霊を前に、ライザを含む、周りを囲んでいる魔法師全員、戸惑いを隠せないでいる。

 おそらく、精霊というものに幻想を抱いていたんだろう。

 何も知らない人間が、ここまで知識とかけ離れた精霊を目の当たりにすれば、こうなるのも頷ける。


「……たとえ精霊を連れているとしても、あなたが暗殺者じゃないということにはならないわ」


 ライザは毅然とした態度で言うと、疑念が残っているような瞳で睨みつけてきた。

 まだ完全に戦闘をやめるつもりはないらしく、敵意が見え隠れしている。


「そのとおりだな。この精霊アイネスが、お前たちが考える精霊かどうかも証明できない以上、俺がそれを証明してやろう」


「どうやって証明してくれるのかしら?」


「そこのセルティには手を出すな。手を出せば、精霊アイネスが容赦なくお前たちに攻撃を加えるだろう。だが、俺一人なら加減をしてやれる」


「はっ? どういうこと? 言ってることがよくわからないのだけど」


 ライザはわからないと言いながら、明らかに不機嫌な態度になり、殺意としか受け取れないほどの闘志を剥き出しにしてきた。

 高まる魔力は、既に一等級魔法を放つ寸前まで膨れ上がっている。


「俺もレブレヒトあいつののせいでこんなことになり、ちょうどうんざりしていたところだ。俺がもし暗殺者なら、こんな遠回りなことをする必要がないこと、お前たちじゃ時間稼ぎにもならないことを教えてやる。ライザ、お前だけじゃ時間の無駄だ、全員でかかってこい」


 セレティアが慌てて俺から離れるが、全員セレティアは眼中にないようで、俺に向け一斉に魔法を放ってきた。

 なかなか上手くいった、と自分を褒めてやりたい。


「話を聞こうと思ったけど、その必要もないわね」


 前方からは、ライザの土属性と風属性の複合魔法によってできた電撃魔法。

 後方からは光属性の光剣式聖縛魔法に、火属性の一等級魔法である、局地型巨大炎槍魔法が襲いかかる。


「なかなか優秀だな」


 複数魔法の直撃による爆風で砂塵が舞い上がり、辺り一帯の視界が塞がれた。

 貴重な光属性、それも高度な拘束魔法、それに複合魔法とは、本当に優秀な魔法師が揃っているのだろう。

 しかし、それが仇となっていることも理解できていないとは……。


 粉塵舞い上がる中に、うめき声だけが響く。

 それは当然、俺のものではない。


「……何? バルド、あなたの魔法で粉塵を吹き飛ばしなさい」


 ライザの命令だけが虚しく響き、返事は何もない。


「無駄だぞ。お前の部下は四人とも戦闘不能だ」


 バルドの代わりに俺が粉塵を吹き飛ばしてやる。

 一瞬にして周囲が見える状態になると、ライザは目を見開き、口をパクパクしだした。

 白目を向いてうつ伏せに倒れているバルドたちを前にして、言葉が出てこないらしい。


「まさか……そんなはずないわ……」


 接近戦に対しての訓練が足らず、大規模魔法のあとの気の緩みは致命的としか言いようがない。

 さらには、魔力を消しての接近に対応すらできない始末。

 驕り高ぶった魔法師、その見本とでもいうべき魔法師たちだ。


「砂塵に油断したのね……。いくらあなたが剣士として優れていようと、バルドたち四人が、こんなにあっさりやられるわけがないもの」


「俺がただの剣士だと思うのか? そんなわけがないだろう」


 ライザは歯ぎしりをし、素早く両手に魔力を集めて警戒を強める。


「そうね――あの攻撃を、ただの剣士がどうにかできるわけがないもの。あなたみたいな魔法剣士がまだいたなんて、世界はまだまだ広いわ」とライザは両手を頭上で組むと、見たことがない魔法式を組み立ててゆく。「セオリニング王国の戦士長、ボーグ・マグタリスに匹敵するかもしれない力と、その傲慢な態度、私の本気の力で、粉々に打ち砕いてあげる」


「――――特異魔法か。だが、かなり無理をしているようだな」


 特異魔法は二属性以上の複合魔法且つ、オリジナル魔法のため、一定レベルの魔法力がなければならない。

 目の前のライザ・ウィスタスは魔力は、魔法を放つ前後でほぼ変わっていないのを見ても、想定より魔力が多いのは間違いなさそうだが、辛そうな様子から、それに見合った魔法力ではないのだろう。

 扱える属性も二属性、それも特化しているわけではさそうだ。


「待ってやる、さっさと特異魔法を組み立てるがいい」


「骨の一片さえ残さず、全てを砕いてあげる」


 特異魔法といってもレベルが低く、発動がこんなにゆっくりでは、鑑定するには十分すぎる時間だ。

 そうこうしているうちに、ライザは電撃を媒介にして動く、人の背丈の三倍はあろうかという巨大なゴーレムを作りだした。

 触れるのも危険、一部を破壊しても電撃によって修復させる代物だろう。

 各関節部からは電撃が火花となって飛散し、凄まじい閃光を放っている。


「どう? これがあなたが手も足も出ない魔法よ。魔法剣士程度の力じゃ、どう足掻いても勝てない本物の魔法」


 礼を言いたくなるほどの鑑定時間を与えられ、分析は嫌というほどできた。

 あとは、目の前のゴーレムを再現すればいいだけだ。


「悪くない特異魔法だ」


 魔素変換を全力で行い、ゴーレムを構成している魔法式を整理、構築しなおし、さらに効率を上げる。

 ライザの目の前に、ライザがかけた時間の数分の一、それに反し、数倍の大きさのゴーレムを出現させてみせた。

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